第58話 ベインの力
身につけていた黒いローブを脱ぎ捨てたベイン。
ここでようやく体全体を確認することができたのだが、やはりアンデッド種ではないな。
青っぽい肌が人ではないことを表しているが、肌の色を覗けばほぼ人間。
見た目は長髪で中性的な顔立ち。
男だとしたら爽やかさも兼ね備えており、女性から好かれる外見だろう。
そんなベインが握っているのは黒いワンド。
魔法を使うようで、魔力を溜めた後――上空に向かって魔法を唱えた。
「【ファイアーボール】」
豪火球が唸りながら上空へと放たれ、そして一定の位置まで飛んだ後、爆発した。
まぁ極めて普通の【ファイアーボール】。
ただ、その感想を抱いたのは俺だけのようで、ジーニアとアオイは口を開けて驚いていた。
「この【ファイアーボール】ってグレアムさんのと同じ……!」
「グレアムの力を得られたってことなの!? てことは、めちゃくちゃ強くなったってことじゃん!」
「ふふふ、驚くのはまだ早いですよ。【
何やら上空に魔方陣が浮かび上がり、その魔方陣から再び【ファイアーボール】が放たれた。
その【ファイアーボール】は、先ほどとは大きさが桁違い。
上空まで飛ばしたところで、再び爆発させた。
爆発の威力も桁違いであり、かなり離れた位置で爆発させたにも関わらず、熱風が届くほどの超火力。
「この【ファイアーボール】は凄いな。あの魔方陣は魔法の威力を増大させるのか?」
「ええ、そうです。魔王軍の幹部を名乗る者が使っていたのを見て、真似てみたのですが如何でしょうか?」
「魔王軍の幹部……? ベイン、お前……魔王軍の幹部と会ったのか?」
「はい! ご報告するタイミングがなかったのですが、魔王軍の幹部のボルフライと名乗っていた者がこの旧廃道に来ました!」
「ボルフライ……って名前は聞いたことがないな。というか……その姿って、魔王軍の幹部に変化させられたものじゃないのか?」
「いえ、魔王軍の幹部がやってくる前にこの姿になってましたから、確実にグレアムさんに名付けてもらったからです! 先ほども言いましたが、名付けられた翌日にこの姿になりましたから」
名付けただけで姿が変わることに未だ疑問を持っていたのだが、流石に俺が名付けたことで変化を遂げた――で間違いなさそうだな。
それにしても、やはりこの近くに魔王軍の手先の者がうろちょろしていたのか。
フレイムオーガやベルセルクベア、ゴールドゴーレムなんかの一連の騒動の発端は、そのボルフライという奴が行ったことで間違いないだろう。
「ちなみに、そのボルフライという奴はどうしたんだ? その様子じゃ従いはしなかったんだろ?」
「当たり前です! 私はグレアム様に忠誠を誓っておりますので! ボルフライは私の手で倒しました。向こうから攻撃を仕掛けてきましたので、正当防衛でございます!」
ボルフライをどう倒すかを頭の中で考え始めていたのだが、ベインから出た言葉はまさかのもの。
魔王軍の幹部をベインが倒せたことに驚いたのだが、確かにこれだけの力を得たのであれば可能なのか。
「今回の騒動の主犯格は既に死んでいるのか。後はゴールドゴーレムを倒せば解決なんだな。というか……ベインは魔王軍の幹部を殺して良かったのか?」
「もちろんです! グレアム様に仇をなす者は魔王だろうと反抗させてもらいます! それに、魔王軍が私を殺そうと動いたとしても、グレアム様が守ってくれますよね?」
期待の眼差しを浮かべながら、そう言ってきたベイン。
フーロ村を魔王軍から守ってきたし、ここまで信頼してくれるのであればもちろん守るが……。
まさかフーロ村を出ても、魔王軍と絡むことになるとは思っていなかったな。
「戦うことは構わないが、守る約束はできないぞ。ビオダスダールからここまでは距離があるし、俺が到着する前にベインがやられたらどうしようもない」
「そのご心配は無用です! 私もグレアム様のお陰で強くなりましたし、魔王が相手だろうと戦えるだけの力はあると自負しております!」
「その自信がどこから来るのかは謎だが、攻めてきたなら戦うことは約束する」
「ありがとうございます! グレアム様がこう言ってくださったのであれば、魔王軍であろうと何も怖くはありません!」
話がぶっ飛んだ感じがしないでもないが、魔王軍の幹部をやってしまっているんだがら、可能性としては十分に考えられるよな。
色々と話が脱線したが、一度ベインの魔法について話を戻そう。
「ボルフライを倒してしまったことは一度置いておいて……見た目だけじゃなくて戦闘能力も別物だな」
「グレアムさんを見ているようでした! ベインさん凄いです!」
「お褒めの言葉はありがたいですが……ジーニア様、私にさん付けなどいりませんよ?」
「本当に凄いね! こんな圧倒的な魔物が服従してんだもん! まぁ圧倒的にしたのはグレアムだから、当然といえば当然なんだけど!」
ベインの成長には怖さもあるが、アオイの言うように頼もしいと捉えていいのかもしれない。
俺に近しい力を身につけたことは確かだし、模擬戦なんかのいい相手にもなりそうだしな。
魔法に特化しているみたいだから、新しい魔法の開発なんかも一緒にできそうだし……。
何より、この一帯の安全は確保されたと言ってもいいと思う。
さっき懸念した通り、魔王軍が来る可能性も出てきてしまってはいるんけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます