閑話 酒場の噂話 その2


「なぁルーキー冒険者のおっさんが、ここまで失敗なしで依頼を達成してるって話聞いたかよ! こりゃもうFランクに到達するかもしれないぜ!」

「おいおい……お前、話題が古すぎるだろ。今はもうルーキーのおっさんなんか追ってる奴はいねぇって。なんたって、あの【不忍神教団】がこの街の付近に現れたんだからな!」


 いつもの酒場でいつものように、今一番旬な話が四方八方で行われている。

 今日の一番の話題は先日目撃情報のあった【不忍神教団】の話であり、この酒場に集まっている冒険者の大半も【不忍神教団】の討伐に出ていた。


「さっき遠征から帰ってきたばっかだから、【不忍神教団】の話は断片的にしか知らねぇんだよ! もうおっさんルーキーの話題は終わっちまったのか!」

「当たり前だろ。討伐できりゃ白金貨三十枚の破格設定。今日はEランク以上の冒険者が、血眼になって【不忍神教団】を捜索に出ていたからな」

「ただよ、捜索に行っていない俺が言うのも何だが……目撃情報があったっていうのに誰一人何も見なかったってのはどうなんだ? まぁ今回のは特別依頼であって、何も成果は得られなくとも一定の報酬を得ることができたから良かったんだろうけどよ!」


 ここまではどの卓でも話されている内容。

 愚痴る声も少なくはないが一定の額は報酬として貰えるため、ガセネタだったのではと全員が内心思っていながらも、そこまで大きな批判の声は出ていない。


「まぁガセネタだったってのが大多数の人間が思っていることだろうな。俺も実際に目撃情報があった地点に行ったが、人がいた痕跡すら残っていなかった」

「なんだよ! じゃあ【不忍神教団】が現れたって話はガセだったのか! まぁ王都を拠点にしていて、わざわざビオダスダールに来る意味も分からねぇしな!」

「……いや、冒険者ギルドに寄せられた目撃情報はガセだったが、実際に【不忍神教団】はこの街の近くに潜伏していたらしいぞ」


 ガヤガヤと騒々しいのだが、新たな情報には全員が過敏になっており、知らない情報が出た瞬間にいつものように店内が静かになる。

 この酒場では毎度の恒例行事であり、今更全力で盗み聞きされていたとしても何かアクションを起こしたりはしない。


「おい! また新情報を持っているのかよ! この間のルーキー冒険者のおっさんの時も情報を持っていたよな!」

「ここだけの話だが、この間の全員が俺の話に耳を傾けているあの感覚が忘れられなくてな。【不忍神教団】の特別依頼が出された瞬間に、情報屋を使って事前に調べていたんだ」

「なんだそりゃ! それだけのためだけに、もしかして身銭を切って情報を集めたのか? 正直引くぞ」

「当たり前だろ。でも、その甲斐あって誰も知らない有力な情報を俺は持っている。お前は知りたくないのか?」

「そりゃ……知りたいには決まってるわ! いいからどういうことか教えてくれ!」


 一連のやり取りを聞き、全員の耳はこの卓に向けられた。

 情報の信憑性も高く、まだ世には一切出ていない新しい情報。

 その情報を知りたくない人間など、この酒場には存在しない。


「実はな、【不忍神教団】は南ではなく北に潜伏していたって話なんだ」

「北? 北って言うと、あの山岳地帯か?」

「そう、北の山岳地帯。そして、その山岳地帯に最初から狙いを定めていた冒険者がいたんだ。お前もよく知っている冒険者だよ」

「山岳地帯に行っていた、俺のよく知っている冒険者? まさか……ルーキー冒険者のおっさんか?」

「ちげぇよ、馬鹿か。――Bランク冒険者のアオイだよ」

「Bランク冒険者のアオイって言ったら、ソロで冒険者をやっているあのアオイか?」

「そう。ずっとソロで冒険者をやっている変わり者だが、その実力は本物。ソロでBランク冒険者だから、パーティを組めば余裕でAランクに到達する逸材と言われている」


 アオイという冒険者は、ビオダスダールで冒険者をやっている人間なら知らない者などいないぐらいに名を馳せており、思いがけない名前の登場で場は瞬く間にザワつき始めた。


「アオイは、北に【不忍神教団】がいるってことを読んでいたってのかよ!」

「そういうこと。そして実際に、【不忍神教団】と交戦したって報告がされたらしい」

「ただの出まかせじゃなくて本当なのか? 俺には訳が分からねぇ!」

「捕まえられはしなかったけど、追い払ったとからしいぞ。実際に【不忍神教団】が使用していたテントを持ち帰ってきたらしいからな」

「一人であの【不忍神教団】を追い払ったってことだよな? 凄すぎるだろ! これ……新たな英雄が誕生したんじゃねぇのか?」

「何かしら理由があって正式には受理されなかったみたいだから、まだBランク止まりみたいだけどな」

「関係ないだろ! 変人ってのは知っていたが、こうも逸話が出てくるとその変人っぷりもかっこよく見えてくるな!」


 冒険者は同じ冒険者は好かない傾向にある。

 ただあまりにも飛び抜けた逸話というのは大の好物であり、大いに盛り上がり持ち上げる。


 アオイが残した今回の功績は“飛び抜けた逸話”というのに当てはまり、この噂話は酒場で盗み聞きしていた冒険者を介して一気に広まって、ビオダスダールの街全体で噂されるほどになるのだが……。

 その渦中のアオイが、ルーキー冒険者のおっさんというよく分からない色物の中の色物を付き纏うことで混乱を極めることになるとは――この酒場にいる誰一人としてこの時は想像もしていなかった。



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