第19話 食事会
廃道から街に帰還し、すぐに冒険者ギルドでコープスシャウトの討伐報酬を受け取った。
今回の報酬は昨日のソードホークと同じ銀貨五枚。
二人で山分けし、俺の手持ちのお金は今日まで取って置いた分と合わせて銀貨四枚となった。
三日前までは一文無しだったのに、これだけの大金を持てていることについニヤニヤしてしまう。
「ふふふ、やっぱりお金がもらえると嬉しいですね! 思わず口角が上がってしまいます!」
「そうだな。安定して毎日銀貨二枚を稼げることができれば、少し贅沢をしながら暮らしていける」
「ですね! 冒険者だけでやっていけるなんて夢にも思ってませんでした! それで……グレアムさんは約束を覚えてくれてますか?」
「ん……? あー、食事会のことか?」
「覚えていてくれたんですね! ちゃんと稼げましたし、今日こそはお食事会をしましょう!」
ジーニアは飛び跳ねながら、食事会を行おうと力説してきた。
親睦が深まるだろうし、俺としても食事会はやりたい。
「懐にも少し余裕ができたから構わないぞ。場所は決めているのか?」
「んー、私が働いている酒場なら安くしてくれるかもしれません!」
「そこでいいか。泊めてもらった恩もあるし、お金を落とすとしよう」
「ええ! それじゃ早速向かいましょう!」
毎朝ジーニアを迎えに行っているし、特別感は一切ないが全然ありだな。
ジーニアに先導してもらい、依頼終わりでそのまま酒場へと向かった。
酒場についた時刻は夕方ごろ。
既に営業中のようだが、客は二人しか入っていない。
泊めてもらった時に軽く手伝いもしたのだが、立地が悪い影響もあってか客入りが相当悪いんだよな。
エルマ通りというポップな感じの名前の割りに、薄暗い雰囲気のある通りだから仕方がないといえば仕方がない。
「あれ、もう帰ってきたんだ。――って、今日はグレアムも一緒なのね」
カウンターに立って暇そうにしているこの女性が、この店の店主のカイラ。
年齢は三十代後半くらいで、恐らく俺よりも若干年下ぐらいだと見た目から推測している。
「はい! ここでお食事会をしたくて来たのですが大丈夫ですか?」
「構わないわよ。飲み食いした分のお金は払ってもらうけどね」
「もちろん支払いますよ! いつもありがとうございます!」
「お客ってことなら私の方がお礼を言う立場よ。グレアムは泊まる場所見つかったの?」
「お陰様で宿を見つけることができた。泊めてもらった時は本当に助かった」
「別に店のソファを一日貸しただけだし、ジーニアの頼みだったからね。それより……相変わらず不愛想ね。少しは笑ったらどう?」
この治安の悪い場所で酒場を営んでいるからか、ほぼ初対面でもズケズケと言ってくるんだよな。
不愛想なのは自分でも分かっているが、笑顔を作る行為が昔からどうも苦手。
花が咲くような笑顔を作れる受付嬢さんや、ジーニアが時折羨ましく思えてくる。
俺は手本となる二人の笑顔を思い浮かべながら、カイラに笑顔を向けた。
「……ふっ、あっはっは! あー、おかしい! 相変わらず笑顔がドヘタね。言った通り練習しているの?」
「イメージトレーニングはばっちりなはず」
「まぁまだ三日しか経ってないものね。私としてはこのままでも面白いからいいけど、もう少し自然な笑顔を作れるようにした方がいいわよ」
酒場に泊めてもらった時からだが、カイラは俺に笑顔を求めてはそれを肴にして酒を飲んでいる。
未だに飽きている様子がないし、自分がどれぐらい作り笑顔が下手なのか鏡で確認したい気持ちもあるが……それよりも確認する方が怖くて、今のところは見るに至っていない。
「ちょっとカイラさん! グレアムさんを馬鹿にしないでください!」
「別に馬鹿になんてしていないわよ。作り笑いが下手だから笑っているだけ」
「それを馬鹿にしているって言うんです! もういいので席に着かせてもらいますからね!」
「別にこれくらいの絡みで怒ることないのにねー。グレアムのこととなるとすぐにムキになるんだから」
なぜか怒っているジーニアの後についていき、店の一番奥のテーブル席に着いた。
大分昔に作られたであろうメニュー表を見ながら、何を注文するか二人で決めていく。
「グレアムさん、お酒は飲みますよね?」
「ああ、飲めるなら飲みたいな」
「酒場ですのでもちろん飲めますよ! 何のお酒を飲みますか?」
「何でもいいが……とりあえずビールを頂こうかな」
「分かりました! 食べ物はどうしますか? お好きな食べ物とかがあれば言ってください」
「好き嫌いはないし、美味しいものだったら全部好きだな。働いているジーニアのおすすめのものを食べたい」
「そういうことなら私に任せてください! カイラさん、注文しますよ!」
詠唱のような注文をするジーニアを見ながら、俺は水をちびちびと飲む。
村を出た時は……こんな生活が送るなんて思ってもいなかったな。
優しい人しかいなかったし村での生活も楽しかったが、村を出てからは見るもの触れるもの全てが新鮮で毎日が楽しい。
それもこれも、おっさんである自分なんかとパーティを組んでくれたジーニアのお陰だ。
「よーし、注文できました! どんどん料理が来ますよ!」
「ジーニア、本当にありがとうな」
「……えっ、急にどうしたんですか!? そんな今にもいなくなるようなトーンでお礼を言わないでくださいよ!」
「いや、なんとなく幸せだなとふと思ってしまった。ジーニアのお陰で俺がこの街で生活していけている」
「そんなことないですよ! グレアムさんは強いですし、私なんかがいなくてもやっていけましたって!」
ジーニアはそう言ってくれているが、俺は決して強い人間ではない。
もしかしたらジーニアよりも戦闘面では強いかもしれないが、村を出てからは思わず泣いたくらいには精神的に参っていた面があるからな。
受付嬢さんとジーニアの二人がいなければ、早々に逃げ出してフーロ村に戻っていてもおかしくないと思っている。
「いや、受付嬢さんとジーニアの二人がいなかったら、確実に心が折れていたと思う。ジーニアは俺を評価してくれているが、四十歳を超えた片腕のおっさんは世間的に評価されないからな」
「冒険者ギルドでグレアムさんを馬鹿にしてくる輩たちですね!! ……本王にムカつきますね! もう、今度グレアムさんを馬鹿にしてきたら、私がこうやってボッコボコにしますから安心してください!」
拳をブンブンと振り回しながら、顔を真っ赤にして怒ってくれているジーニア。
俺のために本気で怒ってくれる人が一人いるだけで、馬鹿にしてくる人を何とも思わなくなるから不思議だな。
「いや、止めてくれ。ジーニアがいてくれるから本気で何とも思っていない。変なのに目をつけられるのもごめんだし、今はこの生活が最高に楽しいしな」
「……ですね。私も今の生活が最高に楽しいので、怒るのは心だけに留めておきます! でもでも、殴りたいほどムカついた時はすぐ言ってください! 私が代わりにボコボコにしますから!」
「その時はお願いさせてもらう。ありがとうな」
「はい! 任せてください!」
拳を構えて満面の笑みを見せているジーニアに対し、俺もつい笑顔になる。
やっぱり色々な面で救われているな。
「あら、自然な笑顔ができているじゃないの。その笑顔よ、その笑顔。ほら、注文したお酒と料理を持ってきたわ」
「うわー、美味しそう! このチーズたっぷりのグラタンが本当に美味しいんですよ! お酒と一緒に食べてみてください!」
「香ばしい良い匂いだな。ビールにも合いそうだ」
「食べ終わった頃合いを見て、料理を持ってくるからね。それじゃごゆっくり」
俺のせいで少ししんみりとした空気にさせてしまったが、ここからは料理と酒を囲んで楽しい食事会にしなくてはな。
それから俺達は互いの昔話を話したり、今後の展開を決めたりと、最高に楽しい時間を過ごしたのだった。
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