第18話 デッドプリースト
デッドプリーストは後ろに控えさせていたゴーストウィザード二体を前に出し、俺を倒すように命令を出した。
ゴーストウィザードも旧廃道に現れた魔物の中でも、更にワンランク上の魔物ではあるが……そもそも俺はデッドプリーストよりも上位種であるリッチ。
そのリッチよりも上位種であるデスリッチ、更にデスリッチよりも上位種であるエルダーリッチ、更に更にそのエルダーリッチの上位種であるエルダーリッチ・ワイズパーソンを、1000のアンデッドをなぎ倒した上で倒しているからな。
当時は両腕があったとはいえ、ゴーストウィザードはおろかデッドプリーストにだって逆立ちした状態でも負ける気がしない。
戦力差が分かっていないゴーストウィザードは、健気にもデッドプリーストの指示に従って俺に魔法を放とうとしている。
魔法を受けてあげてもいいが、面倒くさいしもう殺していいだろう。
再び刀を構え、踏み込んで――間合いに入る。
そして、二体のゴーストウィザードを一瞬にして斬り裂いた。
ゴーストウィザードは実体のない魔物であり、普通ならばどれだけの威力で斬ったところでダメージは入らない。
デッドプリーストもそのことをよく理解しているようで、手下が斬られたのにも関わらず余裕の態度を変えていない。
「ほっほっほ、剣での攻撃は無駄なんですって。いくら斬ったところでダメージが入らないものは入らないのです」
「そうか? それにしては動く気配がないが……これはやられたフリなのか?」
「……? 何を倒れたフリなんてしているのです!? 早くその人間を倒しなさい!!」
必死に命令しているが、両断されて倒れているゴーストウィザードはピクリとも動かない。
それもそのはずで、俺は斬った一瞬だけであるが刀に魔力を帯びさせていた。
極めた超速の一撃でも、実体のない魔物にはダメージは入らない。
ただ、魔力さえ帯びさせてしまえば簡単にダメージが入るのだ。
「どうやら死んだフリではないみたいだな。散々馬鹿にしていたが、どうやらこの刀は実体がなくとも斬ることができるみたいだ。お前でもすぐに試させてやる」
会話も楽しみながら、余裕たっぷりだったデッドプリーストがここからどうするのかを予想しながらゆっくりと近づく。
諦めて襲ってくるのか、別の部下に襲わせるのか、それとも逃走を図るのか。
デッドプリーストは俺が一歩近づいた段階で即座に動きを見せ、その取った行動は――まさかの土下座。
持っていた杖も放り投げ、かっこつけていた全てをかなぐり捨てた綺麗な土下座だった。
フーロ村で長年魔物と戦ってきたが、この対応は流石に初めてだったため困惑してしまう。
油断を誘うポーズの可能性も考えたが、頭を地面につけた状態から一切動かないことを考えても、本当に完全降伏しているらしい。
「すいませんでした! 助けてください! 何でもしますので!!」
「…………さっきまでの態度は一体何だったんだ」
「かっこつけていただけです!! 最近は人なんかめっきりこなくなったし、久々の人間だから怖がらせた上で殺そうと思って!」
「殺そうとしていたのに、殺されると分かった瞬間に命乞いか。本当に情けない魔物だな」
「仰る通り、私は情けない魔物です! 本当に何でもしますので、どうか命だけは取らないでください!」
背を見せた瞬間に斬り裂くつもりだったが、土下座している相手は魔物と言えど気持ち的に攻撃しづらい。
想像もしていなかったため困り果て、俺は後ろにいるジーニアに助けを求めるように顔を向けた。
「ジーニアはどうしたらいいと思う?」
「えぇ! 私に聞かれても困りますよ! 魔物が喋るのも初めてみたのに、土下座なんて行動を取ったことに驚いているんですから! ……でも、話ぐらいは聞いてあげますか?」
「話ぐらい聞く……か」
話を聞いたら余計に殺すことができなくなりそうだが、ここまで完全降伏しているのであれば話ぐらいは聞いてもいいのかもしれない。
何でもすると言っているぐらいだし、何かしら俺達にメリットとなるものをくれるかもしれない。
「分かった。なんでもすると言っているが、お前が何をできるのか言ってくれ」
「チャンスを頂き、ありがとうございます! まずこの一帯の魔物をあなたのために動かすことが可能です!」
「アンデッドを自由にか? ……いや、別にいらないな」
「えっ、そんな! 戦闘要員としてはもちろんのこと、働き手としても重宝しますよ!」
「アンデッドなんかをどこが雇ってくれるんだ」
「畑かなんかを作って、そこで野菜でも育てれば……」
「畑から作れるならいいかもしれないが、アンデッドに畑を作ることなんて無理だろ」
どうやらこれが最大のメリットだったらしく、デッドプリーストは完全に言葉を失っている。
「な、ならば、この辺り一帯のものを差し上げます! こちらのローブなんかはいかがですか?」
「それはもうゴミだろ。それに、お前を殺した後でも持ち帰ることができる」
「む、むむむ……、ならば私があなたの使い魔となります! デッドプリーストを使い魔にできるなんて注目を浴びますよ!」
「いらないな。街に入ることができなくなる」
恐らく最後の案も突っぱねたことで、頭を抱えて倒れ込んだデッドプリースト。
案の上ではあったが、魅力的な案が一つもなかった。
「……すいません! これ以上は私にできることはないです! だけど助けてください! もう人を襲いませんので!」
頭を地面に擦り付け、必死に命乞いをしてくるデッドプリースト。
殺そうとしてきたのに生かしたままにするのは何か嫌だが、ここから刀を振り下ろす気にはなれなくなってしまった。
人を襲わないと言っているし、デッドプリーストを殺したところで特にメリットはない。
今後何かしらで役に立つことがあるかもしれないから、別に見逃してもいいかもな。
「……分かった。もう人を襲わないと約束するんだったらトドメは刺さない。ただし、街で人を襲ったという話を聞いた瞬間に殺しに来る。それでいいか?」
「ありがとうございます! もう絶対に人は襲いません! あなたのお名前はなんて言うのでしょうか?」
「俺はグレアムで、こっちがジーニアだ」
「グレアム様とジーニア様ですね! この廃道の長として、他のアンデッド達も人を襲わせません!」
「ああ。生きたいなら大人しくしているといい」
「はい! 何か困ったことがあったら、いつでも私のところに来てください! グレアム様の頼みなら何でも致しますので!」
「ああ。何かあったら頼みに来るかもしれない」
デッドプリーストを生かす判断が正解だったのか分からないけど、殺す理由もなかったし構わないだろう。
それにしても言葉も流暢だったし、あまりにも人間味のある魔物だったな。
あれだけ人間っぽいと、元は人間だった可能性なんてのもありそうだ。
「み、見逃しちゃいましたね」
「この判断が良かったのか分からないけど、まぁこの廃道には来なかったということにすればいいと思う」
「ですね。何か凄く人間っぽかったですし、私もこの旧廃道には来なかったということにします! それにしても……グレアムさんの戦いっぷりはやっぱり凄かったです! 勉強させてもらいますって言いましたけど、凄すぎて勉強にならなかったですもん!」
「日々努力すればジーニアも俺ぐらいならすぐになれるさ」
「その言葉を毎回聞きますけど、なれる気配が少しもないんですよねぇ……」
そんな会話をしつつ、俺達は来た道を戻ったのだった。
ちなみにデッドプリーストが指示を出したからか、旧廃道では魔物に襲われることはなく、楽に廃道までは戻ってくることができた。
廃道の魔物はデッドプリーストの支配下ではなかったようで、行きと同じように襲ってはきたが、体力の回復したジーニアが率先して倒しつつ、無事にビオダスダールまで帰ってきたのだった。
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