第41話 麗しの蜜


 翌日。

 バーサークベアの討伐を明日に控えているが、今日は普通に依頼を受ける予定。

 三人で冒険者ギルドへと向かい、受付嬢さんに依頼を見繕ってもらう。


「グレアムさん、いらっしゃいませ! 今日も依頼を受けに来たんですか?」

「ああ。何か良い依頼はきていないか?」

「採取依頼なら面白そうなものがありますよ! 南東の森でスイートビーが大量発生しているみたいでして、そのお陰で“麗しの蜜”が取れるらしいんです!」

「へー。その麗しの蜜とやらの採取依頼があるのか?」

「はい! 報酬も高くて、余分に採取できた時の恩恵も大きい! 南東の森ですし、安心して向かうことができます」

「そういうことなら、麗しの蜜の採取依頼を受けさせてもらおうか。ジーニアも大丈夫だよな?」

「はい! もちろん大丈夫ですよ」

「分かりました。それでは受注手続きをさせて頂きますね!」


 南東の森といえば、グレイトレモンを採取した森。

 ジーニアですら相手にならない魔物しかいないため、今回の依頼は半分遊びのような感じになってしまうだろう。


 ただ、明日が本番のような感じがあるし、今日はこんな感じの依頼で良かったと思う。

 受注手続きをしてくれた受付嬢さんにお礼を伝えてから、俺達は冒険者ギルドを後にして南東の森へと向かった。



 軽く雑談しながら歩を進めること約一時間。

 あっという間に南東の森に辿り着いた。

 軽く索敵を行っているが、やはり強い気配は一切感じないな。


「なんというか……普通に楽しくて気が抜けてしまいそうです!」

「明日はバーサークベアと戦うんだよね!? こんな森で採取依頼なんか受けていていいのか心配になっちゃうんだけど!」

「いつも通りで大丈夫だ。準備は昨日の内に済ませてあるし、今日は普通に依頼をこなそう。今日のせいで気が抜け、明日二人が駄目だったとしても、俺が何とかするから安心してほしい」

「うぅ……グレアムさんなら、本当に一人でどうにかできちゃいますもんね」

「頼もしくも聞こえるし、悔しくも聞こえる!」


 変な心配をしている二人と談笑しながら、南東の森の中を進んで行く。

 久しぶりに来たけど、危険のない森というのは素晴らしいな。

 かなりの声量で談笑しているのだが、魔物が襲ってくる気配すらない。


「それにしても麗しの蜜ってどこにあるんですかね? アオイちゃんは何か知っていますか?」

「さあ? 採取依頼なんて受けたことがなかったし、その手の情報は何にも持ってない! でも、スイートビーって魔物が大量発生している影響って言っていたし、その魔物を探せば見つかるんじゃない?」

「確かにその可能性が高いだろうな。蜂みたいな魔物って言っていたし、見ればすぐに分かると思うんだが……もう少し奥にいかないといないか?」

「グレイトレモンが生えていた辺りにいそうじゃないですか? 花を咲かせていましたし、蜂なら花に寄ってきますよね?」

「なら、グレイトレモンが生えていたところまでひとまず行ってみるか」


 アオイの情報を元にジーニアが助言をくれ、その助言を頼りにグレイトレモンが生っていた場所までひとまず向かう。

 一応スイートビーの気配を探ってはいるんだが、気配が弱すぎるのか捉えることができないんだよな。

 まぁ時間はいっぱいある訳だし、ハイキング気分で楽しみながら探せばいいだろう。


「こうして南東の森を歩いていると、グレアムさんとグレイトレモンを採取したのが遠い昔のように感じます」

「確かにそうだな。あの時は本当に右も左も分からなかったが、ジーニアのお陰で色々と知ることができた」

「それは私の台詞ですって! 私の人生はグレアムさんと出会って一気に広がりました」

「……なに二人で感傷に浸ってるの? 全然会話に混ざれないんだけど!」

「アオイちゃんだって、少しずつ人生が変わってきてますよ! パーティを組んだことなかったんですもんね?」


 そういえばそんなことを言っていたな。

 ソロで冒険者をやっていて、Bランク冒険者まで上り詰めたエリートとか何とか。


「そういえばなんでパーティを組んでなかったんだ?」

「いらないと思ってたから! 私一人で強くなってきたし、一人の方が圧倒的に楽だからね!」

「なら、なんで俺達のところに転がり込んできたんだ」

「そりゃあ、グレアムが圧倒的に強いからに決まってるじゃん! 一緒にいれば得になるって初めて思った人だったから! ……それと、ジーニアと一緒にいるのも楽しかった」

「えへへ、私もアオイちゃんと一緒にいるの楽しいですよ!」


 二人して照れながら、互いに互いを褒め始めた。

 性格が真逆のように思えるし一見相性が悪そうなんだが、この二人はかなり仲が良い。


 出会った当初から普通に仲良くしていたし、ジーニアにつられるようにしてアオイを受け入れたようなものだからな。

 会話に混ざれないとか嘆いていたくせに、今度は二人だけで会話を始めたせいで俺が会話に混ざれなくなってしまった。


 二人の会話を流し聞きしつつ、歩いていると……正面にグレイトレモンの生っている木が見えてきた。

 そしてジーニアの読み通り、グレイトレモンの周辺を飛翔している蜂のような魔物の姿があった。


「あの飛んでいるのがスイートビーか? ジーニアの読み通りだったな」

「良かったです! スイートビーを追っていけば巣が見つかって、その巣から麗しの蜜が手に入るんですかね?」

「受付嬢はそう言っていたけどね! とりあえず追ってみよう!」


 蜜を集めている大量のスイートビーを遠くから見守り、移動を開始した個体の後を追う。

 後を追っている俺達に気づく様子はなく、グレイトレモンの生っていた場所から移動を開始して約十分。


 あっさりとスイートビーの巣を見つけることに成功。

 大きな木の根元付近に穴を作り、その中に巣が作られているらしい。

 大量のスイートビーが出入りしているが、【浄火】を使えば簡単に燃やし尽くすことができる。

 

「スイートビーは俺が倒してしまっていいよな?」

「大丈夫ですよ! スイートビーと戦って何か得られるとは思えませんので」

「うん! グレアム、やっちゃって!」


 念のため二人の許可を取ってから、俺は指先に魔力を集めて炎を灯す。

 うーん……今日も淡い色をしており、魔力自体の調子は良くなさそうだ。


 ただ、この程度の魔物なら調子の良し悪しは関係ない。

 俺は木の根元に作られているスイートビーの巣に向かって、【浄火】を撃ち込んだ。



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