第45話 バトルエイプ
ギルド長が心配そうに見つめる中、まず動き出したのはアオイ。
バトルエイプにクナイを投げつけると、クナイの持ち手の部分に巻き付けていた粘着性のある糸で一気に縛り上げた。
巻き取られた形となったバトルエイプを無理やり二体から引き剥がし、アオイは一対一となる形をあっという間に作り出してみせた。
このよく分からない小道具の扱いといい、ここまでのスムーズな動きは流石Bランク冒険者と言える。
ジーニアの方は数的不利という状況も相俟って、二体の出を窺っている状態。
出方を見てから、倒せると思ったタイミングで一気に仕留めに動くのだろう。
ジーニアがそんな受けの姿勢をみせていることから、最初に動きがあったのはアオイの方だった。
巻き付けていた糸のようなものは簡単に引き千切られ、興奮した様子のバトルエイプはアオイに向かって突っ込んでいった。
「アオイ、直情型の魔物だぞ」
俺のアドバイスに親指を立てて返事をすると、バトルエイプの動きを読み切り、小太刀で額を斬り裂く。
決して深い傷ではないのだが、上手く目を斬りつけていたようで、戦闘開始から即座にバトルエイプの視界を狭めて見せた。
片目はまだ残っているのだが、素早い動きを長所としているアオイ相手に片目の負傷はあまりにも致命的。
常に斬り裂いた右目側に潜り込むように立ち回り、アオイはスキルを使うことなく一方的にバトルエイプを倒して見せた。
「はい、一丁上がり! 手応えなしかなー!」
危なげなく勝利を納めたアオイは、笑顔でVサインをしてきた。
経験を積ませるいい機会だと思っていたが、相手がちょっと弱すぎたな。
アオイには、この先にいるバーサークベアと戦ってもらうのもいいかもしれない。
余裕の戦いっぷりを見てそんなことを考えながら、視線をジーニアに移す。
二匹のバトルエイプに対し、受けの姿勢で様子を窺うように戦っていたジーニアだったが、どうやらもう動きを見切ることができたらしい。
口角を上げて微笑むと、二匹のバトルエイプの攻撃を未来が見えているかのように先読みしながら避け、バトルエイプの勢いを利用して首を刎ねて見せた。
ジーニアの目には何が見えているのか分からないが、刃を関節に入れるのが非常に上手く、ジーニア自身は一切力を込めることなく二匹のバトルエイプの首が落ちる。
強さだけでなく、華のある戦いを見せるようになったジーニア。
俺と出会う前まではゴブリンに負けていたとは思えない成長っぷりであり、バーサークベアがバトルエイプと似たタイプならば、ジーニアにも戦ってもらってもいいかもしれない。
「グレアムさん、無事に倒しきりました!」
「見ていたが楽勝だったな。アオイもジーニアも完璧な立ち回りだったぞ」
「この程度の魔物を倒したぐらいじゃ、私は満足してないけどね! 道中に出てくる魔物は私とジーニアで全部狩るから!」
頼もしい言葉に俺は微笑みながら頷いていると、戦闘中は無言を貫いていたギルド長がバトルエイプの死体の下に歩いて向かっていった。
「素晴らしい太刀筋だな。俺はてっきりオーガの群れを斬ったのもグレアムさんだと思っていたが、焦げていないオーガを斬ったのはジーニアだったのか」
「オーガの群れ? あー、レッサーオーガの群れですか。そうですね。グレアムさんに一から十まで指示してもらってでしたが、私が斬ったやつだと思います!」
「データ上では冒険者になったばかり。グレアムさんと組んでから依頼達成率が100%に跳ね上がったことからも、グレアムさん頼りのルーキー冒険者だと思っていたが……この若さでこの強さは間違いなく逸材だ」
俺のことを褒められた訳ではないのだが、自分が褒められた時以上に嬉しい。
ジーニアの成長速度をずっと誰かに自慢したかったため、数多の冒険者を見てきたであろうギルド長に見せ、そして褒められたのは良かった。
「えへへ、大袈裟ですしそんなことないです! もし本当に強くなれているのであれば、全てグレアムさんのお陰です!」
「そんなことはない。フーロ村でも戦闘を指南することはあったが、ジーニアは確実に才能がある」
「才能がない人間はいくら指導されようが伸びない。グレアムさんの力もめちゃくちゃ大きいのは事実だろうが、ジーニアは自信をもっていい」
「……うへへ、そ、そうですかね?」
ジーニアは照れ臭そうにしつつ、変な笑い方を見せた。
そんなジーニアをアオイは羨ましそうに見つめている。
「ジーニアばっかり褒められていいなー! 私も中々頑張ったと思うんだけど!」
「アオイも頑張っていたが、余裕のある相手だったからな。強敵と出会ったときにしっかり評価する」
「よーし! ならガンガン進もう! バーサークベアも私が倒すから!」
アオイは一人気合いを入れると、ヘストフォレストをズンズンと進み始めた。
二人の指導も目的の一つではあるが、一番の目標はバーサークベアの群れの討伐。
気を引き締め直して、ヘストフォレストを進むとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます