第44話 ヘストフォレスト
口をあんぐりと開けたまま、言葉を発さない三人。
痺れを切らした俺が、ギルド長に感想を求めた。
「ほら、普通に複数詠唱はできるだろ? やろうと思えば今みたいな緻密な動きもできるようになる」
「…………い、いやいや絶対におかしい! ありえないですよ! 魔法を同時に四つ……いや、【ライト】の魔法も合わせて五つか。五つも同時に使うことができなんて俺は聞いたこともありません! それに――なんですか? あの巨大な球状の魔法は!! 【ファイアーボール】とか言っていましたが、あんな唸るような業火球を見たことないです!」
「ギルド長、少し落ち着いてくれ。また敬語に戻っているぞ」
「……す、すまねぇ。驚くことが多すぎて、グレアムさんを前にすると別の意味で頭に血が昇ってしまう」
顔を真っ赤にして興奮していたギルド長を一度落ち着かせる。
本当にすぐ興奮し出すし、ギルド長は元々こういう性格なのかもしれない。
「でも、本当に凄かったですよ! あんな魔法の使い方もできるんですね!」
「あんな凄いことができるなら、私も魔法を習得すればよかった!」
「今使ったのは初級魔法だから、覚えようと思えばすぐにできるようになるぞ」
「いやいや! グレアムさんの真似は絶対にしない方がいい。俺は数多の冒険者を見てきたが、グレアムさんは規格外にぶっ飛んでいるからな! 本当の初級魔法はもっと弱っちい魔法だ!」
未だ興奮気味のギルド長は、俺の魔法を見て羨んでいる二人に強くそう忠告した。
【浄火】は難しいかもしれないが、魔法の複数詠唱に関してはコツさえ掴んでしまえばすぐなんだけどな。
まぁここでギルド長に食ってかかり、時間を無駄に消費をするのはアホらしい。
今回の目的は魔法ではなく、ヘストフォレストの先にいるバーサークベアの討伐だ。
「俺が複数詠唱が可能ということは分かってもらえただろうし、とにかく先に進もう。このままじゃ入口だけで一日が終わってしまう」
「確かにそうだ……な。さっきも言ったが俺が先導するから、明かりの確保はグレアムさんに任せた」
「私とアオイちゃんはどうすればいいでしょうか?」
「俺とギルド長の間で進めばいい。魔物が出たら、二人には積極的に戦ってもらう」
「了解! 一体どんな魔物が出るのか楽しみだ!」
一度し切り直してから、俺達はヘストフォレストを進み始めた。
立ち入り禁止の場所ということもあって森の中は一切整備されていないのだが、自信満々に言っていただけあり、ギルド長の草木を切り開きながら進む手際が非常に良い。
あっという間に人一人分の道が作られていき、後方を進む俺達はストレスなく森の中を進めている。
それから魔物どころか獣の気配すらないまま一時間ほど進んだタイミングで、ようやく獣道のような場所に抜け出た。
「ふぅー、思っていた以上に大変だったな。ただ、これでようやくヘストフォレストの中に入ったって言えるだろう。ここからは一気に遭遇する魔物の数が増えると思うぞ」
「先導をさせて悪かったな。お陰で楽に進むことができた」
「グレアムさんに無理を言ってついてきたんだから、これぐらいのことはさせてもらう。それよりも本番はここからだ。俺も多少は戦えると思うが、ブランクもかなりあるから戦力としては期待しないでくれ」
「その点は大丈夫だ。ジーニアもアオイもしっかり戦えるからな」
「そうそう! 道中の雑魚は私とジーニアで倒す! ギルド長は後方で休んでて!」
「ですね! 指導して頂いた成果をグレアムさんに見せます!」
ジーニアは気合いが入っているようだが、オーガ戦からそこまで日は経っていない。
良いところを見せようとし過ぎて空回りする可能性もあるため、いつでもサポートできるように準備はしておこう。
「早速だが……右前方から何かがこっちに向かってきている」
「ゴブリンを見つけた時も薄々感じていたが、グレアムさんは本当に索敵も一流なんだな。俺も必死に気配を探っているが、近づいてくる魔物の気配を感じ取れていない」
「コツとしては五感に頼らず、第六感で見極める感じだな。慣れてくればギルド長もできるようになる」
「慣れてくればって、俺はもう慣れの段階を越えて引退した身なんだけどな……」
索敵も複数詠唱と同じく、そう難しいことじゃないんだけどな。
フーロ村でも、索敵に関しては子供でも習得できていた。
双子の姉妹は俺以上に索敵に優れているし、やり方を知らないだけだと俺は思っている。
そんなことを考えていると、こっちに向かってきていた魔物が姿を現した。
「この魔物はバトルエイプだ! しかも群れかよ……。討伐推奨ランクCの強敵だぞ!」
「流石はギルド長だな。魔物の知識が段違いだ。手前に三匹で、奥に四匹いるが……奥のは離れているから気にしなくていい。三匹なら二人だけで戦えるか?」
「もちろんいけます! 今回はグレアムさんの指示もいりません!」
「ジーニアが二匹? 私が二匹?」
「私に二匹やらせてください! 一瞬で終わらせてみせます」
二人でやりとりを行い、担当する魔物が決まったらしい。
レッサーオーガがEランクであり、バトルエイプなる魔物はCランクと二つも上だが……今のジーニアならやれるだろう。
サポートの準備は一応しつつも魔物の強さを推し量れているため、俺は比較的安心しながら二人の戦いに目を向けた。
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