第15話 ささやかな至福
【不忍神教団】の下っ端たちを助けた後、俺達は無事に帰りの道中でソードホークを見つけることができ、狩ることにも成功した。
武器の素材になるかと期待していたくちばしの方はというと、正直期待外れも良いところ。
ただの先端が鋭いだけのくちばしで、武器になるどころか調理すれば食べられるぐらいに柔いものだった。
期待していた分残念な気持ちになったものの、簡単には狩ることができたし依頼は無事に達成。
昨日の倍以上となる銀貨五枚をこれで稼いだこととなる。
ウキウキ気分で冒険者ギルドへ直行した俺達は、ソードホークの死体を納品して無事に銀貨五枚を受け取ることができた。
「やりましたね! これで二日連続の依頼達成ですよ! それも銀貨五枚です!」
「銀貨五枚は大きいな。流石にまだ食事会はできないが、一人銀貨二枚と銅貨五枚は収穫だろう」
「全部グレアムさんのお陰です! もし明日も依頼を達成することができたら、今度こそお食事会を開きましょうね!」
「だな。明日も銀貨五枚稼げたら、ささやかだけど食事会は開くことができると思う」
「ふふふ、今から楽しみです! 依頼も楽しいですし、つい一昨日まで死にそうになっていたなんて思えない変化ですよ!」
「俺も同じだ。この街に来てから一番に知り合えたのが受付嬢さん。そして受付嬢さんから紹介してもらったのがジーニアで本当に幸運だった。こんなおっさんに優しくしてくれてありがとう」
「お礼を言うのはこっちです!! ぜーんぶ助けてもらっているんですから! 明日もよろしくお願いしますね!」
冒険者ギルド前でジーニアと別れ、俺は気分よくビオダスダールの街を闊歩する。
一泊で銅貨六枚を使っても、残るは銀貨一枚と銅貨九枚。
明日、食事会を行う用として銀貨一枚は取っておくとして……銅貨九枚は使える。
村を出てからずっと切り詰めて生活していたが、少しだけゆとりが持てた。
さて、銅貨九枚で何をしようか。
正直なところ服とか下着とか欲しいが、今は流石にそんな贅沢は言っていられない。
銅貨九枚でできる贅沢は、晩飯を多少豪華にすることぐらい。
昨日はカッチカチのパンに、グレイトレモンを挟んだだけの質素すぎる飯だったからな。
昨日、屋台街を歩きながら食べたい料理の目途は既につけている。
宿に戻る前に屋台街に寄って、晩飯を買うとしよう。
屋台街で目星のつけていたご飯を買って、安宿に戻ってきた。
今回買ったのは……味の染みたイカに米が包まれたイカ飯、様々な具材が煮込まれたポトフ、買う予定がなかったが最高に美味しそうな匂いに釣られて買ってしまった豚肉串、そして――小さなカップに入った安酒。
とうとう酒にまで手を出してしまった。
フーロ村にいた頃から酒は大好きだったが、村を出てからは飲むことなんてできずに我慢する生活を送っていた。
酒場で寝させてもらった時、嫌でも匂ってくる酒の香りが一番つらかったな。
我慢した甲斐はあり、とうとう自分の手で酒を手に入れることができた。
部屋に入り、誰も見ていないことをいいことに、酒に頬擦りしてからまずは一口流し込む。
――くっは、最高だな!
体が僅かに火照る感覚を味わいながら、匂いに釣られて買ってしまった肉串をかぶりつく。
そしてまたすぐに酒を流し入れ、次は昨日から狙っていたイカ飯を頬張る。
ボロすぎる部屋ではあるが、こうして落ち着ける場所で美味しい飯を食べることができている現実。
一切の考えもなしに村を出た時はどうなるかと思ったが、今のところは楽しくやれている上に酒まで飲めるぐらいに仕事にはありつけた。
腕のせいで本調子ではないのが申し訳ないが、受付嬢さんとジーニアのお陰で何とかやれている。
ここまでは優しくされっぱなしであり、未だに道中の村で出会ったおばあさんの約束は果たせていない。
もう少し自分の生活にゆとりを持つことができたら、約束を果たすべく人を助ける活動をしてもいいかもしれない。
まずはジーニアのためにも自分のためにも冒険者としての活動が第一だが、近い内にそんな活動をできたらいいなと夢を思い描きながら、俺は安酒と美味しいご飯を食べながら幸せなひと時を過ごしたのだった。
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