閑話 この世でもっとも不幸な者


 メルギトス・グラハム・グリフィン・バーンフィールド。

 魔王領に彗星の如く現れた、魔人族にして歴代最高の魔王。


 数多の魔物を従え、三十歳という若さで魔王領を統一。

 更には長年、敵対関係にあったドラゴン族とも同盟関係を築いた。

 

 もはや魔王の行く手を阻むものはおらず、このまま世界を統べる王となる。

 魔王メルギトスを一度でも見たことがある者ならば、誰しもがそう思っていたのだが……。


「魔王様、報告申し上げます。トロール族の里ペギラカ、リザードマン族の住むジレブの湿地、そして――アンデッドの都リ・ヒュラガルがドラゴン族に襲撃されて壊滅致しました」

「……くそ。――クソがァ!!」


 メルギトスは怒りの爆発と共に思い切り椅子を蹴り上げた。

 大理石で作られた特注の椅子は粉々に砕け、室内は静まり返る。


 なぜこんなことになってしまったのか。

 全て最良の一手を打ち続け、長年成し得なかったドラゴン族との同盟までこぎつけた。


 それなのになぜ、魔王国最大の危機が訪れているのか。

 ……いや、理由は分かりきっている。

 

 どれも全て、あの小さな村のせいだ。

 更に正確に言うのであれば、あの村にいた化け物のような人間——グレアム・ウォードのせい。


 複数回に渡る魔王軍の襲撃を全て防がれてきた。

 あんな小さな村の兵士に軍を壊滅されたと聞き、最初は何かの間違いかとも思ったほど。


 それが二回目、三回目と全て壊滅させられ、四回目ではメルギトス自身が率いて村を襲ったが、グレアム・ウォードの前では手も足も出ず敗走。

 実際にグレアムの戦いを見た者からは、人間には手を出さない方が良いとの意見が出始め、メルギトスが魔王となってから初めて意見が二分した。


 実際にメルギトス自身も勝てる相手ではないと悟った上に、あれだけ小さな村も落とすことができないのに、奥に控えているであろう大きな街を落とすことなんてできるのかという疑念が生まれ始めていた。

 ただそれでも、ここまで一度の失敗もしたことのなかったメルギトスには、たった一人の人間に屈して諦めるという選択が取れなかった。


 これ以上の失敗は内部崩壊のリスクを生むと悟っていたメルギトスは、魔王軍の精鋭を搔き集め、全勢力を持って村を潰すことを決断。

 エルダーリッチ・ワイズパーソン、フェンリルロード、キメラトロスの三銃士に軍を率いらせた。


 そして更にメルギトスは、同盟を結んだドラゴン族の下に向かい、村を落とすことを成功したら魔王領の半分を譲ることを条件に、ドラゴン族の手を借りる約束を成しつけた。

 魔王領の半分を渡したとしても、人間の住む広大な領土が手に入るのであれば安いと考えた上での交渉であり、その莫大な対価を条件に出したことで――ドラゴン族の最古にして最強のドラゴン。

 エンシェントドラゴン率いる、ドラゴン軍が力を貸してくれることとなった。

 

 もはや過剰戦力であり、エンシェントドラゴン一体だけで余裕で壊滅することができると思っているが、これまでグレアムに屈して四度に渡り敗走させられてきた。

 絶対に油断はせず、全勢力をつぎ込んでまずはあの小さな村を潰す――はずだったのだが、全てを賭した五度目の侵略も失敗に終わってしまった。


「……なんでこんなことになっているんだ」


 メルギトスの涙交じりの小さな呟きに反応する者はおらず、広い部屋に響いてはすぐにかき消えた。

 合計2000を超える魔王軍の精鋭部隊も、長年メルギトスを支えた三銃士も殺され、魔王領の半分を渡してでも助力を得たエンシェントドラゴンも見るも無残な姿にされた。


 決してグレアム・ウォードを過少評価していた訳ではない。

 歴代最強の相手として捉え、一切の油断もなく全ての力を持って潰しにかかったが跳ね返されたのだ。


 古来より最強と謡われてきたエンシェントドラゴンが破れたことに動揺を隠しきれなかったが、そのことに一番衝撃を受けたのは魔族やメルギトスではなく、神のように崇めていたドラゴン族。

 そんなエンシェントドラゴンが殺されたことで、怒りの収集がつかなくなったドラゴン達が魔王領の各地で暴れ始めているというのが現在の状況。


 柱となっていた三銃士に加えて、魔王軍の精鋭も全て失ったことで対応し切れず次々と壊滅させられている。

 敵討ちと暴れ回るならグレアム・ウォードを襲えと言いたくなるが、ドラゴン族もエンシェントドラゴンを殺した相手にはビビッて手が出せないのだ。


 もはや盤石は尽き、打つ手が何一つとして残っていない状態。

 今、この世界で最も不幸な者は――間違いなくメルギトスだろう。




――――――――――――――

お読み頂きありがとうございます。

閑話 この世でもっとも不幸な者 にて第一章が終了致しました。


そして、皆様に作者からお願いです。

現時点でかまいませんので、少しでもおもしろい、続きが気になる!


――そう思って頂けましたら!

フォローと、レビューから☆☆☆をいただけると嬉しいです!!


二章以降も、頑張って執筆していこうというモチベ向上につながります!!

お手数お掛け致しますが、よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ

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