第33話 証明


 翌日。

 今日はアオイに言われた通り、ギルド長に会いに冒険者ギルドへとやってきていた。

 昨日は何だかんだ夜遅くまで飲み明かしたこともあり、アオイは酷く眠そうにしている。


「うぅ……、なんで二人はケロっとしてるの? お酒が残ってるから頭が痛くて仕方ないんだけど!」

「私はセーブしながら飲んでいました! グレアムさんはお酒も強いですよね?」

「昔からよく飲んでいるからな。二日酔いになったことは一度もない」

「すっご。戦闘だけじゃなくてお酒も強いのズルい!」

「別にズルくはないだろ。それよりギルド長に会うんだからシャキっとしてくれ」

「いやいや、そんな大層な人間じゃないから大丈夫だって」


 長と付くくらいだし、偉い人だと思っていたのだが……アオイの感じはかなり適当。

 結構緊張していたのだが、そこまで気張らなくていいのか?


 アオイは適当な感じのまま職員と会話を行ってから、通されたギルド長室の中に入っていった後を追い、俺とジーニアも部屋の中に入った。

 ギルド長室の中は想像とは全く違い、様々な書類が積み上がっていてぐっちゃぐちゃ。


 わざわざ呼んだのだから、もう少し綺麗にしておいてくれと思わなくもないが……。

 これだけ汚いと綺麗にすることもできないんだろうな。


「アオイか。わざわざ来てくれたんだな」

「呼ばれたからね。ちゃんとグレアムも連れてきたから」

「ほー、初めまして。俺はこの冒険者ギルドのギルド長を務めているドウェインという。君がEランク冒険者で……オーガを倒したと噂のグレアムか」


 椅子に座りながら自己紹介してきたのは、ガッシリとした体型で精悍な顔つきの男性。

 年齢は俺よりも若干上のようで、白髪交じりの髪の毛が目立っている。


 それから他の冒険者達と比べても実力を兼ね備えているようで、中々の風格を持っているな。

 流石に体の衰えはありそうだが、昔はかなり戦えていたと思う。


「ああ、俺がグレアムだ。今日は俺とジーニアに話を聞きたくて呼んだんだよな?」

「そうだ。話が早くて助かる。アオイから話を聞いたんだが、オーガを倒したのは本当に君なのか?」


 その瞳は完全に疑っている人の目であり、俺が倒したとは少しも思っていない様子。

 最近Eランクに上がったばかりのおっさんだからって言うのもあるだろうが、一発ではまぁ信用されない。


「本当に俺が倒した。別に信じなくてもいいが、討伐証明はしっかりと渡したはずだ」

「…………本当のことなのか? 討伐証明も確認したし、現場検証も行ったが……グレアムということに関してはいまいち信用し切れていない。オーガを燃やした魔法をというのは今使えるのか?」

「もちろん使える。ここで放っていいのか?」

「い、いや! ここで使うのは流石にやめてくれ。外で見たいんだが、今から大丈夫か?」


 わざわざ外に行くのは面倒くさいが、ギルド長とは仲良くしておいた方がいいからな。

 【浄火】なら部屋の中でも使えると言っても、火属性魔法を部屋の中では使わせてくれないだろう。


「ああ、大丈夫だ。外で魔法を使わせてもらう」

「そういうことなら良かった。それじゃ外に行こう」

「ねぇー、私とジーニアはここで待っていていい? どうせ戻ってくるんでしょ?」

「ギルド長がいいっていうならいいんじゃないか?」

「別に構わないぞ。用があるのはグレアムだけだからな」

「やったー! ジーニア、一緒に待っていよう!」

「ついて行かなくていいんですかね? グレアムさん、大丈夫ですか?」


 ジーニアはかなり心配そうな表情で俺を見つめている。

 そこまで心配されることなのかと思ってしまうが、俺が人見知りなのを知っているしジーニアなりの気遣いだろう。

 本音を言うのであれば、ギルド長と二人きりは嫌だしな。


「俺は大丈夫だ。どうせ魔法を見せたら戻ってくるし、二人は依頼でも見繕っていてくれ」

「分かりました。それじゃお気をつけて行ってきてください!」


 アオイとジーニアとここで別れ、俺はギルド長と共に門を通って街の外へと出てきた。

 ギルド長の特権なのか、いつもは並んで外へと出るのだが、今回は列を素通りして優先的に外へと出してもらい、人気のない場所まで歩く。


「さて、この辺りでいいか。グレアム、ここで見せてもらってもいいか?」

「もちろんだ。それじゃ早速使わせてもらう。【浄火】」


 指先に炎を灯した後、一匹目のレッドオーガに放ったように、俺はギルド長に向かって撃ち込んだ。

 ちなみに炎の色はかなり淡く、今日は魔法の調子がかなり悪い。


「……ん? この小さな【ファイアーボール】がオーガを燃やした炎だと?」

「そうだ。この魔法でオーガを燃やした。アオイやジーニアに聞いてみれば分かる」

「……にわかに信じることができないな。触れてみても大丈夫か?」

「もちろん大丈夫だ。人間に害は及ばないからな」


 俺に許可を出されてから、ギルド長はふわふわと綿毛のように飛ぶ【浄火】を殴るように触れた。

 【浄火】はギルド長の拳に触れた瞬間、シャボン玉のように綺麗に霧散し一瞬で消え去った。


「な、なんなんだ……これは。――俺をおちょくっているのか?」

「別におちょくってなんかいない。この魔法の炎は魔物のみを燃やす炎。人間が触れたところで害がないだけ」

「そんな眉唾のような話を信じろっていうのか?」

「別に信じたくないなら信じなければいい。言葉で説明するのも面倒くさいから実戦で見せたい。魔物がいれば一発で分かるだろ?」

「……くっそ、嘘なのか本気なのか分からねぇ」

「嘘つく意味がない。――おっ、ちょうど南東の方角に通常種のゴブリンのような反応がある。使って見せようか?」

「ああ、本当なら見せてくれ」


 要領自体は割とメジャーな魔法だと勝手に思っていたが、アオイや周囲の冒険者達も驚いていたし、俺以外使い手がいない魔法なのか?

 狛犬や鸞鳥のように姿形を変化させてオリジナル要素を入れたって認識だったが、俺が想像している以上に【浄火】の魔法は珍しい可能性が出てきたな。


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