第12話 北の山岳地帯


 山岳地帯に現れた魔物はアンデッド系の魔物が多かった。

 ただ、ゾンビやがいこつ、ワイトなどの下級アンデッドばかりで、魔法を扱ってくる魔物すらいない状況。


 山岳地帯なだけあって道は険しいが、その分見通しがいいためジーニア一人でも倒すことができている。

 今のところ、ボーンナイトだけが少し厄介そうだったため、この一匹だけは俺が斬撃を飛ばして始末したが、他の魔物は全てジーニアが倒している。


「左からワイトが来ているぞ。動きの癖はもう分かっているな?」

「はい。ワイトは二回連続で攻撃した後に一度体勢を立て直す――でしたよね!」

「ああ。明確な隙があるから、連続での攻撃を誘って倒すんだ」

「分かりました! グレアムさんの指示に従って動くと、景色が違って見えて本当に楽しいです!」


 ジーニアは元気に返事をすると、短剣も構えずにワイトに突っ込んでいった。

 そしてそのままノーガードで攻撃を誘い、まんまと乗ってきたワイトの攻撃を楽々躱していく。


 昨日今日で完全に自分の目の使い方を覚えてきたようで、今は如何にギリギリで敵の攻撃を躱すかに凝っているように見える。

 俺としては余裕を持って躱してほしいところだが、相手が相手だし攻撃を受けたところで今のところは致命傷となる怪我を負うことはない。

 過保護になりすぎても成長しないため、今は静観してジーニアの好きなようにやらせている。


「――っと、二回連続で攻撃しちゃいましたね。それをやっちゃったらおしまいです!」


 そう言いながら、踊るような足さばきで近づくと、ワイトの魔力核を短剣で斬り裂いた。

 力の供給源がなくなったワイトは力なく倒れ、そのことを確認したジーニアは振り返りながらピースサインを送ってきた。


「いい戦いっぷりだった。昨日はゴブリンに怯えていたとは思えないほど、すっかり戦いにも慣れてきたな」

「グレアムさんのお陰です! 本当に危険な時は指示に従っていればいいって安心感もあって、自由に楽しく戦えています。戦うことにドハマりしそうですよ!」

「楽しいと思うのは良い事だが、あまり油断はし過ぎるなよ。俺でも助けられないことだってあるからな」

「はい。命は大事ですので十分に気をつけて戦います! ……それより、例の大人数がいる地点ってまだなんでしょうか? もう結構歩いてきてますよね?」

「あと十五分くらい歩いた先にいるぞ。ただ何か戦闘を行っているようなのが少し気掛かりではある」

「何かと戦闘? 魔物とでしょうか」

「魔物っぽい気配だな。人間側の気配の数が減っているし、少し急いだほうがいいかもしれない」


 戦っているであろう魔物の方の気配も大したことがないのだが、四十人以上いても対応できていないのが一切連携の取れていない動きで分かる。

 気配も徐々に消えており、魔物にやられていることが分かるため少しだけ急ごう。

 あくまでも大事なのはジーニアの命のため、支障が出ないように少しペースを上げ、大人数が集まっている場所に向かった。



 道中で出会った魔物は俺が一撃で仕留めながら進み、気配を感じ取った場所に辿り着いた。

 気づかれないように遠くから見ているのだが、何だか俺が思っていたのとは様子が違うな。

 気配が弱いから困っている一般人かと思っていたが、ここから見た限りでは【不忍神教団】にしか見えない。


「うわっ! 本当に大勢の人がいましたね。山岳地帯の入口からこんな先まで感知したって凄すぎませんか?」

「それより、俺が思っていたのと少し様子が違った」

「え? どういうことですか?」

「多分だが、あそこにいる人達は【不忍神教団】の連中だと思う。木で柵を囲っている中に盗品のようなものが見える。それと、恰好も如何にも盗賊って感じの衣装だ」


 基本的に黒い装束のような服で、大半の人間がターバンで顔を隠している。

 一般の人間の可能性もあるけど、わざわざこんな怪しい恰好はしないだろう。


「そうなんですか!? 【不忍神教団】だとしたら近くにマークみたいなのありませんか? 特徴的なマークを掲げているんです」

「あー、大きな目を背景に両手を合わせたようなマークの旗がある」

「うわっ、間違いなく【不忍神教団】のマークです! でも、なんで南にいるはずなのにこんな山岳地帯にいるんでしょうか」

「分からないが、南と北の二手に分かれて襲うつもりだったのかもな。強い力を持つ人間も見当たらないし、別動隊ってところだろう」

「なるほど……。それでグレアムさんはどうするんですか? 助けるんでしょうか?」


 そこが一番の問題である。

 掲げているマークが【不忍神教団】のものと分かった以上、別動隊とはいえ悪い人間の集まりなのは間違いない。


 ただ、悪い人間とはいえ同じ人間。

 襲っている魔物は普通のゴーレム三体と大したことない魔物だし、サクッと助けてあげても良い気もする。


「半数近くやれているようだし、手出ししないことを条件に助けてあげてもいいかなと思っている。ジーニアはどう思う?」

「確かに悪い人間とはいえ、見過ごすのは目覚めが悪いですもんね。グレアムさんが助けると決めたなら反対はしませんよ」

「なら助けようか。あれだけ派手にやられていたら、俺達に反抗する力もないだろうし」

「でも、肝心の魔物の方は大丈夫なのですか? 襲っている魔物に見覚えがありまして、ゴーレムっていう凶悪な魔物なはずなんですけど」

「ミリオンゴーレムなら骨が折れるが、普通のゴーレムなら何ら問題ない。ジーニアは俺の後ろで見ていてくれ」

「分かりました。戦いを見て勉強させてもらいます!」


 物理攻撃に高い耐性を持ちながら、魔法を完全無効するミリオンゴーレムでない限り、俺が苦戦を強いられることはない。

 普通のゴーレムも斬撃が多少効きづらくはあるが、魔法が超特攻だからな。


 今のところは刀でぶった斬るつもりだが、いざという時のために魔法をいつでも使える準備をしておく。

 俺は左腕があった場所に念のための魔力を這わせながら、襲われている【不忍神教団】の下に歩いて向かった。

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