第13話 試し斬り
「まずは右のゴーレムから倒せと言っているだろ! だから――無駄に近づくなッ! 遠距離から攻撃を……くっそ。なんでこんなところにゴーレムが現れやがったんだ!」
リーダーらしき男が必死に指示を飛ばしているが、半数以上やられているせいでパニック状態となっており、指示に従わずに特攻しているような状態。
その無駄な特攻のせいで新たに二人がやられ、リーダーらしき男の目は諦めの色が見える。
すぐに参戦すれば二人がやられる前にゴーレムを破壊することができたが、相手が【不忍神教団】だと分かった以上は下手に助けることはできない。
まずは手出ししないことと、すぐに退かせることを約束しないと駄目だ。
「ちょっと話を聞いてもらってもいいか?」
「誰だッ! 今は無駄な話を――って、あんたら本当に誰だ!? どっから湧いてきた! ……もしかして俺達を捕まえに来た冒険者か? いや、でも南側の捜索に向かっているはず……」
「襲われているのを気づいて助けに来たんだが、お前達は【不忍神教団】だろ」
「やはり俺達への追手……! ゴーレムに襲われて半壊したところに追手の冒険者。……全ての作戦が失敗したというのか」
「勝手に落ち込んでいるところ悪いが、俺から出す条件は一つだけだ。助けてやる代わりに、誰にも手出しせず王都に引き上げろ。その約束ができるならゴーレムから助けてやってもいい」
まさか助けてくれると思っていなかったようで、リーダーらしき男は口を開けて放心している。
この間にも襲われている人がいるため早く約束してほしいのだが、返事をしない限りは助けるに助けられない。
「俺達を助け……る? 言っている意味が分からない」
「そのままの意味だ。引き上げるならゴーレムから助けて見逃しやる。できれば【不忍神教団】からも脱退か自主をしてほしいんだが、そこまで求めるつもりはない」
「ひ、引き上げるだけで見逃しても貰えるのか? なら助けてくれ! 引き上げると必ず約束する!」
「分かった。約束は破らないでくれ。俺は人相手に手荒な真似はしたくないからな」
俺の足にしがみつき、必死に懇願してきたリーダーらしき男にそう言葉を残してから、俺はゴーレムに向き直した。
魔法をいつでも放てる準備が整っているため、予定通り刀で斬り裂いていくとしよう。
今回は飛ぶ斬撃ではなく、直接斬り裂きにかかる。
ただのゴーレムといえど、流石に飛ぶ斬撃では斬れないだろうからな。
俺は刀を抜き、ゴーレムに向けながらゆっくりと近づいていく。
逃げている【不忍神教団】の構成員を追いかけ回していたゴーレムだったが、近づく俺に気づいた瞬間に拳をこっちに向けて構えてきた。
「お、おい! ゴーレムには物理攻撃は通用しない!! も、もしかして魔法が使えないのか!? ――くっそ! デカい口叩いてたのに、そんなことも知らねぇ雑魚だったのかよ! 命乞いが無駄だったじゃねぇか!!」
後ろでぼろくそに言い始めたリーダーらしき男だが、俺に対する暴言くらいは大目に見てやろう。
……さっきの約束を破ったら本気で容赦はしないけどな。
そんなことを考えつつ、距離が縮まっていくゴーレムに狙いを定める。
ゴーレムの体を形成している岩の隙間から、緑色の光りが漏れ出ているのが見えた。
あれがゴーレムの核であり、あそこをぶった斬ればゴーレムは絶命する。
感覚としてはスライムと似たような感じであり、核さえ壊せればどれだけ外側が無事でも動かなくなる。
まぁ俺は自分の力の試しのため、一体目だけは試し斬りをさせてもらうけどな。
ここまで戦ってきた魔物とは違い、ゴーレムは両腕があった状態でも戦ったことのある魔物。
両腕だったときと片腕の今との、良い判断材料になるはずだ。
俺が間合いに踏み込んだ瞬間――ゴーレムの拳が飛んできた。
「グレアムさん!」
ジーニアの心配そうな声が耳に届いたが、返事はせずに代わりにゴーレムの腕を斬ったことで心配ないということを伝える。
拳が振られてから俺に到達する前に、縦にニ十、横に三十の線を入れてみせ、ゴーレムの拳が俺に触れた瞬間、ゴーレムの左腕はボロボロと一気に崩壊した。
俺の刀の動きが見えていなければ、殴った瞬間にゴーレムの腕の方が壊れたように見えるだろう。
それは殴ったゴーレムも同じだったようで、無機質の魔物なのにも関わらず困惑したような態度を見せた。
得体の知れないものに出会ったかのように、じりじりと後退を始める一体のゴーレム。
ただ感情のないゴーレムらしく、すぐに切り替えると今度は右足で蹴りを仕掛けてきた――が、右足も同じように賽の目状に粉々に斬り裂く。
またしても蹴りを入れた足が俺に触れた瞬間に粉砕し、左足だけとなったゴーレムはバランスを崩して転倒。
俺はゴーレムを見下すようにし、戦闘能力がなくなったことを確認してから、核の部分を隠している胴体ごと真っ二つに斬り裂いた。
核が壊れたゴーレムはただの瓦礫となり、俺は残る二体のゴーレムに刀を向ける。
ここまでは試し斬りの目的もあったが、もう試すことは試せてたし残る二体は瞬殺して構わないな。
向けていた刀を一度納刀し、近づいてきたゴーレムが間合いに入った瞬間に――居合斬りで核を一刀両断。
残る一体は正面から歩いて近づき、拳を振り上げたところを懐に潜って核を一突き。
あっという間にゴーレムの三体分の瓦礫が出来上がり、俺の戦いっぷりを見ていた周囲の人間からは大歓声が上がった。
【不忍神教団】の構成員の声が大半の中、誰よりも声を張り上げているのはジーニア。
気絶するのではと思うぐらいの叫びっぷりで少し心配になる。
浴びせられる大歓声に少し恥ずかしくなりつつも、俺はジーニアとリーダーらしき男のいる場所に戻った。
「凄いです! グレアムさん、本当に凄いですよ!! 私、ここまで興奮したの初めてです!」
「そんなことはない。ジーニアもいつかはできるようになる」
実際にこの場には実力者がいなかっただけで、俺自身今の動きに満足できていたかと問われたら首を捻らざるを得ない。
両腕を使えていた頃はもっと速かったし、動きとしてはやっぱりいまいちなんだよな。
今回は普通のゴーレムだったから良かったが、パーティメンバーであるジーニアをしっかりと守れるようにするためにも、年齢を理由に怠けることはせず強くならないといけない。
「いやいやいやいや、今の私では全然そんな未来が見えないですよ!」
「俺もこの域に達したのは三十を超えてからだ。元々できた訳じゃないし、努力次第でなんとでもなる」
「やっぱり努力が何より必要なんですね……! 私も精一杯頑張ります!」
「ああ、頑張れ。ジーニアが求める限り、俺もできる限りの指導はするつもりだ」
「――と、話しているところ悪いですが、助けてくれて本当にありがとうございました! あなたのお陰で命拾いすることができました!」
ジーニアと熱い話をしていた中、タイミングを見失っていたリーダーらしき男が無理やり会話に入ってきた。
心情的には話の良いところで邪魔するなと言いたかったところだが、一人放置していたのは悪かったか。
「いや、助けると約束したからな。それよりも俺との約束は覚えているよな? もし約束を破るって言いだすようなら……」
「――も、もちろん約束は守らせて頂きます!! も、もう【不忍神教団】からも脱退しますし、私だけじゃなくてこの場にいる他の構成員達も同じ意見だと思います! だ、だから、どうか手荒な真似だけはご勘弁ください!!」
地面に頭を擦り付けながら、脱退宣言までしてきたリーダーらしき男。
戦闘が始まる直前はボロクソに文句を言ってきた訳で、ここまで態度が変わるとつい疑ってしまうな。
「その言葉、本当か? ゴーレムと戦う直前に文句を垂れていたのを俺はちゃんと聞いているぞ」
「い、いや、あれは……。す、すいません! 死ぬかもしれないって思っていた時でしたので、色々な感情が口に出てしまっただけなんです! 本当にもう【不忍神教団】からは足を洗いますので、どうか信じてください!」
おでこから血が出るくらい地面に擦り付け始めた。
言葉も本気のようだし、ここまで頭を下げるなら……信用してもいいのかもしれない。
「……分かった。まずはお前の名前を教えてくれ」
「私の名前ですか? 私はマックス・ラドクリフと申します!」
「マックスだな。名前はしっかりと覚えさせてもらった。もし俺との約束を破るようなら――皆までは言わなくても分かるよな」
「わ、分かってます! 絶対に約束は守ります! あれだけのお力を見て、約束を破るなんて恐ろしい真似は絶対にできません!」
「そうか。なら信じさせてもらう」
俺はマックスに手を差し出し、握手を交わした。
「ありがとうございます! 助けてもらったこの御恩は一生忘れません! あなたのお名前は何というのでしょうか」
「俺はグレアムという名前だ」
「グレアム様ですね。グレアム様……。完璧に覚えました! 王都に来る機会があった際は顔を見せてください。私が案内させて頂きます」
「機会があったらよろしく頼む。それより、マックスはこれからどうするんだ?」
「とにかく今いるメンバーを束ね、一度王都に戻る予定です! そこからはすぐに【不忍神教団】を抜けます!」
別に抜けろとまでは約束させていないのだが、悪い組織なら抜けた方がいいだろうし止める必要もないか。
「それじゃ特に護衛とかはいらないな。俺達は別の依頼が残っているからもう行かせてもらうぞ」
「はい、ここから先は大丈夫です! 本当にありがとうございました!」
「約束さえ守ってくれればお礼なんていらない。それじゃ俺達は行かせてもら――」
話をここで切り上げ、ジーニアと共にこの場所から離れようとしたのだが、【不忍神教団】のテントの一つが跳ねるように動いており、口ごもっているような感じで非常に聞こえづらいが、助けを呼んでいるようにも聞こえる。
これは流石に怪しすぎるし、このまま放置して帰るってことはできないな。
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