第49話 最速
この場所に踏み込んだバーサークベアを、全て【
普通の魔物よりも知能が低いのか、何の対策もしてこないため本当に流れ作業のように次々と屠ることができている。
「あまりにも簡単に倒してしまうので、バーサークベアが弱いのではと錯覚してしまいます……!」
「こんなに簡単に倒せたら、人生楽しいんだろうなぁって思うよね! 私だったら強さを自慢しまくって、街の中を肩で風切って歩くんだけど!」
「俺も同意見だ。有名になりたいがために冒険者になって、必死で力をつけていたからな。これだけの力を持って目立ちたくないという思考に至るのが理解できない。……いや、そういう思考だからこそ、これだけの力を持つことができたのか?」
何やら後ろで変なことを話している三人。
俺の基準では、バーサークベアはそう大した魔物ではないんだけどな。
フーロ村の近くにはこれぐらいの魔物がゴロゴロと居たし、攻め込んできた魔王軍の魔物は桁違いに強かった。
この程度で褒められるということに変な感覚になりつつも、最後のバーサークベアを圧死させ――いよいよ最後尾を進んできていたベルセルクベアが姿を現した。
体の大きさはバーサークベアよりも一回り小さく、全長四メートルほど。
灰色の体毛に対し、闇に近い漆黒の毛を生やしているベルセルクベア。
一番特徴的なのは爪だろうか。
赤黒い長い爪には魔力が帯びており、その凶悪な爪から死臭が漂っている。
「こ、これがベルセルクベア……。バーサークベアよりも小さいですけど、纏っている雰囲気が桁違いです」
「俺もこれだけの圧を感じる魔物は初めて見た。……ただ、何でだろうな。こんな凶悪な魔物を前にしても、グレアムさんが負ける姿が一切想像できない」
「それはバーサークベアを片手間の作業みたいに殺しまくったのを見てるからでしょ! 私はもうどんな相手だろうとグレアムが負ける姿が想像できないし、逆にグレアムの左腕を奪った奴が気になってしょうがないもん」
「それに関しては俺も全く同じだ!! グレアムさんはエンシェントドラゴンに奪われたと言っていましたが、そもそもドラゴンですら目撃情報がほとんどない伝説の魔物! そんなドラゴンたちのトップに君臨していたエンシェントドラゴンがどんなものなのか元冒険者としては――」
「うるさい。ちょっと静かにしててくれ」
ベルセルクベアに良い感じに集中できていたのだが、ベラベラと話し出したギルド長の声で完全に集中が削がれた。
一喝して黙らせてから、再び集中し――魔力を全身に纏わせる。
ベルセルクベア相手にも、これまでと同じように無属性の重力魔法で戦っていく。
ただ、今回はベルセルクベアに使うのではなく、俺自身に重力魔法を使って戦う。
「【
この魔法は自分がかかっている重力を減らすことで体が羽が生えたかのように軽くなり、自由自在に動き回ることが可能になる。
元々俺に追いつける術を持っていなかったベルセルクベアだったが、これで完全に俺を捉えることができなくなった。
反応できていない相手を一方的に攻撃しながらも、俺はもっと上のスピードを目指したくなってきてしまう。
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ちなみにフェンリルロードを仕留めたのはこの魔法を使用してであり、久しぶりにあの感覚を思い出した俺は、いてもたってもいられなくなってしまった。
これは俺の悪い癖であり、一度気持ちが昂ってしまうと抑えられなれなくなる。
特に戦闘ではその性格が顕著に表れ、オーガ戦でも無駄に派手な魔法をぶっ放したからな。
今回も無駄。そう頭では分かっているのだが――体を止めることができない。
一方的に攻撃していた手を止め、俺は再び距離を取って魔力を練り込む。
これは完全なる俺の道楽であり、久しぶりに体が最速を求めたために使う魔法。
「一方的に攻撃していたのにどうしたんでしょうか?」
「常人には何も分からないが、笑顔ってことはアクシデントではないだけは分かる。ここから何が見れるのか――見る前から鳥肌が止まらない!」
後方で声が聞こえるが、耳から耳へと抜けていって頭に入ってこない。
理性と本能が葛藤しながらも、あっさりと勝った本能に身を委ね――魔法を発動。
「【
俺が生み出した魔法による雷が体を駆け巡り、強力な負荷がかかったことで自分の体とは思えない速度で動くことが可能となる。
足の筋繊維が切れる音が聞こえてくるが、構わずベルセルクベアの懐に飛び込む。
「【
そんなベルセルクベアを見て、更に気分が高揚していくのを感じながら、土手っ腹に拳を叩き込み――。
「【
同時に体に流していた魔法をぶっ放し、ベルセルクベアを仕留めた。
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久しぶりに割と本気で戦えたことに満足しながら、俺は倒れていくベルセルクベアを見守った。
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