第34話 豹変
そんなことを考えながら、俺はゴブリンの反応があった場所まで向かう。
ギルド長はひたすら険しい顔で何かを考えており、喋りかける雰囲気でもなかったためここまで無言。
やはりジーニアについてきてもらえば良かったと思っていると、気配を察知したゴブリンの姿が見えた。
「ゴブリンが見えた。早速使うぞ」
「……ああ。使ってくれ」
ギルド長の返事を確認してから、俺はゴブリンに向かって【浄火】を放った。
先ほどギルド長に向かって使った時と同じように、ふわふわと綿毛のように飛ぶ【浄火】の魔法。
そして、俺達に気づいて襲い掛かったきたゴブリンに触れた瞬間――大炎上。
ゴブリンが弱すぎるということもあるが、あっという間に黒焦げとなった。
「どうだ? 嘘は言っていなかったろ?」
「……………………………」
これでギルド長に信用してもらえる。
そう思って振り返ったのだが、ギルド長は口を開けたまま固まっており、完全に放心状態となってしまっていた。
「……ギルド長? 大丈夫か?」
「ほ、本当に跡形もなく燃えた……。い、一体どんな魔法なんだ? 俺は長年冒険者をやってきたがありえない! 魔物だけを燃やす魔法? 原理も仕組みも全く分からねぇぞ!」
放心していたかと思いきや、興奮した様子で急に肩を掴んできた。
その急変ぶりに恐怖を覚えるが、ひとまず引き剝がして落ち着かせる。
「少し落ち着いてくれ。一気に質問されても返答できない」
「す、すまねぇ! ただ……俺はあんな魔法を見たことがない。グレアム、お前は一体何者なんだ?」
「何者と言われてもな……。辺境の村からやってきたおっさんとしか答えようがない。逆に何が凄いのか教えてほしいぐらいだ」
「嘘を……吐いている訳じゃなさそうだな。その村についてを詳しく教えてほしい。教えてくれるよな!?」
ギルド長の熱気が凄まじく、額からは汗がダラダラと流れ始めている。
ギルド長室からここに来るまでの間は、常に眠そうにしていてテンションも低かったため、その豹変ぶりには流石にドン引いてしまうな。
それにしても……フーロ村について教えてほしいか。
ジーニアには軽く話したことはあったが、ガッツリと話すのはこれが初めてかもしれない。
話すにしてもこんな場所ではなく、落ち着いて話せる別の場所がいいのだが……この熱量で来られたら、ここで話さざるを得ないか。
「別に構わない。フーロ村という王国の外れにある村から来た」
「フーロ村……? 冒険者時代に色々な街や村を回ったし、ギルド長になってからも様々な地名を耳にする機会があったはずだが、一度も聞いたこともない村だな。本当に王国にある村なのか?」
「本当に辺境にある村だから多分としか答えようがないが、村にいた人達も王国の中にあるって認識でいた」
「うーん……。位置的にはどの辺りか分かるか?」
ギルド長は腰に着けていたホルダーから簡易的な折りたたまれていた地図を取り出すと、地面に広げて俺に見せてきた。
事細かに書かれた地図ではあるが、村を出た時も地図なんて持たず、魔王領から反対をひたすらに進んできただけだからな。
「地図の見方が分からないんだが……恐らくこっちの方面だと思う」
依頼を受けて覚えた方角を頼りに、なんとなくの方面を指さして教える。
恐らくだが地図にも載っていないほどの端にあるため、こっちの方にあるだろうということぐらいしか俺にも分かっていない。
「ということは、地図に載っていないのか。ただ……こっちの方角といえば、魔王領の方じゃないのか?」
「あー、魔王領の方面で合っている。他の村や街よりも、圧倒的に魔王領の方が近かったからな」
「…………んはは、くっ、あーはっはっ! これは凄いな! 魔王領付近は立ち入ることすら禁忌とされている場所。その付近に村があり、グレアム……いや、グレアムさんだな。グレアムさんのような人がそんな村に隠れていたなんて!」
もう完全にテンションがぶっ壊れており、変な笑い声を上げだしている。
何が何だか分からないのだが、敬称がついたことからも悪い感情を抱かれている訳ではないはずだ。
「禁忌とされていた場所なのか。そりゃ誰一人として村に訪れる者がいない訳だ」
「そんな辺境の村でようやって暮らしていたんですか? 食べ物を確保するのにも大変でしょうし、魔物だって大量にやってきたでしょう」
「ギルド長の方が俺よりも年齢は上だろうし、今更敬語を使わなくていい。食料は自給自足。魔物も村のみんなで手分けして倒していたって感じだな」
「そういうことなら……話し方は変えずにいかせてもらう。心の底から敬っていることは覚えておいてほしい」
「俺は別に敬われるような人間じゃない」
「あんな魔法を使えてそんな言葉が出てくることに本当に驚くな。それにしても自給自足で、魔物も村人たちだけで倒していたのか……。全員グレアムさんのように強いのか?」
そんな質問には思わず首を傾げてしまう。
俺以外の村人も戦えてはいたが、強かったかと言われたら……何とも言えない。
使っていた家を譲り渡した双子の姉妹は強かったと言えるが、他の村人たちはアオイくらいの実力だろう。
あの戦力でよく村を守りきれたと、今更ながらに思ってしまうな。
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