閑話 ギルド長の調査 その二


 魔法によって焼かれた可能性が高いと見ていたため、ドウェインは魔法を扱うことのできる職員を二人連れてきていた。

 平原はオーガの群れが侵攻してきたとは思えない静けさがあり、すれ違う冒険者達の気の抜けた顔を見る度、オーガの侵攻があったこと自体が嘘なのではないかと思えてきた。


「それにしても珍しいですね。ギルド長がわざわざ部下を引き連れて現場検証なんて」

「確かに。面倒くさがって現場検証は避けますもんね。誰かを引き連れるっていうのもあまりないですかね?」

「面倒くさいんじゃなくて、仕事量的に不可能なんだよ。お前達が俺の仕事の半分を引き受けてくれるなら、いつでも現場検証でも行ってやるって」

「無理ですよ。耳だけ見て魔物の種類を当てるとか正気の沙汰じゃありませんし。一時間見ているだけで気分が悪くなってきます」

「俺だって気分が悪くなりながらやってんだよ。んで、二人を連れてきたのは魔法について聞きたいことがあるからだ。俺もそれなりに精通しているつもりだが、今回は正直見当もついていない」


 二人が知っているとも思えないのだが、王立の魔法学校出身のためドウェインよりは知識がある。

 それに三人寄れば文殊の知恵とも言う。

 何かしらの発見があるかもしれないため、ドウェインは駄目元で二人を現場まで連れてきた。


「ギルド長でも見当がついていないって相当ですね。冒険者に関する知識ならズバ抜けているのに」

「ここ数日で訳の分からないことが連続しておきてる。俺もまだまだなんだなって痛感させているな。……それより、討伐報告があったのはこの辺りのはずだよな?」

「ええ。――あっ、あそこの人が集まっているところじゃないですか?」


 職員の一人が指さした方向を見てみると、確かに十数人の冒険者たちが集まっていた。

 屈んでいることからも地面に転がっている何かを見ている様子。

 ドウェイン達は走ってその場所に近づき、冒険者たちが何に集まっているのかの確認に向かった。


「冒険者ギルドの者だ。ちょっとどいてくれ」

「調査に来ました。確認させてください」


 冒険者ギルドの特権を使い、集まっていた人たちに退いてもらって前へと出た。

 全員の視線が向いていた足元に目を向けると、そこにはオーガの大量の死体が転がっていた。


「うわー……。凄いですね。大量のオーガが殺されています」

「この死体の感じは……一瞬で多くのオーガが殺されているな」

「そんなことまで分かるんですね」

「死体が一カ所にまとまっているからな。耳が切り取られたところを見る限り、俺の下に持ってこられたオーガの死体か」

 

 斬り殺されたオーガの死体ということで、一瞬オーガの首を斬った人物と同一人物の仕業かと思ったのだが、残念ながらドウェインの予想は外れた。

 腕の立つ冒険者が殺したことは間違いないが、斬り口は至って普通で若干の拙さまで見える。


 それに燃えたような死体もないし、あの耳も後から作り出されたもの。

 そう判断しかけたところで――前方を指さして職員の一人が大きな声を上げた。


「ギルド長! あっちにも死体が転がってますよ!」


 俺は首を上げて前方に目を向けると、確かに黒焦げた何かが前方に転がっているのが見えた。

 手前に人が集まっていたため、前にしか死体が転がっていないのかと思い込んでいた。


「あっ、そっちのは見てもおもんないっすぜ? 黒焦げただけの死体で何も分からんから」


 どいてくれた冒険者の一人が親切心でそう忠告してくれたのだが、ドウェインは思わず睨みつけてしまった。

 もう少し若かった時なら三流冒険者は黙っていろと怒鳴っていたため、一応これでも成長はしている。


 冒険者の忠告を無視し、ドウェイン達は前に転がっているオーガらしき魔物の死体に近づいていく。

 一歩、そしてまた一歩と近づく度に、その魔物の死体の異様さにゾワゾワと鳥肌が立っていくのが分かった。

 気が付いた時には走り出しており、ドウェインは転がっている真っ黒な魔物の死体に近づき、食い入るように凝視し始めた。


「急に走り出してどうしたんですか!? 何か分かったことがあったんですか?」

「焼かれた死体ですかね? 魔法によるものでしょうか?」

「お前達はこの死体を見て、恐ろしいほどの異常性に気が付いていないのか?」


 鬼気迫る表情でギルド職員にそう質問したドウェイン。

 ただ、二人のギルド職員には高火力で焼かれた死体ということ以外は何も分からなかった。


「…………すいません。ちょっと分からないですね」

「まず、この死体の焦げ具合いを見ろ。こうやって崩しても崩しても、中まで燃え切っている。お前はあっちに転がっていたオーガの死体に魔法を放って、ここまで焦がし尽くすことはできるか?」

「……いえ、無理です。ということは、思っている以上の超火力魔法で殺されたってことですかね?」

「うーん。ここまで黒焦げにさせるとなると、【フレイムストーム】とか【スターバースト】とかでしょうか」

「でも、どちらも上級魔法ですよ。これだけ連発することなんて可能なんですかね?」


 逃げたオーガも追いかけるように燃やしたようで、広範囲にオーガらしき魔物の死体が転がっていた。

 最低でも十発は魔法を放たないと、これだけの数の死体は作り出せない。


 ドウェインはそこまで思考したところで、この平原の一番おかしくて言い表せなかった奇妙な部分にようやく気が付いた。

 体は急に勢いよく震えだし、その異様な光景の正体を頭で理解したドウェインは思わず涙が溢れてきた。


 これが何の涙かは一切説明がつかない。

 凄すぎる光景に感動した――というのが、今のドウェインの感情を表す出来る限りの説明だろう。

 

「ギルド長……ど、どうしたんですか?」

「何か変なところがあったんですか?」

「…………こ、この平原をみ、見てみろ」

「平原……ですか?」

「い、言っていただろ。ここまで焦がすのであれば、上級以上の火属性魔法を使わなければならないと……! な、なのにだ……この草原には一切燃えたような跡が残っていない!!」


 ドウェインの魂の叫びに、ようやく平原の異様さに気が付いた二人のギルド職員。

 もはや想像の範疇を越えた現象であり、ドウェインは興奮なのか恐怖なのか体がの震えと涙が止まらなくなっていた。


「ど、どういうことなんですか!? べ、別の場所で殺してから、ここに持ってきた……とか?」

「そ、それはありえないと思いますよ。だ、だって、死体はここで焼け死んでいますから」

「と、とにかく聞き込みからだ。絶対にこの魔法を使った人間を探し出す! なんとしてでも会わないといけない!!」


 三人して体を震わせながら、ドウェインの叫びに頷いた。

 オーガの生首を見た時も衝撃だったが、今回の衝撃はそれ以上。


 ドウェインの中での優先順位はこちらになり、全力で探し出す決意を固めた。

 まずは手始めに集まっていた冒険者達に聞き込み調査。

 それからアオイも呼び出して話を聞くことを決めた。



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