第57話 初めての経験
旧廃道に着くなり、ベインの部下であるゴーストウィザードが出迎えてくれた。
二体のゴーストウィザードは俺に対してペコリと頭を下げると、ベインの下まで案内を始めてくれた。
「改めて凄いですね。魔物がこうして出迎えに来てくれるなんて」
「本当にそれ! 長年冒険者をやっていた私にとっては考えられない光景だもん!」
「俺も未だに信じられていない。ベインみたいな魔物は流石に初めてだったからな」
フーロ村で様々な魔物を見てきたつもりだが、下につくと言ってきた魔物は流石にいなかった。
当たり前だが魔物とは常に敵対していたし、こうして魔物と友好的に接するのはこれが初めての経験。
「ベインさんはアレですけど、ゴーストウィザード達は私達に敵対の意志はないんですかね? 魔物って人間を見たら確実に襲ってくるじゃないですか」
「ありません。ベイン様からグレアム様達には従うように強く言われておりますし、あれだけのお力を見せられて敵対しようなんて気は起きません」
ジーニアの声が聞こえていたようで、急に話し出した一体のゴーストウィザード。
俺達三人はゴーストウィザードが会話ができることに本気で驚き、体を跳ねらせた。
「……言葉を理解できるんだな。話しているところを見たことがなかったから、てっきり話せないのかと思った」
「余計な口を出すなとベイン様から言われておりますので。ただ、敵対の意思はないことは伝えておくべきだと思い伝えさせて頂きました」
「そもそも私は会話できる魔物がいることも知らなかったな! 知能が高いから襲わないって選択もできるの?」
「それは分かりませんが、ベイン様の意志が強いかと思います」
「なるほど。色々と質問したいところだが、余計なことは話すなって言われているだもんな」
ゴーストウィザードは申し訳なさそうにコクリと頷くと、そこからは黙ってしまった。
再び三人で会話をしながらついていくと、いつものゴミ溜まりがあった場所についたのだが――綺麗になっていた。
ギルド長室に続き、ここも綺麗になったのかと驚いていると……。
正面に立っている見知らぬ魔物から強い力を感じ、俺は刀の柄を握る。
旧廃道に入っても強い力を感知できなかったが、姿が見えた瞬間に力を解放した見知らぬ魔物。
力のコントロールができる時点で強者は確定であり、発している力は相当なもの。
……魔王軍の三銃士に匹敵する力を持っているかもしれない。
「お前は何者だ。三秒以内に名乗らないと――斬り殺す」
俺がそう宣言すると、正面にいる魔物は急に慌て始め、両手を上げてから名乗った。
「グレアム様! 私はベインでございます! お忘れになられてしまったのですか!?」
見知らぬ魔物はベインと名乗ったのだが……明らかに別種の魔物。
リッチに進化したとかでもなく、アンデッド種からも逸脱したようにしか見えない。
ベインを騙っているだけの可能性も頭を過ったが、態度や声はベインそのまま。
正直……何が何だか訳が分からない。
「…………本当にベインなのか?」
真偽を確かめるため、俺は俺の後ろに控えているゴーストウィザードに尋ねると力強く頷いた。
……本当にベインのようだ。
「一体何があったんだ? 以前までと別者すぎて判別がつかなかった」
「私も初めての経験ですが、恐らくグレアム様から名前を頂いたことが原因かと思われます! 名前をつけて頂いた時から力に溢れ、一日眠ったところこの姿に変貌しておりました!」
名前をつけただけで別種のように生まれ変わる?
聞いたことがないし、あまりにもとんでも話すぎて信じられない。
「それじゃ俺のせいでベインはこうなったと?」
「ベイン様のお陰でございます! すぐにでもご報告がしたかったのですが、街には来るなと強く言われておりましたので、こうして大人しく待っておりました!」
その判断は正しかったと思う。
街に来られていたら、ベインと判断できずに殺していた可能性があった。
それにしても違和感が凄まじい。
アンデッドだったはずのベインが、人間に近しい姿になっているんだからな。
目をキラキラと輝かせて俺を見ているし、視線がむず痒く感じる。
「……とりあえずベインだと言うことは理解できた」
「ありがとうございます!」
「色々と他に質問があったのだが……ベインのその状態について気になり過ぎるな。ジーニア、アオイ。話が脱線するけど大丈夫か?」
「もちろんです! 私も気になりますから」
「全然大丈夫! ベインが強くなったのは私でも分かるし、私はどれくらい強くなったのかを見たい!」
「隠し事なしで全てお見せ致します! 私もグレアム様のお役に立てる力がついたのか気になりますので」
ベインは楽しそうに笑うと、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
話の前に、ベインがこの姿に変わってどれくらいの力をつけたのか。
まずはそれを見せてもらうことになりそうだな。
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