閑話 ベイン、待ち焦がれる
グレアム様からベインという名前を授かってから、私の世界は一気に広がった。
一刻も早く進化した私のこの姿を見てもらいたいのだが、グレアム様に一向に現れる気配がない。
「私の方からグレアム様に会いに行くべきか……? この体になった報告もした方がいいだろうし、直接会いに行った方がいいのかもしれない!」
自分に言い聞かせるように口に出してそう言ってみたはいいものの、すぐにグレアム様から来るなと言われたことがフラッシュバックし思い留まる。
ここ最近はずっとこれの繰り返しであり、今にでも来てほしいのだが――そんな私の願いは届かず顔を見せてくれない。
勝手に一人落ち込んでいると、慌てた様子のゴーストウィザードが姿を見せた。
慌てている……ということは、グレアム様が来た可能性が高いか?
ほんの数秒前までは落ち込んでいたのだが、すぐに気持ちを切り替えた私はゴーストウィザードに食い気味で話を尋ねた。
「グレアム様が来たのですか!?」
「い、いえ、違います。ただ、凄い魔物が旧廃道に姿を見せました!」
「……はぁー、違うんですか。凄い魔物……? ベルセルクベアかゴールドゴーレムですか?」
グレアム様ではないという情報だけでテンションはガタ落ちし、もうやる気も起きなかったのだが、ベルセルクベアかゴールドゴーレムならば役に立つことができる。
そう思い直し、ゴーストウィザードに質問を返した。
「どちらでもないですが……それ以上の魔物です! 実は魔王軍の幹部と名乗る魔物がやってきたんです!」
魔王軍の幹部。
その言葉を聞き、落ち切っていたテンションが高くなっていくのが分かる。
ベルセルクベアやゴールドゴーレムよりも、この魔王軍の幹部を仕留めた方が私の評価が上がる。
こんな良い機会はないため、ここでやり合わないにしても情報ぐらいは得ておきたい。
「魔王軍の幹部ですか。それならば一度会っておきたいですね。フレイムオーガ、ベルセルクベア、ゴールドゴーレムを生み出したと言われているお尋ね者。グレアムさんの敵であるならば、私がこの手で仕留めます」
「旧廃道の入口でお待ちしておりますので、入口まで行ってもらって大丈夫ですか?」
「もちろんです。【
私は転移の魔法を使用し、一気に旧廃道の入口まで移動する。
この魔法もグレアム様から名付けてもらってから会得した魔法であり、大量の魔力を消費することで一瞬で移動することが可能になる魔法。
旧廃道の入口に転移すると、私のアンデッドの下僕と共に待っていたのは――魔人族。
パッと見では人間そのものなのだが、額に紋章のようなものが描かれているのが魔人の特徴。
この魔人は上裸であり、鍛え抜かれた筋肉を見せつけるような恰好。
魔力量も半端ではなく、グレアム様と出会う前の私ならば即座に降伏していただろう。
「わざわざ来て頂きありがとうございます。私がこの旧廃道の主のベインと申します」
「ベインか。他の主とは違って名前持ち。それに放っている圧も桁違いじゃねぇか」
「お名前をお伺いしてもよろしいですか? それとも名前をお持ちではないのですか?」
「アンデッド風情が、一々刺のある言い方をしてくるな。俺様の名前はボルフライ。魔王軍の幹部を務めている。お前達も傘下に加えてやるという提案をしに来た」
ふーむ、態度も口も悪い。
グレアム様どころか私にすら及んでいない力しか持っていないのに、傘下に下れと言えるのは面白いですがね。
「……何を笑ってやがる」
「まず、傘下に下ることはありません。魔王軍にも興味がありませんので。ですが……そうですね。私に土下座をするのであれば、あなたを私の下僕にさせてあげますがどうしますか?」
そう提案すると、ボルフライと名乗った魔人のこめかみに欠陥が浮き出た。
抑えていたであろう殺気も漏れ出始め、近くにいた私の下僕達はプルプルと震えだしている。
「アンデッドの下僕……だと? 面白くもねぇ冗談だな。まさかアンデッドだから死ぬことはねぇと高を括っているんじゃねぇだろうな?」
「そんなそんな。つい最近、伸びきった鼻を木っ端微塵にへし折られたばかりですから、そんな傲慢な考えは持っておりません。――ただ、ボルフライさん。あなたに殺されることだけは絶対にありえませんね」
「その考えが舐め腐っているって言ってんだよ! この辺りで強いからって世の中を舐めすぎだ――アンデッドォ! 【
そう叫んだ後、空中に無数の魔法陣が浮かび上がった。
魔法陣からはどんな魔法か読み取ることはできないが、どんな魔法を使ってきたところで対応できる自信がある。
「【
詠唱が聞こえた限りでは全て肉体強化魔法。
かなり魔力を持っていたからどんな魔法を使ってくるか楽しみにしていたのだが、見た目通りの脳筋だったみたいで少々残念。
魔法でも攻撃を行いながら、近接戦でも攻めてこられていたら、少しは楽しめたと思うんですけどね。
心の底からガッカリした気持ちになりつつも、向こうから攻撃を行ってきたためこちらも魔法を発動させる。
「【
残っていた全ての魔力を費やし、迫ってくるボルフライに向けて魔法を発動。
次の瞬間――ボルフライの立っていた場所からドス黒い大炎が立ち昇り、周囲の木々ごと一気に焼失した。
魔法に巻き込まれた木々を一瞬にして墨へと変え、その中心にいたボルフライの姿は欠片も残っていない。
どんなに肉体を強化させようが、圧倒的な魔法の前には無力でしかない。
魔王軍の幹部すらも一発で仕留めてしまうほどの力を手に入れたことに、笑いが止まらない。
……ただ、この力は全てグレアム様のもの。
そのことだけは自分に強く言い聞かせ、圧倒的な力を前にして忠誠心を強く持つ。
そこで、今更ながら跡形もなく消してしまって良かったのかどうか考えてしまうが……やってしまったものは仕方がない。
グレアム様には全て報告するとして――早く会いに来てくれないだろうか。
回り回って再び最初の気持ちに帰結したベインは、グレアムがやってくるのを旧廃道にてひたすら待ち続けたのだった。
――――――――――――――
お読み頂きありがとうございます。
閑話 ベイン、待ち焦がれる にて第二章が終了致しました。
そして、皆様に作者からお願いです。
現時点でかまいませんので、少しでもおもしろい、続きが気になる!
――そう思って頂けましたら!
フォローと、レビューから☆☆☆をいただけると嬉しいです!!
二章以降も、頑張って執筆していこうというモチベ向上につながります!!
お手数お掛け致しますが、よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ
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