第29話 討伐の報告


 無事にビオダスダールの街まで戻ってきた俺達は、緊急依頼達成の報告のため冒険者ギルドにやってきた。

 未だに冒険者ギルドは賑わっており、依頼を早めに片付けたこともあって、平原に向かおうとしている冒険者もちらほらと見えている。


「まだ依頼を出しているみたいですね。多くの冒険者が緊急依頼を受けていますよ」

「ここまでの道中でも、平原に向かってるたくさんの冒険者とすれ違ったしな」


 ちなみにもうオーガがいないことをすれ違った冒険者に伝えたのだが、誰一人として信じてもらえなかった。

 片腕のおっさんという特徴があるせいで、俺がルーキー冒険者だという知名度が異様に高く、嘘を言っていると思われたのだ。


 態度を改めてくれたがオーガとの戦闘前はヒーラーの男にも馬鹿にされていたし、俺の扱いはそんな程度。

 俺は特に困ることはないため、今から向かったとしても構わないんだがな。


「そりゃこんな短時間で依頼が達成されたと思わないもん! ゴーレムを倒したところをこの目で見た私でも、オーガの群れをものの数分で全滅させたって信じなかったと思う!」

「あの戦闘を見られなかった人は本当に可哀想です! 語り継がれている英雄譚から出てきたみたいな、本当に圧倒的な戦闘でした! それと……ふふ、グレアムさんを馬鹿にしていた冒険者が歓声を上げたところは気持ち良かったです」

「戦闘中は本当にかっこよかった! こうしてみると、本当に冴えないおっさんなのになぁ……」

「ジーニアは言い過ぎだし、冴えないおっさんで悪かったな」


 俺の顔をまじまじと見て、心の底からガッカリとしたような声を漏らしたアオイ。

 自分でも冴えない顔をしていることは分かっている。


 村にいた頃から、女性からモテた試しがないしな。

 老人や子供からはよく好かれて声をかけられていたが、大抵は男の友人と酒を飲むことしかしていなかった気がする。


 そんな会話をしている間に、依頼達成報告の受付の順番が回ってきた。

 今朝のこともあったし、いつもの受付嬢さんに謝罪をしつつ報告をしたかったが、依頼の達成報告はこっちのみなんだよな。


「いらっしゃいませ。依頼報告ですね。納品がありましたら出してください」

「緊急依頼の達成報告にきた。この袋に討伐した証が入っている」

「……緊急依頼のですか? 冒険者カードを見せてください」


 俺の言葉を受け、道中に忠告した冒険者達と同じような表情を見せたギルド職員。

 完全に信用していないようだが、まだEランクだし信用度が低いのは仕方がない部分ではある。


「Eランク冒険者。疑っている訳ではないのですが、本当に討伐したのでしょうか?」

「本当に討伐していたぞ! 嘘じゃないことを私が証言する!」


 冒険者カードを見せながら、俺とギルド職員の会話に割って入ったアオイ。

 その冒険者カードは俺達のただの白いカードとは違く、銀色に光り輝いている。


「あ、アオイさんですか! アオイさんが言うのであれば間違いないですね。討伐証明の袋を頂いてよろしいですか?」

「もちろん。ここにオーガの耳が入っている」


 俺はレッサーオーガの耳が入った袋を、アオイはレッドオーガの耳が入った袋を手渡した。

 一応分けてみたものの、全身焼き焦がしてしまったせいで、耳だけでレッドオーガだと判別するのは不可能だと思っている。


 フレイムオーガに関しては、文字通り消し炭にしてしまったしな。

 今更、刀で斬り殺していれば報酬がもっともらえたのではと後悔しているが……悔やんだところでどうしようない。

 切り替えて報酬をもらうとしよう。


「確かにオーガの討伐証明は頂きました。こちらが今回の報酬となります」

「ありがとう」


 明らかに膨れ上がっている麻袋を手渡され、俺はスカしながらお礼を言ったものの、顔はだらしなくニヤけていると思う。

 手にズシリと感じる重さからして、いつもの報酬額とは桁が違うのだ。


「こちらの袋の確認が終わり次第、追加で報酬をお渡ししますので、また明日受け取ってください」

「えっ!? まだ報酬をもらえるのか!?」

「え、ええ。緊急依頼は貢献度に応じて報酬が支払われますので」

「そうだったのか……。分かった。ありがとう」


 これだけで終わりではなく、まだ追加を報酬がもらえるという話に我を忘れて声を荒げてしまった。

 スカしたことも完全に裏目に出たし、急に恥ずかしくなった俺は逃げるように冒険者ギルドから出た。


「いやー、報酬いっぱいでましたね! これでお食事回が開けますよ!」

「そうだな。Eランク昇格祝いと緊急依頼達成の二つだし、前回よりも豪勢にいこう。あと、報酬の計算と分配もそこで行おう」

「ふへへ、楽しみですね」

「ああ、楽しみだ」


 下品に笑うジーニアと顔を見合わせ、二人でいやらしい表情で笑い合う。

 ただ、鬱陶しいほど絡んでくるアオイは何故か一歩引いており、何やらタイミングを窺っているように見える。


「……? 何を急にモジモジしているんだ?」

「えー、いや帰るタイミングが分からなくて! なんて声を掛けて帰ろうか迷ってた!」

「えっ? ここで帰っちゃうんですか? 一緒に討伐したんですし、アオイちゃんも食事会に来ませんか?」


 報酬も分けていないし、俺もてっきりついてくるものだと思っていた。

 急にしおらしくなるとか、本当によく分からないな。


「ジーニアはレッサーオーガの群れを全滅させて、あんなに大口叩いた私は何もできなかったし……」

「そんなことないよ! 私だって別にいなくてもグレアムさんが一人でできちゃうし、アオイちゃんと同じ貢献度! グレアムさんの戦いの話で盛り上がりたいし、一緒に来てほしいな」

「別に無理来いとは俺は言わないぞ」

「行ってもいいなら……行く! ……これって正式にパーティに加入したってことだよね!?」

「それとこれとは別だろ。緊急依頼達成の――」

「みんなで食べるの楽しみだー! ジーニアとは色々と話がしたいし!」

「おい、無視するな」


 なんやかんやありつつも、アオイも含めた三人で食事会を行うことになった。

 二人でも楽しいが、祝い事は人数がいたほうが楽しいっちゃ楽しいからな。

 先ほどの冒険者カードのこととかも聞きたいし、早速酒場に移動して食事会を行うとしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る