第三章

第52話 休養日


 バーサークベアの群れの討伐から一週間が経過。

 この間は依頼をこなしており、ヘストフォレストでの探索からの落差を感じつつも、楽しい毎日を送っていた。


 依頼はお気楽に、善行は気合いを入れてというバランスも取れており、上手い具合に回すことができていると個人的に思っている。

 そして――今日は久々の休養日。


 明日はギルド長に呼び出されているため、冒険者ギルドに行った後、旧廃道に行ってベインから報告も兼ねて色々と聞きに行く予定。

 ベインからの情報次第になるが、その翌日は善行としてシルバーゴーレムを狩る予定となっているため、今日を急遽休養日にした。


「あっ、グレアムさん! おはようございます!」


 休養日ということもあり、久々に一人で買い食いからの昼飲みをかまそうと思っていたのだが、未だ安宿に泊まっているという情報を聞きつけたジーニアに言われ、二人で宿探しを行うことになった。

 そのため休養日なのにも関わらず、こうしてジーニアと待ち合わせをしている。


「もう来ていたのか。俺も集合時間よりは早めに来たつもりだったんだけどな」

「グレアムさんと街を回れるって思ったらソワソワしちゃいまして……早めに来てしまいました!」

「楽しみにしていてくれたなら嬉しいが、休養日におっさんに付き合わせて悪いな」

「いえいえ! そもそも私が提案したことですし、本当に楽しみにしていましたから! それじゃ時間がもったいないので、早速行きましょう!」


 申し訳ない気持ちがありながらも、俺はジーニアについていくように中央通りに向かって歩き出した。

 それにしてもいきなり中央通りか。


 宿屋はかなりの数があるものの、栄えている場所だけに候補から外していた場所。

 値段にもよるが、安ければもちろん中央通りがいいのだが……。


「まずはご飯を食べましょう! グレアムさん、朝食は食べてないですよね?」

「食べていないが、宿の前にいきなりご飯を食べるのか?」

「一日の始まりは食事からです! それに行きたかったケーキ屋さんがあったので、朝食はケーキ屋さんでいいですか?」

「付き合ってもらっている立場だから何処でも構わないが……宿屋探しはちゃんとするよな?」

「もちろんですって! しっかり下調べもしてありますから! それじゃケーキ屋さんにレッツゴーです!」


 甘いものは好物なので嬉しいが、いきなりご飯というのは少し不安になってくる。

 まぁジーニアのことだし、無用な心配だと思うが。


 軽い雑談を行いながら、辿り着いたのはお洒落なケーキ屋さん。

 俺一人では絶対に入れない店構えであり、実際に並んでいる人は全員女性だ。


「凄いお洒落なお店だな。それに朝なのに並んでいるのか」

「朝だからこれぐらいで済んでいますけど、お昼頃からは大行列になるんですよ! なので、このお店に来るのを一番最初にしたって感じです!」

「なるほどな。朝しか食べられないお店なのか。あと……俺が入っても大丈夫なのか?」

「もちろんです! さあ、並びましょう!」


 少し居心地の悪さを感じながらも、並んで待つこと約十分。

 店内へと通され、窓側の席に案内してくれた。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」

「本日のケーキと紅茶をお願いします」

「俺も本日のケーキと……このくるくるしたパン。それからコーヒーをお願いしたい」

「本日のケーキがお二つとクロワッサン。それからお飲み物が紅茶とコーヒーですね」

「はい! よろしくお願いします!」


 お洒落な店員さんに注文を済ませ、ソワソワしながら待っていると、すぐに注文した料理が運ばれてきた。

 見るからに美味しそうなケーキと、焼きたてのクロワッサンと呼ばれていたパン。

 居心地の悪さなんかふっ飛び、早く食べたくて唾液が口の中に溜まっていく。

 

「ビオダスダールで一番のお店なだけあって、流石のクオリティですね! 早速食べましょうか!」

「ああ、もう食べたくて仕方がない。いただきます」


 食前の挨拶を済ませてから、俺は色とりどりの果物が乗った真っ白なケーキを口にいれた。


「うんまぁ……。なんだこの美味しいケーキ」


 つい口から言葉が漏れてしまうほど、美味すぎるケーキ。

 白いのは生クリームかと思ったのだが、チーズっぽい味がしており、甘さ控えめな分上に乗っている果物との相性が抜群。

 全てが計算され尽くされたような味に感動すら覚える。


「本当に美味しいですね! グレアムさんも喜んでくれたみたいで良かったです!」

「今まで食べた甘いものの中でダントツで美味しい。一人じゃ絶対に来ることができない店だったから、紹介してくれたジーニアには感謝だ」

「ふふふ、ここまで喜んでくれるとは思っていませんでした! また休養日は一緒に来ましょう!」

「ああ、是非誘ってほしい」


 あっという間にケーキを平らげ、俺だけ注文したクロワッサンも食べ終えた。

 クロワッサンもバターの旨味が包み込まれており、満足度の高すぎるお店だったな。


 食後のコーヒーも心が落ち着く味わいだし、本当に過去最高の朝食だったと思う。

 これは……色々と疑ってしまっていたジーニアにしっかり謝らないといけないな。

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