第17話 廃道


 廃道を進むこと一時間弱。

 依頼内容はコープスシャウト五体の討伐であり、既に五体のコープスシャウトを倒すことに成功している。


 ただ思っていた以上にこの廃道には魔物が多く存在しているため、依頼が早く終わってしまったからまだ引き返さずに廃道を進んでいる状態。

 ジーニアもまだ戦う元気が残っているようだしな。


「本当にアンデッドだらけですね。北の山岳地帯にいたアンデッド系の魔物も、この廃道から出た魔物なんですかね?」

「その可能性は高いかもな。体力的にはまだ大丈夫そうか? 一応この廃道で一番気配の強い魔物の下を目指しているんだが、ジーニアの体力次第ですぐに引き返すから」

「私はまだまだ大丈夫ですよ! それに体力が尽きたらグレアムさんが戦ってくれますよね?」

「まぁ俺が戦うこともできるが、ジーニアが戦わなきゃ意味がないからな。既に依頼は達成している訳だし」

「確かに……! じゃあ体力が持たなくなりそうだったら、早めに申告させて頂きます! でも、この廃道で一番気配の強い魔物は気になるんですよね。グレアムさんは倒せるんですか?」

「もちろん楽に倒せる。そうじゃなきゃ向かっていない」


 そこからは適度にジーニアの様子を確認しつつ、なんとなく強い気配の魔物がいる場所に向かっていった。

 進むにつれて道自体もどんどんと草木で覆われて険しくなっていき、また別の廃道にぶつかった。


 今出た道は、今まで進んでいた廃道を使う前に使っていた道であり、旧廃道ってところだろう。

 そして――この旧廃道を進んだ先に、俺が感じていた魔物が存在する。


「なんか凄いところまで来ちゃいましたね……!」

「この道の先に例の魔物がいるな。ジーニアは体力の方がどうだ?」

「進むにつれて魔物が強くなってきましたので、正直限界が近いかもしれません。でも、その魔物を見たいです!」

「なら、ここからは俺が倒して魔物だけ見に行くか?」

「はい! 見に行きましょう! どんな魔物なんですかね?」

「アンデッド系の魔物ではありそうだが、実際に見て見ないと分からないな」


 旧廃道にいる魔物は襲うことがないだろうし、ここから先は完全に無駄でしかないが……ジーニアが見たがっているし向かうか。

 それに俺もどんな魔物なのか少しは気になるしな。


 ジーニアと代わって俺が前に出て、ここからはいつものように斬撃を飛ばして魔物を狩っていく。

 旧廃道に入ってから現れた魔物は、影の騎士、ゴーストファイター、デッドナイト、亡霊貴族と、廃道に出現していた魔物からはワンランク強くなった魔物が出てきた。


 この程度の魔物なら、問題なく斬撃を飛ばしていれば簡単に狩ることができるが、ジーニアが相手するには少し大変な相手だったため俺に代わって良かったと思う。

 そんなことを考えつつ、進むにつれて増えていくアンデッドを次々に斬り飛ばしていく。


 前衛を俺に代わってからは移動速度が格段に上がり、あっという間に旧廃道で感じていた魔物の下まで辿り着くことができた。

 魔物自体も大したことがなかったし、ここを根城にしている魔物の気配もそう大したことはないから、サクッと倒してビオダスダールに戻るとしよう。


「な、なんか……急に背筋が寒くなってきましたっ! グレアムさん、近くに何かいますよ!」

「ああ。俺がずっと感知していた魔物がもう近い。あのゴミ溜まりの中心にいるな」


 旧廃道を進んだ先は開けて場所となっており、そこにあったのは長年不法投棄され続けたであろうゴミ溜まり。

 最近は流石に近づくものすらいないからか、捨てられているゴミは全て古いものなのが分かる。


 そんなゴミ溜まりのど真ん中にいるのが、今回追っていた魔物。

 今は姿が見えないが、見えないだけで存在していることは気配と漏れ出ている魔力で分かる。


「中心って、今見えているところですか? 私には何も見えないんですが……」

「姿を消しているだけだな。多分、光を屈折させて見えないようにしているだけの低級魔法を使ってる」

「透明になれる魔法なんて聞いたこともないんですけど、低級魔法でそんな芸当ができるんですか!?」

「俺もやろうと思えばできるぞ。無駄だからやらないが」


 魔法で姿を消すというのがそもそも無駄でしかない行為。

 気配を消さなければ、廃道に入った瞬間から俺に存在を気づかれているのが意味のない証拠であり、仮に気配を消していたとしても魔法を使ったら魔力で簡単に位置が割れる。


 その点、ゴブリンの別種であるブラックキャップは厄介極まりなかった。

 スキルで姿を見え難くすることができる上に、隠密行動がズバ抜けていたからな。

 意外と苦戦させられたブラックキャップを懐かしみながら、俺は隠れたつもりでいる魔物に忠告する。


「姿を隠しているつもりのようだが、全くもって意味のない行為だぞ。……まぁ言葉が分からない相手に言っても仕方がないだろうが」


 何気なく魔物相手に話しかけた俺は、刀を抜いて戦闘態勢を取る。

 どうせなら姿が見たかったのだが……隠れたままなら隠れたままで別に構わない。


 そう割り切り、斬りかかろうとしたその瞬間――。

 ゴミ溜まりの中心から声が聞こえてきた。


「ほっほっほ、ハッタリではなく本当に私の姿が見えていたのですね」


 そんな声と共に姿を現したのは、質の高い黒いローブや高価そうなアクセサリーを身に纏った魔物——デッドプリースト。

 姿hが先ほど討伐したコープスシャウトやリビングデッドと酷似しているが、デッドプリーストの最大の特徴は魔法使いのような装備を身に着けており、実際に魔法を扱うことができること。


「ぐ、グレアムさん! この魔物、言葉を話しましたよ!」

「言葉を話せる魔物ってことは、意外にも上位種の魔物なのか」


 魔王軍の中にも、時折人間の言葉を話せる魔物がいた。

 率いている隊の長は大抵喋ることができたし、知能が高い魔物は言葉を話せる魔物自体に驚きはないが、この程度の気配の魔物が喋るとは思っていなかったな。


「私をご存じではありませんでしたか。まぁ知っていたらわざわざ近づいては来ませんもんね。私はデッドプリーストという種族の魔物で、アンデッド族の最上位種です。そして――この辺りを一帯を取り仕切らせて頂いております」

「俺の知識とはズレがあるな。デッドプリーストごときがアンデッド族の上位種だったって覚えはない」

「ほっほっほ、強がりもここまで来たら面白いですね。剣で攻撃をしようとしていながら、私を“知っている”というのは無理がありますよ。これは私が出る必要もなさそうですね」


 デッドプリーストなんて、先陣を切って攻撃を仕掛けてきたアンデッド軍の一体でしかなかった。

 その程度の魔物が、なぜここまで上から来れるのか不思議で仕方ないが……まぁすぐに殺すしいいだろう。

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