第51話 祝勝会


 ヘトヘトの状態を連れて、何とか怪我なくビオダスダールの街まで戻ってくることができた。

 ちなみに帰りに遭遇した魔物は全て俺が斬り飛ばし、ギルド長が剥ぎ取りを行ってくれた。


 戦闘は一度も行っていないものの、流石は冒険者ギルドのギルド長なだけあり、一切疲れた様子を見せていない。

 元A級冒険者と言っていたし、相当場慣れしているのが一日一緒にいてよく分かった。


「それじゃグレアムさん。俺は仕事が残っているから冒険者ギルドに戻らせてもらう」

「これから祝勝会を行おうと思っていたんだが、ギルド長は来られないのか」

「行きたいのは山々なんだが、全ての仕事を放り出してついて来たからな。流石に仕事をしないとまずい。また別の機会にぜひ誘ってほしい」

「分かった。別の機会があるか分からないが、その際は誘わせてもらう」

「ああ。とにかく今日は本当に良い体験をさせてもらった。この恩はきっちりと返させてもらう。魔物の素材の売却に関しても、俺の方でちゃんとやっておくから期待していてくれ」

「よろしく頼んだ」


 ここから更に仕事があるというギルド長とは早々に別れ、俺達三人だけとなった。

 ギルド長にも言っていた通り、話では祝勝会をやる予定だったはずだが……二人ともヘトヘトだからな。

 結構な立役者だったギルド長が来れないことを考えても、また別の機会にしてもいいかもしれない。


「二人はどうする? 今にも寝そうだし、今日は解散にして祝勝会は別日にするか?」

「……いえ! 祝勝会は今日やりたいです! 明日からは今日の反省を生かして切り替えたいので」

「ジーニアの意見に同意。今にも倒れそうだけど祝勝会となったら話は別! 酒場につけば元気になるから――グレアム背負って!」

「祝勝会をやることは分かったが、背負うのは嫌だ。とりあえず一度帰ってシャワーを浴びてから、酒場に再集合って形でいいか?」


 いつものように綺麗なままならこのまま直行でも良かったのだが、今回は割りと深い森に入ったためかなり汚れている。

 酒場の店主のカイラにドヤされないためにも、一度綺麗にしてから酒場に向かいたい。


「いいけど……帰ったらそのまま寝ちゃいそう! ジーニアについていっていい? シャワーだけ貸してほしい!」

「大丈夫ですよ! ……といっても、私の家じゃないんですけど」

「やったー! じゃあ私とジーニアは先に酒場にいると思うから、綺麗にしたらすぐに来て!」


 こうして二人とも一度別れ、俺は安宿に戻って着替えることにした。

 荷物を一度部屋に置き、共用のシャワーで体を洗い流す。


 冷たい水しか出ないシャワーを浴びて、身も心もスッキリとした気持ちになった。

 ……ただ、そろそろもう少し良い宿に変えてもいいかもしれない。


 Eランクの依頼も楽にこなせているし、金をそこそこ貯まってきたしな。

 狭くて汚いが部屋の居心地自体はかなり良いのだが、やはり共用のシャワーしかなく冷たい水のみというのは厳しい。

 そんなことを考えながら着替えも済ませた俺は、二人の待つ酒場に向かった。


 早い時間ということもあり、店の中には他の客の姿がまだない。

 ジーニアとアオイは既に席についており、疲れた表情をしながらも俺を見つけた瞬間に手招きして呼んだ。


「グレアムさん、こっちですよ!」

「おそーい! 何も頼まずに待っていたんだから早く!」

「頼んでくれても良かったんだけどな」


 席に座り、早速店主のカイラを呼んで注文を行う。

 カイラは俺を見るなり笑顔になったことで嫌な予感がするが、ジーニアがお世話になっているため何も言えない。


「おー! 今日はグレアムもいるのね。どう、少しは笑顔が上手くなった?」

「上手くなる訳がない。冒険者やっていて、笑顔になるタイミングなんてないからな」

「え? そうですか? グレアムさん、戦闘中は結構笑顔なイメージありますけどね」

「確かに! というか、さっきも笑ってたけど!」


 ……ん? そうなのか?

 確かにたまに口角が上がる時があるが、笑顔ってイメージは自分の中でなかった。


「そうなのか? 自分では全然気づいていなかった」

「へー、戦っている時は笑うのね。どう? ぎこちない笑顔なの?」

「いえ、全然! 自然な笑顔ですから、意識するのが駄目なのかもしれません!」

「意識しないで笑う……難しいな」

「ちなみにだけど、ジーニアも戦闘中に笑うけどね! バトルエイプの時なんか怖いぐらいの笑みだった!」

「いやいや、絶対にそんなことないです! 真剣そのものですし、グレアムさんと違って笑う余裕なんてないですもん!」


 アオイのそんな言葉に全否定しているジーニア。

 俺目線でも完全に笑っているように見えたし、戦闘中は意外と笑ってしまうのかもしれない。

 そして自分でも気づかないっていうのも、あるあるなのかもな。


「いや、結構笑っているぞ? バトルエイプの時は返り血を浴びながらだったから、ちょっと怖かったぐらいだ」

「……えっ!? ……私、本当に笑っているんですか?」

「こんな嘘つかないって! 笑っちゃうところは師匠譲りってところか! 私も笑うように意識しようかな?」

「ちょっとショックなんですが……。確かに集中し切ると楽しくはなっていましたけど」


 笑顔の話題で一盛り上がりしていると、カイラがパンッと手を叩いて話を止めてきた。


「はい! 盛り上がるのは注文してからにして頂戴!」

「いや、カイラから話を振ったんだろ」

「文句は受け付けません。ほら、どんどん注文して」


 急かされるまま注文を行っていき、俺はとにかく酒を注文。

 料理に関してはジーニアに全任せし、そしてバーサークベアの群れ討伐の祝勝会が始まったのだった。


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