第53話 新しい宿
ケーキ屋を後にした俺たちは、今度こそ宿屋探しを行うことになった。
美味しい朝食を食べたことで非常に気分がよく、軽い足取りでジーニアと共に街の東側を目指している。
「いや、本当に美味しかったな。改めて連れてきてくれてありがとう」
「いえいえ! 私が付き合ってもらった形ですし、グレアムさんにここまで喜んでもらえたのは予想外でした!」
「嘘偽りなく、今までで一番の朝食だったな」
「甘いものがお好きなんですね! 別でオススメのケーキ屋さんや、行ってみたいケーキ屋さんもあるので一緒に行きましょう!」
「ああ、是非行ってみたいな」
先ほどのケーキ屋についての感想を言い合っていると、あっという間に街の東地区に辿り着いた。
ちなみにエルマー通りがあるのが、この東地区。
この辺りは宿泊費の安い宿屋がいくつもあり、俺も宿を移すならこの辺りだと思っていたからありがたい。
ジーニアは入念に下調べをしてきてくれたようで、コストパフォーマンスの高い宿屋を紹介してくれるようだ。
「まず一軒目の宿屋がこちらです! 名前は『椿屋』と言いまして、トイレとシャワーが部屋に備え付けてありまして、一泊銀貨一枚とリーズナブル。それからなんといってもエルマ通りから近いです!」
「銀貨一枚でトイレとシャワーが部屋についているのか。部屋の大きさはどんな感じなんだ?」
「結構広いですよ。事前に聞いたところ中を見せてくれるとのことですので、早速部屋を見てみましょう」
段取りが完璧だな。
ジーニアと一緒に宿屋を回るだけーーというイメージをしていたのだが、想像していた何倍もしっかりと調べてくれていた。
ジーニアは店主のおじいさんと何やら話をした後、すぐに部屋の鍵を受け取った。
そのままジーニアに案内されるがまま部屋に入り、早速部屋の確認を行う。
「グレアムさんどうですか? 結構広い部屋ですよね?」
「ああ、十分すぎるぐらい広いな。こっちがトイレでシャワーか。トイレとシャワーが別々なのもかなり嬉しい」
「寝床はベッドですし、テーブルと椅子。それからクローゼットもあります!」
「設備は申し分ないな。これで銀貨一枚……。正直、もうここで決めたいくらいだ」
「ただ、食事が一切ついてきません。それが唯一ネックな部分ですね」
「食事は自分で用意するから特に気にならない。安宿でも食事は出なかったしな」
一発目から完璧な宿屋を紹介してもらった。
まだ他にもオススメの宿屋を用意さてくれていそうだが、俺はここで決めてしまって良いと思ってしまっている。
「それじゃ……ここに決めてしまいますか?」
「ジーニアが大丈夫なら、ここで決めてしまいたいが……他にも宿屋の情報を集めてくれているんだろ?」
「集めはしましたが、無駄に見る必要はないですから! それにエルマ通りから近いこの宿屋にグレアムさんが泊まってくれたら嬉しいですので!」
「そうか。ジーニアが構わないというなら、この宿で決めさせてもらう」
まさかの一軒目で決めてしまったが、あまりに良すぎる宿屋だったからな。
値段も今宿泊している安宿と比べたら三倍くらいの額だが、今の宿が安すぎるだけだし銀貨一枚なら余裕で許容範囲内。
早速、店主のおじいさんに宿泊先に決めたことを伝えてから、俺たちは『椿屋』を後にした。
後は安宿に出ることを伝え、荷物を運び込めば引っ越しは完了。
荷物も少ないし、もうジーニアに手伝ってもらうことがなくなってしまったな。
「まさかの一軒目で決まって良かったです!」
「全部ジーニアのお陰だ。こんなに早く目的を達成してしまって悪かったな」
「謝ることじゃありませんよ! それに……早く終わったってことは自由な時間が出来たってことですよね?」
「ん? 宿探しを一日行うつもりだったから俺は暇だが、他に行きたいところでもあるのか?」
「はい! 戦闘用の道具とか、防具や装備品……それから剣も新調したいと思ってましたので、よければ付き合って頂けませんか? グレアムさんの助言があれば心強いです!」
「美味しいケーキ屋に宿屋探しまで手伝わせたからな。もちろん俺でよければ付き合うぞ」
「やったー! ありがとうございます!」
ジーニアは満面の笑顔を見せて喜んでくれた。
こんなおっさんと買い物をしてもつまらないと思うのだが、こうして喜んでくれると素直に嬉しい。
「買うとしたら中央通りか?」
「ですね! また戻る形になってしまいますが、早速向かいましょう!」
元気いっぱいのジーニアについていき、俺はジーニアの買い物に付き合った。
戦闘用の道具を扱っている店や、装備品を扱っている武具店なんかは俺にとっても新鮮だったし……何よりジーニアとの買い物が単純に楽しい。
ケーキ屋から始まり、新しい宿屋決めに買い物巡り。
ジーニアのお陰で最高の休養日を過ごすことができたな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます