閑話 ギルド長の調査 その一
「ふぅー。とりあえずこれでオーガの群れの方は大丈夫か。緊急依頼ってのはどうしてこんなに面倒臭いのかね」
誰もいない静かな部屋に疲れ切ったギルド長であるドウェインの声が響いた。
仕事が溜まっている中で緊急事態が起こり、その対応に追われて徹夜で作業に明け暮れていた。
緊急依頼とはその名の通り緊急を要する依頼で、冒険者ギルドから報奨金が出される。
そのため手続きが非常に多く、緊急を要する案件なのにすぐには依頼を出すことができないのだ。
「上の守銭奴をどうにかしないといけないが、流石に俺がどうこうやれることじゃねぇな」
ドウェイン自身も緊急依頼については諦めており、もう面倒くさいものと鼻から割り切っている。
時間は無駄にかかってしまったが諦めていたため、イラつき自体は一切なかった。
それよりも、ようやくオーガの首を斬った人物を探せるという嬉しさが勝っており、徹夜明けにも関わらずこのまま捜査を行おうとしたタイミングで、またしても部屋の扉がノックされた。
先ほど緊急依頼についての諸々の手続きが終わり、やっと作ることができた自由時間。
ため息しか出てこないドウェインであったが、二度目のノックで流石に返事をした。
「失礼します。緊急でご報告があります。オーガの――」
「ちょっと待て。さっき色々と手続きが終わったばかりだよな。休憩させてはくれないのか?」
「すいません。緊急を要することなので報告させてください」
緊急を要すること。
その言葉を聞いた瞬間、ドウェインは心臓が痛くなって胸を強く押さえた。
今一番聞きたくなかった言葉であり、これでオーガの首を斬った人物の捜索が更に後回しになることが確定。
この要件が済んだら、数日間の休暇を取ろう。
ドウェインは心の中でそう決めてから、わざわざ訪ねてきたギルド職員の話を促した。
「分かった。要件を話してくれ」
「先ほど出した緊急依頼ですが、達成したとの報告がありました。ギルド長にも確認してもらいたく、訪ねさせて頂きました」
「はぁ? 依頼を出したのは朝だぞ。まだ昼前で達成される訳がないだろ」
百匹近い数のオーガ近づいてきているとの報告を受けていた。
だからこそ、ドウェインはわざわざ緊急依頼を出したのだ。
この短い時間での達成報告となると、虚偽のものか目撃情報が嘘だったかの二択となる。
「ですが、本当に依頼の達成報告があったんです。しっかりと討伐証明も受け取っています」
「その達成報告をしてきた冒険者って誰なんだ?」
「中年ルーキー冒険者と、Bランク冒険者のアオイですね」
おっさんルーキー冒険者。
ビオダスダールの冒険者ギルドに勤めている者ならば、流石に全員が知っている冒険者。
冒険者達の間でも噂になっており、嫌でも耳に入ってくる情報。
ドウェインはすぐに命を落とすと予想していたのだが、思っていた以上に優秀だったようで、最速に近い速度でEランクに昇格した。
「中年ルーキー冒険者は置いておいて、アオイが絡んでいたなら納得だな。前回の【不忍神教団】の時もアオイの活躍だったよな?」
「はい。自分では倒していない――的なことを言っていましたが、交戦して追い払ったと記録されていますね」
アオイもまた冒険者達の間で話題になっていた人物。
新たな英雄の誕生だと騒ぎ立てていたが、ドウェインが見た限りではその器ではなかったと記憶していた。
もちろんソロでBランクまで登り詰めた実力は買っており、【不忍神教団】を追い払った実績も考慮した上での評価。
ただ、今回のオーガの群れを短時間で蹴散らしたのもアオイなのだとしたら、過小評価していたと改め直さなくてはならない。
「とりあえず討伐証明を見せてくれ」
「分かりました。こちらの袋に入っています」
オーガの首を斬った人物と同じくらいアオイに興味が湧いたため、さっきまでのイライラはいつの間にか消え去っていた。
ギルド職員からパンパンに詰まった麻袋を受け取り、早速中身の確認を行う。
「……本当に全部オーガの耳だな。特殊個体も目撃されていたって言っていたが、その耳も受け取っているのか?」
「もう一つの袋の方に入っているはずです」
普通のオーガの耳の確認を終え、別で分けられていた袋の中身を確認する。
何てことなく袋の中身を確認したのだが、その中に入っていた魔物の耳を見て、ドウェインは思わず声を上げてしまった。
「な、なんだ! この異様な状態は!」
「何か変だったんですか?」
「変も何も……全てが丸焦げになっている」
「あー、誤魔化すためにやったんでしょうか? 普通のオーガを特殊なオーガだと思わすため――みたいな」
ギルド職員が言っているような可能性もあるのだが、それにしては焼け方に違和感がある。
どのオーガの耳も全く同じ焼け方になっており、中までしっかりと焦げているのだ。
一度こういった不正をした冒険者がいたのだが、その時は表面だけ焦げており中は生焼けの状態だった。
超高火力の魔法でないとこういう焦げ方にはならず、緊急依頼を出してから達成までの短さを考えると、細工する時間などないことは容易に想像できる。
ただ……アオイが魔導士というのは聞いたことがないのが引っかかっている点。
「その可能性は薄いと思う。ちなみに被害はどれくらい出ているんだ?」
「三十人以上の冒険者が死んだとの報告を受けています」
「は? この短期間で三十人以上死んでいるのか? 益々訳が分からなくなってくる。……とりあえず現場に行かないと駄目だな」
「戦闘が行えるギルド職員を集めておきます。すぐに向かいますか?」
「ああ、今すぐに向かう」
オーガの首を斬った冒険者探しどころじゃなくなってきてしまったが、こっちはこっちでとてつもない大物の臭いがプンプンと漂っている。
剣術の超人に加え、恐らく魔法を扱う超人まで同時に現れた。
ドウェインはこの身が一つしかないことを残念に思いながら、オーガの群れが現れたという現場へと向かったのだった。
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