第42話 運搬
綿毛のようにフワフワと飛んでいる炎は巣から出ようとしていたスイートビーに当たり、一気に燃え上がった。
燃えたスイートビーが暴れ回ったことで、巣の中にいた他のスイートビーにも炎が燃え移り、一気に巣の中にいたであろうスイートビー達が燃えていった。
「おおー、改めて凄い魔法! これだけ燃えてるのに巣は一切燃えていない!」
「そういう魔法だからな。魔力の消費量が多いこと以外は使い勝手が非常に良い」
「近接戦も強くて、こんな魔法も使えるんですもんね。そういえば魔力の方はもう大丈夫なんですか? 昨日、デッドプリーストのベインさんに魔力を吸われたんでしたよね?」
「寝たから完全に回復してる。ただ、昨日は本当に久しぶりに焦ったな……」
あそこまで魔力をゴリゴリと削られた記憶は、これまでで一度も経験したことがなかった。
名づけだけであんなことになるとは思っていなかっただけに、誇張抜きでエンシェントドラゴンに片腕取られた時ぐらい焦ったかもしれない。
そんな昨日のことを思い出している内に、巣に籠もっていたスイートビー達が全て燃えたらしい。
赤く燃えていた炎が消えており、綺麗な巣が丸々残っている。
「あっ、もう巣から取り出しても大丈夫なんじゃない? スイートビーがいなくなった!」
「木の周りを掘って取り出してみるか」
三人で手分けをし、巨大なスイートビーの巣を掘り出した。
木に隠れるように巣が作られていたため、想像していた以上の大きさに困惑している。
「巣のまま持って帰るか、それとも蜜だけ取り出すか。どうする?」
「蜜を取り出すっていっても、蜜の取り出し方を知ってるの?」
「私は知らないですね。巣を切って、自然と垂れてくるのを待つ――みたいな方法だったとおぼろげな記憶はあるんですが……」
「なら、持って帰った方が得策か。二人で俺の荷物を全部持ってほしい。なんとか背負えるように紐で固定して、無理やり持って帰る」
「分かりました! 私とアオイちゃんで手分けしてグレアムさんの荷物を持ちつつ、道中で現れた魔物の処理も行います!」
「うん! 任せておいて!」
俺は邪魔になりそうな荷物を全て渡し、巨大な巣を背負って南東の森からの脱出を試みた。
重さは何てことないんだが、とにかく巨大なせいで持ち運びづらく、絶対に落とさないように巨大な巣を持って、ビオダスダールの街へと戻った。
「はぁー。本当に大変だった」
「グレアムさん、お疲れ様です! 今まで受けた依頼で一番大変だったかもしれませんね」
「ああ、採取依頼って意外と大変なものが多い気がする。その分楽しさもあるんだけどな」
「あのオーガの群れの討伐より巣を運ぶ方が大変っていうのがおかしいんだよ! まぁグレアムがおかしいのは前から知っているけど!」
アオイにチクリと毒を吐かれた気がするが、言い返すほどの余力も残っていないため、一直線で冒険者ギルドへと向かった。
依頼内容は、麗しの蜜の採取。
巣を丸ごと持ってきているため、これで依頼達成なのか分からないが、この巣の中には確実に蜜が入っているため失敗ということはないはず。
巨大な巣を担いでいるため、すれ違う人達の視線を集めながらも冒険者ギルドに到着。
依頼納品受付に向かったのだが、受付に立っていたギルド職員は巣を見ると目をまん丸くさせて驚いた表情を見せた。
「な、なんですか! その巣は……!」
「スイートビーの巣を持ってきた。麗しの蜜の採取の依頼を受けたんだが、蜜の採取方法が分からなかったんだ」
「……な、なるほど。ちょっとギルド長を呼んできます」
困惑した様子のギルド職員はそう言うと、裏へと消えていった。
ギルド職員には俺の顔が知られているため、困ったときはギルド長を呼びやすくなっているのだと思う。
ギルド職員が裏に消えていってから一分も経たずに、奥から出てきたのはギルド長。
ここに来るまでの速度から、ギルド長が俺を最優先に動いてくれているのが分かる。
「おお、グレアムさん。今日はどうしたんだ?」
「麗しの蜜の採取しようと思って、スイートビーの巣ごと持って来たんだ」
「なるほど。それでその巨大な巣を持っているってことか。それにしても……麗しの蜜を採取するために、巣ごと持ってくるとは規格外もいいところだな」
「普通の採取方法とは違うのか?」
「ああ。普通はスイートビーを殺して、スイートビーが持っている蜜を集めるっていうのが一般的だな。二十匹も倒せば、小瓶分くらいの蜜は採取できる」
「そうだったのか。採取方法を詳しく聞くべきだったな」
思い返せば、受付嬢さんはスイートビーから蜜が採取できると言っていた。
Eランクの依頼で巣ごと持ってこいってのはありえないし、冷静に考えれば分かったことか。
「まぁ巣から純度の高い蜜が採れるから、巣ごと持って来ることができるならそれに越したことはない。とりあえず蜜は冒険者ギルドで取り出しておくから、数日後にでも依頼分を抜いた残った蜜を渡す」
「わざわざ手間取らせてすまないな。よろしくお願いする」
「気にしなくていい。グレアムさんは冒険者ギルドにとって……いや、この国にとって重要な人物だからな。それよりも、最終確認だが明日はついていっても大丈夫なんだよな?」
「ああ、ついてきても構わない。色々と案内をお願いするつもりだから、明日はよろしく頼む」
「こちらこそよろしく頼む。……震えるほど楽しみだ」
ギルド長はニヤリと笑ってそう言うと、巨大な巣をギルド職員と一緒に運んで裏へと消えていった。
とりあえず依頼はこれで達成。
残った蜜もくれるようだし、大変だったが結果的には良かったんじゃないだろうか。
「これで依頼達成ですね! やっぱり採取依頼は楽しくて好きです!」
「今までソロだったから、二人の言っている意味が分からなかったけど……確かに楽しかったかも!」
「明日に向けて、良い気分転換になったな。それじゃ二人共、明日はよろしく頼む」
「はい! 任せてください! 無事に倒しましたら、祝勝会をしましょうね!」
「いいね、祝勝会! みんなでパーッとやろう!」
緊張感のない二人だが、まぁ俺がついていれば大丈夫なはず。
明日のバーサークベア討伐に向け、今日は早めに帰るとしよう。
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