第14話 怪しいテント


 チラッとマックスの顔を見ると、表情に陰りが見えていて焦っているように見えた。


「あのテントは何だ? 何かを隠しているのか?」

「い、いえ! 隠すつもりはなかったのですが……あのテントには捕らえた人間がいるんです!」

「捕らえた人間? どこかから攫ってきたのか?」

「ち、違います! 本当に違います! グレアム様が来る少し前にここを一人で襲ってきたんですよ! 話を聞けば分かると思います!」

「……とにかく話をさせてくれ」


 流石に気になるため、マックスにテントまで案内させる。

 テントを開けると、中には両手を後ろで縛られ、口を布で塞がれている女性の姿があった。


 ショートカットの黒髪であり、顔立ちが整っているのが口を塞がれていても分かる。

 この状況を見るなり、【不忍神教団】が攫ってきたとしか思えないが、縛られている女性の服装がかなり気掛かりだ。


 全身黒装束であり、【不忍神教団】の構成員と服装が酷似している。

 仮に縛られていなければ、俺は【不忍神教団】の構成員と思っていたぐらい。


「本当にこの女性がここを襲ってきたのか? 見た目が完全にお前達の仲間にしか見えないんだが」

「この服装こそがここを襲った証拠なんです! 構成員になりすまして潜り込み、タイミングを見計らって殺そうとしてきたんですよ! とりあえず話せば分かってもらえると思います」


 マックスはそう言うと、女の口を塞いでいた布を外した。


「ぶはぁー! やっと外してくれた! なぁおっさん、テントの隙間から見ていたぜ! どうやってゴーレムを倒したんだよ! 只者じゃねぇな!」


 口枷が外されて話し始めたと思いきや、捕まった経緯ではなく俺の戦闘の感想を話し出した女性。

 顔に似合わない雑な喋り方も相俟って、何も聞いていない状態だがマックスの話に嘘はなかったのだと思ってしまっている。


「ゴーレムのことより、なんで捕まっていたのかを教えてくれ」

「んあ? 今そいつから聞いていたじゃん! ここに潜入して、その男を殺そうとしたところ失敗して捕まった! それ以上もそれ以下もない! ……それより、ゴーレムをどうやって倒したのか教えてよ! この位置からじゃ、ゴーレムが勝手に崩れていったようにしか見えなかったんだ!」


 少しも悪びれる様子のない自白に思わず苦笑いしてしまう。

 いや、まぁ……【不忍神教団】は悪い盗賊団であり、冒険者ギルドからも直々に討伐依頼が出されているため、襲っていたとしても捕まっていた女性が悪い訳ではないんだがな。

 フーロ村では人と人が敵対するということがなかったため、かなりの違和感を覚えてしまう。


「マックスの言っていたことは本当だったな。とりあえずその女性を解放してもらえるか? 俺との約束をした訳だし、この女性にももう手出しはさせない」

「もちろん解放させてもらいます!」


 手の拘束具も外したことで、ようやく自由の身になった黒装束の女性。

 解放された瞬間に襲わないかを心配していたのだが、どうやら【不忍神教団】にはもう興味がなくなったらしく、脇目も振らずに俺の元に近づいてきた。


「助けてくれてありがとな! それよりもゴーレムをどう倒したのか教えてくれ!」

「普通に斬っただけだ。それより俺達はもう帰るが、お前も【不忍神教団】には手出しせずに帰るんだぞ」

「おい! ゴーレム相手に“斬った”なんて答えはないだろ! 教える気はないってことか?」

「本当に斬っただけだ。それよりも手出しはしないと約束してくれ」

「なるほど! 教えてくれないなら――その約束はできないな! 今からこいつら全員捕まえて、兵士に突き出す! どうする? 私を止めるなら力づく以外方法はないぞ!」


 懐から短剣を抜くと、ニヤリと笑って俺に対して構えた。

 もう【不忍神教団】に興味はないが、俺と一戦交えるための口実ってところだろう。


 そもそも【不忍神教団】に負けたから、こうして捕まっていた訳で……ほっといてもマックスにやられるだけだろうが、ここで無視して仮に死者が出たら目覚めが悪い。

 口車に乗る形だが、戦ってあげるくらいならしてもいいか。


「なら、力づくで止めさせてもらう」

「いいねぇ! んじゃ、外の広いところで戦おうぜ!」

「いや、ここで十分だろ。それじゃ戦闘開始ってことでいくぞ」

「えっ、嘘! こんな狭いところでやるのかよ!」


 山岳地帯に強い気配を感じなかったというのは、もちろんながらこの女性も含まれている。

 わざわざ準備を整えなくとも、一瞬で終わらせることができるからな。


 静止している俺に対し、困惑しつつも斬りかかってきた黒装束の女性。

 短剣とはいえ本気で斬りかかってきたが、俺はその迫り来る短剣の刃をつまみ、難なく取り上げる。


 何が起こったのか理解できず、呆けた表情で固まっている黒装束の女性の背後に一瞬で回り込み、後ろから首元目掛けて手刀を落とす。

 この一発で勝負はあっさりと決まった。

 気を失った黒装束の女性が倒れたところを支えて、ゆっくりとテントに寝かせる。


「本当に凄いです! 流石はグレアムさんですね!」

「どんな人生を送ったらここまで域に辿り着くのか……。盗賊団なんかをやって逃げていたのが恥ずかしいです」

「無駄に持ち上げ過ぎだ。それよりも、このテントとこの女性は放置したままにしておいてくれ。起きたら勝手に街に帰るだろうからな。マックスも見つかる前に早く王都に引き上げろよ」

「ええ、分かりました。本当に今日の御恩は一生忘れません。勝手ながら人生をやり直したいと思います」

「そうか。よく分からないけど頑張ってくれ」


 何か感慨深くなっているマックスの言葉を適当に受け流しつつ、今度こそ本当に俺達は依頼に戻ることにした。

 まぁ下っ端なら簡単に抜けることができるだろうし、人生をやり直すことはできるはず。


 逃がすことが良い行いだとは思っていないが、ルーキー冒険者である俺ができるだけのことはやった。

 さてと、気を取り直してソードホーク探しに戻るとしよう。


 ゴーレムで報酬が貰えればいいんだが、依頼を受けていないから無理だろうからな。

 ここからソードホーク探しは骨が折れるが、ジーニアと話しながらゆっくりと探すとしようか。


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