第50話 決着
さっきのバーサークベアとの戦いが未消化だった分、思いっきりぶっ放すことができて非常に気分が良い。
胸が透くような気持ちだったのだが、今更ながら後ろでギルド長が見ていることを思い出し、これから面倒くさいことになることに気がつく。
俺は顔を歪めながら振り替えると、ポカンと口を半開きになっている三人の顔が目に入った。
もっと騒ぎ出すかと思っていただけに、予想外の反応だな。
「……………………ちょ、ちょっと――な、何が起こったんですか? ま、まばたきしていなかったのに、いつの間にかグレアムさんがベルセルクベアの所に移動して……へ?」
「お、俺も全く分からなかった。目をかっ開いていたはずなのに、気づいたらベルセルクベアが死んでいた」
「私も全く同じ! 一瞬で光景が変わりすぎて、私が気絶しちゃったのかと思ったんだけど、気絶してた訳じゃないよね!?」
ワンテンポ遅れて興奮し始めたが、どうやら第三者視点で見ていた三人も目で追うことができていなかったらしい。
唯一、ジーニアだけがギリギリ見えていたみたいだが、何をやったかまでは見えなかったようだ。
「普通に移動して殺しただけだ」
「ふ、普通って何ですか!? 普通ではなかったことだけは確かです!!」
「い、いや今のはおかしい。無属性魔法。重力魔法? 時を止める魔法でもあるのか? い、いや、神でもない限り時を止めることはできないはず! 理解ができない!!!」
髪の毛を掻きむしり始めたギルド長。
別の意味でうるさくはなったが、泣かれたりキラキラした目で見られるよらかはマシだな。
「流石に時は止めていない。ジーニアは僅かだが見えていただろ?」
「移動した瞬間だけでしたけど……ほとんど見えていませんよ!」
「ということは、俺はこんな特等席で見ていたのに見逃してしまったのか……! ぐ、グレアムさん! 頼む、もう一度だけ使ってくれ!」
「無理だ。無駄に魔力を消費したくないし、体の方も普通に限界だからな」
面倒くさいということもあるが、実際に右足がビリビリときているし、もう一回使ったら完全に痛めてしまう。
まぁそれも回復魔法を使えばいいんだが……うん、普通に面倒くさい。
「うっ、くっ……。これほど後悔したことは人生で初めてだ。ま、またいつか機会があったら見せてほしい! この通りだ!」
「土下座はやめてくれ。機会があれば見せる」
「グレアムさん、本当にありがとう! ……グレアムさんに出会ったのが老い切る前で本当に良かった。何だか俺も……もう一度だけ飛べるような気がしてきている」
ギルド長は妙にスッキリとした表情を見せ、小さくそう呟いた。
「ですよね! 私もグレアムさんには刺激をもらってばかりです! 同じ域に到達することは不可能かもしれませんが、人でもここまでやることができると分かるだけで、ワクワクしてくるんです!」
「私も! 付きまとって良かったし、盗める技術は全部盗んで絶対に強くなる!」
「みんなして何を言ってんだ。ここから帰らなくちゃいけないんだし、さっさとバーサークベアとベルセルクベアの耳だけ剥ぎ取って帰るぞ」
何故か気合いを入れている三人にそう伝え、率先して剥ぎ取り作業を行う。
今回は依頼ではないため、この作業は特にいらないと思うんだが、討伐したということをベインに伝える時にあって損はない。
「バーサークベアの大半はぺっちゃんこですね」
「改めてみると、めちゃくちゃグロテスク!」
「サンプルとして持って帰りたいが、流石に無理だよな」
「もう少し加減するべきだったか。ギルド長、ベルセルクベアの素材って何かに使えるのか?」
「そりゃもちろん! 毛から肉まで使えると思うが、一番需要あるのはは牙と爪だろうな。確実に高値で売れる」
なるほど。
そういうことなら、牙と爪も剥ぎ取っておき、売れるなら売ってしまおう。
売って得た金は寄付、もしくは善行に使うとして、このまま自然に還すなら有効活用するに越したことはない。
「素材を売るっていうのもあるのか。道中でジーニアとアオイが狩った魔物の素材も剥ぎ取っておけば良かったな」
「剥ぎ取りは時間がかかるし、今回はスルーで正解だったはず。とりあえずベルセルクベアとバーサークベアの素材は、俺がちゃんと売り捌かせてもらう。無駄に目立つこともなくなるだろうし、グレアムさん的にもいいだろう?」
「ああ。ギルド長なら安心だから、売却の方はよろしく頼む」
「本当に良い経験をさせてもらったからな。これぐらいのことなら喜んでやらせてもらうし、今後市場では出回らないような魔物の素材を売りたい時は遠慮なく言ってくれ」
この提案は非常にありがたい。
売るにしてもEランク冒険者である俺と、冒険者ギルドのギルド長が売るのとでは全然違うからな。
とりあえずこれでヘストフォレストでの目標も達成したし、後は無事にビオダスダールの街に戻るだけ。
帰りの道中も魔物には襲われるだろうし、力を使いきっている二人を守りながら、慎重且つスピーディーに森を抜け出るとしよう。
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