第32話 案

 

 ジーニアは紙とペンを取り出すと、出た案をどんどんと書き出す準備をしてくれた。

 そもそも適当に街を歩いて、困っている人を助ける――ぐらいのざっくりとしたイメージしか持っていなかったのだが、善行をするといっても何をするかはしっかり決めておいた方がいいのか。


「ちなみにだが、街の中で困っている人がいたら声をかけて助けるとかじゃ駄目なのか?」

「ビオダスダールには兵士が見回りしていますし、私達がやる必要はないと思いますよ? どうせなら私達にしかできないことをやりませんか?」


 俺達にしかできないことか。

 そういうことなら、やはり魔物退治ぐらしか思いつかないが……。


「はい、はーい! 普通に魔物退治でいいと思う! グレアムは魔物を探し出せるし、街に近づいている魔物を倒すってのはどう?」

「それはそれで冒険者の仕事を奪うことにならないか? 俺も魔物退治しか思いついていないんだが」

「なら……強い魔物に狙いを絞るというのはどうでしょうか? 危険すぎて依頼にも出されていない手出しができない魔物が結構いますよね?」

「あー。街の近くで言うと旧廃道の『死の魔導術師』とか、北の山岳地帯にいる『シルバーゴーレム』とかはそうだね!」


 旧廃道の死の魔導術師?

 もしかしてあのデッドプリーストだったりするのか?


「アオイちゃん。旧廃道の『死の魔導術師』ってアンデッドの魔法使いみたいな魔物かな?」

「うーん、見たことないけどそうだって噂があるね! 昔から近づくだけで死ぬって言われている場所で、姿なき者に殺されるって話だよ!」


 その情報を聞き、俺はジーニアと目を合わせて頷いた。

 アオイが言っているのは、間違いなくあのデッドプリーストのことだろう。


「その魔物なら会ったことがあるぞ」

「えっ!? グレアム、旧廃道に行ったの!?」

「ああ、ジーニアと一緒になんとなく行ったんだ。別に大したことない魔物だったけどな」

「はぁー!? 大したことない魔物な訳ないじゃん! Aランク冒険者でも討伐不可って言われている魔物だから!」

「……じゃあ別の魔物なのか? 特徴は一致していると思ったけどな」

「私は同一の魔物だと思いますけど……あの魔物を思い出すだけで鳥肌が立ちますし、たまに夢で見ることがありますから!」


 そんな大層な魔物ではなかったけどな。

 これはアオイを連れて、もう一度デッドプリーストの下に行ってもいいかもしれない。


「流石のグレアムでも、『死の魔導術師』で出会ってたら生きていないと思——いや、グレアムなら楽に倒してもおかしくないのかな?」

「とりあえず何でも言うことを聞くって約束させたから、一度行ってみないか? もし俺の言っているデッドプリーストとアオイの言っている『死の魔導術師』が同一の魔物なら、とりあえずの善行は依頼にも出せない厄介な魔物を倒すっていうのでいいかもしれない」

「旧廃道には絶対に行きたくないけど、グレアムと強い魔物を倒すのは面白そう……! 一緒にいれば私も英雄の一員になれるかもだし!」


 完全な邪な気持ちでついてこようとしているアオイ。

 大々的な宣伝をするつもりはないが、危険な魔物を倒していたら自然と有名にはなってしまうかもしれない。


「あくまでも善行なんだから、邪な気持ちは捨ててほしいんだけどな」

「私は善行がしたいっていうよりも、グレアムとジーニアといたら楽しそうって気持ちのが大きいもん。それに偽善だったとしても、やらないよりはマシでしょ?」


 うーん……そう言われると、気持ちの部分はどうでもいい気がしてきた。

 アオイに言いくるめられるのは癪だが。


「あっ! そうだ。今思い出したんだけど、ギルド長がグレアムとジーニアに話があるんだって!」

「は? 急に話がぶっ飛んだな。なんで急に思い出したんだ?」

「いやさ、ギルド長なら何か手伝ってくれるかもしれないと思ったタイミングで、急に思い出した! 依頼には出していないだけで、危険な魔物の色々な情報を持っていると思うから! ギルド長の方から話があるって言ってくれたんだし、ギルド長にも話すだけ話してみたら?」

「それは良い案かもしれない。Eランクのおっさんの言うことを相手にしてくれるかが不安だが」

「大丈夫だって! 私がついていれば、ギルド長も無下にはできないから!」


 ここで例のギルドカードを自慢気に見せてきた。

 アオイは鬱陶しさも強いのだが、割と有名な冒険者というのが俺にとってはありがたいんだよな。


「それも一理あるな。で、ギルド長が俺に何の用があるんだ?」

「詳しくは分からない。ただ、この間の緊急依頼について話が聞きたいってさ! 時間があるときでいいから冒険者ギルドに来てくれって!」

「なるほど。なら、明日にでも行くとするか。ジーニアも大丈夫だよな?」

「もちろん大丈夫ですよ! でも、私に話を聞かれても困るんですけどね……」

「レッサーオーガの群れを倒したのはジーニアだからな。話を聞きたいってのも頷けるだろ」

「私ですけど、私が倒したとは言えませんよ! 全てグレアムさんのお陰です!」

「いや、そんなことないよ! 傍から見てたけど、ジーニアの動き凄かったし! 私なんかその場で動けずにいたんだよ? グレアムの指示だったとしても、その通りに動くのって難しいんだから」

「え、へへ。……そ、そうなんですかね?」


 アオイに手放しで褒められ、顔がにやけてしまっているジーニア。

 戦闘経験が少ないのにあれだけ動けたのは本当に凄いし、ジーニアにはもっと自信をつけてもらいたい。

 俺は胸の内でそんなことを考えつつ、アオイと共にジーニアを褒めまくったのだった。


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