第30話 和解


 Eランク昇格のお祝い兼、緊急依頼の祝勝会を行った翌日。

 俺達は朝早くから集まり、冒険者ギルドへと足を伸ばしていた。


 ちなみにアオイはおらず、昨日たらふく酒を飲んでいたからまだ寝ているはず。

 アオイに付き纏われていない今が最高のタイミングのため、今のうちから冒険者ギルドに行かなくてはいけない。


「ふぁーあ。筋肉痛が酷くて、昨日はよく眠れませんでした」

「悪いな。緊急依頼で大金を稼ぐことができたし、本当は休日にしても良かったんだが……」

「受付嬢さんに謝らないとですもんね! 無事に達成できたとはいえ、押し切ってしまったモヤモヤがありますし、眠いって理由だけで後伸ばしにはできません!」

「ジーニアもそう言ってくれるのは助かる。少しでも早く謝りに行きたかったから」


 今日冒険者ギルドに行くのは、依頼を受けに行くというよりも謝罪をしに行くという意味合いが強い。

 仲違いしたまま日を置きたくなかったからな。


 俺は少し緊張した状態で、冒険者ギルドに着いた。

 二十年以上揉めたことなんてなかったから、謝罪をするのが少し怖い。


「……いつもの受付にいますね。謝りに――グレアムさん緊張していますか?」

「あ、ああ。許してもらえなかったことを考えると体が固まる」

「ふふ、大丈夫ですよ! 受付嬢さんは優しいですし、謝ったら許してくれます! オーガの群れの前では飄々としているのに、受付嬢さんに謝りに行くのに体が強張るって不思議ですね!」

「オーガの群れは別に怖くないからな……」


 情けなくもジーニアに先導してもらい、受付嬢さんの受付にやってきた。

 いつものように元気な挨拶がなく、俺の心臓はエンシェントドラゴンを目の前にした時よりも、確実に速く動いている。


「受付嬢さん! 昨日は本当に申し訳ございませんでした!」

「忠告を無視して本当にすまなかった。許してもらえるか分からないが、申し訳なかったという気持ちだけは伝えたくて今日は来たんだ」

「……………………………」


 腰を九十度に曲げ、誠心誠意心からの謝罪をしたのだが、受付嬢さんからの返答はない。

 俺の心臓は音が外に漏れているのではと思うぐらい、速く激しく動いている。


「…………はぁー。そんなに謝られたら怒れないじゃないですか! 私がどれだけ心配したと思っているんですか!? ちゃんと反省してください!」

「本当にごめんなさい! もう忠告を無視して依頼は受けないと、昨日しっかり話し合って決めました!」

「それなら私は許すしかありませんね! まぁ許すとかの立場じゃないんですけども!」


 俺はこの間も頭を下げ続けていたのだが、許すという言葉を聞けて心の底から安堵した。

 恩人でもある受付嬢さんに許されないままだったら、確実に精神が参ってしまっただろう。


「許してもらえてよかったです! ほら、グレアムさん。許しをもらえましたよ! ……って泣いてますか!?」

「い、いやすまん。ちょっと本気で安堵してしまった」

「泣かないでくださいよ! 私が悪者みたいになっちゃうじゃないですか! それに心配をしていただけで、本気で怒っていませんからね!」


 許すの言葉が聞いた瞬間に、軽くではあるが涙がこぼれてしまった。

 泣くつもりではなかったのだが、どうも村を出てから涙脆くなった気がする。


「すまない。安心して本当に少しだけ泣いてしまっただけだ。改めて許してくれてありがとう」

「うぅー、ここまで不安にさせてしまったとは思ってませんでした! 私の方こそ仕事を斡旋する受付嬢という立場を無視して、依頼を受けたから怒るなんて愚行をしてすいませんでした!」

「受付嬢さんが謝るのはやめてくれ。俺とジーニアの身を案じて怒ってくれたのは分かっている。これからも危険だと思ったことには本気で怒ってくれたら嬉しい」

「そう言ってくれるなら……これからも本気で止めさせて頂きます! とりあえずこれで今回の件はチャラにしましょう!」


 笑顔でそう言ってくれた受付嬢さん。

 この太陽のような笑顔を見れて本当に良かった。


 またしても泣きそうになったが、流石にこれ以上の醜態は見せられないため、死ぬ気で踏ん張って涙腺を塞き止める。

 それからおすすめの依頼を見繕ってもらい、俺達は冒険者ギルドを後にした。


「いやぁー、許してもらえて良かったですね!」

「本当に良かった。これまでの人生で一番怖かったかもしれない」

「嘘ですよねーって言いたいところですが、あの様子を見る限りでは本気でしたよね! 無敵のグレアムさんの弱点が受付嬢さんとはちょっと面白いです」

「何も面白くないぞ。本当に怖かったんだからな」


 そんな会話をしながら冒険者ギルドから門に向かっていると、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「み、見つけたーー! 置いていくなんて酷すぎる!! この薄情者がー!」


 慌ててやってきたであろうアオイであり、起きてから飛び出してきたようで、髪の毛は爆発しているし服装もいつもの黒装束ではない。


「別に簡単な依頼を受けただけだ。それにまだパーティに加入していないしな」

「まだ言うかー! 私は昨日で加入したの! 次置いていったら許さないから!」


 朝から大声を上げながら怒るアオイと共に、俺達は受けた依頼へと向かったのだった。

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