第56話 金の使い道
完全に手詰まった感があり、しばらく無言の時間が続く。
そんな重い沈黙を破ってくれたのはギルド長だった。
「…………もう普通にグレアムさんが慈善事業を行えばいいんじゃないか? アオイが先ほど話に出していた孤児院を開いてみるとかな」
「いいじゃないですか! グレアム孤児院! 私は大賛成ですよ!」
「他の選択がないなら選択肢の一つとして考えるべきだよな。名前は絶対に入れたくないが」
「孤児院を開くって凄いな! まぁグレアムならできちゃうか!」
「いや、未だに何にもビジョンが見えていないぞ。それにいきなり始めるって言って始められるものじゃないだろ?」
「その点は心配いらない。俺が後ろ盾になるからな。グレアムさんが思っている以上に、冒険者ギルドのギルド長というのは権力や信頼を持っている」
情緒不安定のド変態としか思えていなかったが、ここに来て初めてギルド長がちゃんとした人に見えている。
腐ってもギルド長ということか。
「そういうことなら、ギルド長に頼りながらになるが孤児院を開くつもりで動く。ちなみに何が必要になる?」
「まずは土地と建物の購入。施設職員を見つける。後は職員への給料や運営費。つまるところ大量の金だな」
「今回貰った金じゃ足らないのか?」
「ああ、足らないな。五倍くらいの額を用意できて、初期費用として十分な額と言える」
大金を手にしたと思ったのに、この五倍も必要になのか。
こうなってくると、重力魔法で潰したバーサークベアからも剥ぎ取るべきだった。
ビオダスダールの街の近くにいる目ぼしい魔物で残っているのはゴールドゴーレムだけだし、今回のように剥ぎ取って売っても足らないよな。
オーガ達を考えなしに焼き払ったのも、大きな痛手かもしれない。
「金がとにかく足らない。強い魔物がいれば狩りに行くんだが、そう簡単に現れるものでもないからな」
「まぁ、別にそう焦ることじゃない。善行で得た金の使い道を決めただけであって、今すぐにやらなければいけないって話でもない。土地や建物を探すのにも時間がかかるし、施設職員だって簡単には見つからない。メインは冒険者として動きつつ、ゆっくり進めていけばいい」
ギルド長にそう諭され、かなり冷静になることができた。
メインは冒険者。時間が空いたときに善行をし、もし善行でお金が手に入ったら、孤児院の運営費にプールしていく。
ジーニアやアオイも巻き込んでいる訳だし、あまり根を詰めすぎないようにしないとな。
「そうだな。一度冷静になれた。それにしても今日は助かった。ギルド長に相談して正解だったな」
「ですね! 私達だけじゃ絶対に出なかった案だと思います!」
「そんなことはないと思うが、とにかく今後も何かあれば相談してくれ。前にも言った通り、ギルド長としてできることはやらせてもらう」
「本気で心強い。これからもよろしく頼む」
「任せてくれ。とりあえず俺の方で土地と建物については調べておく」
ギルド長と固い握手を交わしてから、俺達はギルド長室を後にした。
何だか怒涛の展開だったな。
「一気に話が進みましたね! 危険な魔物を倒しつつ、得たお金で孤児院の運営。まさに善行ってかんじですね!」
「ああ。魔物を倒すだけで善行というのは、少し疑問に感じていたからな。ギルド長が道を示してくれた気がする」
「街に向かってきていた危険な魔物を倒したのは、十分に善行と言えると思うけどなぁ! グレアムの強さがおかしいだけで、緊急依頼として張り出されても受ける冒険者は少なかったと思うし!」
「そうなのか? その辺はまぁ感覚の違いだな」
俺はフーロ村で当たり前のように行っていたのが大きいと思う。
冒険者という概念がなかったし、魔物から街を守るのが日常だったからな。
当たり前のように報酬だって貰っていなかったし、善行という認識が薄い。
「それでこれからどうするの? また善行で魔物討伐?」
「いや、一度旧廃道に行ってベインに会いに行こうと思っている。ベインから情報を貰ってから、明日シルバーゴーレムの群れを倒しに行く予定だ」
「明日、シルバーゴーレムと戦うんですか……! 一週間前にバーサークベアと戦ったばかりで、ペースがかなり早いですね」
「私は望むところだけどね! 前回は不甲斐なかったし、今回はバッチリ決める!」
「ああ。二人には期待している」
まだ一週間しか経っていないし大きな成長はしていないだろうが、何かを試しているようだったし、二人がどう工夫してシルバーゴーレムと戦うのか非常に楽しみ。
俺は俺で、ゴールドゴーレムをどれだけ綺麗な状態で倒せるかを考えておこう。
綺麗に残っていれば残っているほど、素材は高く売れるだろうからな。
そんな明日のことを考えながら、俺たちはビオダスダールの街を離れて、ベインに会いに旧廃道へと向かった。
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