第11話 ジーニアの情報
ビオダスダールを出て北に向かって進みつつ、早速ジーニアに色々と聞いてみるとしよう。
【不忍神教団】についても気になるが、まずは今回の依頼の目的であるソードホークについて聞いてみようか。
「なぁジーニア。ソードホークって魔物がどんなのか知っているのか? 親指を立てたから、受付嬢さんには尋ねなかったんだが大丈夫だよな?」
「はい。大丈夫です! ソードホークは市場でも結構出回っている魔物でして、丸々一匹そのままで売られていたりもするので見た目も分かります」
「へー。討伐したのを持ってこいとのことだったし、やっぱり食用だったのか」
「食べたこともありますけど、非常に美味しい鳥肉って感じですね。ただ強さやどんな攻撃をしてくるかは分からないんですけど大丈夫ですかね?」
「見た目だけ分かっていてくれれば大丈夫だ。ちなみにサイズはどんなものか分かるか?」
「そこまで大きくないですよ。全長は私の体の半分くらいですかね?」
全長は約八十センチくらいか。
飛行する魔物はニ十メートル越えのドラゴンとやり合っているし、特殊な能力を持っていない限りは楽に討伐できるはず。
市場にも出回っているとのことだし、強さ自体もそこまでではないのだろう。
ただ素早く飛行するとかで、討伐するのが難しいとかではないかと勝手に思っている。
「それぐらいの大きさなら怖がらなくて大丈夫そうだな」
「でも、くちばしが剣のように鋭くなっているんですよ! 滑空してきたソードホークに殺された冒険者が結構いると聞きますし、ソードホークを捌く際に誤ってくちばしを触れてしまい、指を落とした料理人がいるって話も聞いたことがあります」
「そんな鋭いくちばしを持っているのか。背後を取られることだけは注意した方がよさそうだ」
そこまで鋭いとなれば、武器としても使うことができそうだな。
流石にアダマンタートルの甲羅や、ミリオンゴーレムの核よりは柔いと思うが、素材という面でどんなものなのかも楽しみ。
「見た目以外は大体想像できた。いつも情報を任せて悪いな」
「戦闘では頼りっきりですので、私が知っている情報ぐらいいつでも聞いてください!」
「それじゃ言葉に甘えてもう一つ質問させてもらうが、さっき話していた【不忍神教団】って盗賊団について聞いてもいいか?」
「もちろんです! とは言っても、私もそこまで詳しくないですが大丈夫ですか?」
「ああ、俺は名前すら知らなかったからな。軽くでも教えてくれると助かる」
冒険者総出で討伐に向かっているとのことだったし、俺とは何の関係もないだろうが、道中の暇つぶしに話を聞いておきたい。
名前的には盗賊団っぽくない感じがするんだが、その辺りの話も知っていたりするんだろうか。
「さっきも軽く話したと思うんですが、【不忍神教団】は王都を拠点にしている盗賊団なんです。本当に危険な噂しかなくて、王国騎士団の一隊を壊滅させたりとか、Aランク冒険者パーティ【風光明媚】が敗北したって話を聞いたことがあります」
「盗賊団なのに武闘派集団なのか?」
「そうですね。盗賊団っていうより強盗団って感じです。元々は【心救神教団】と名乗っていた小さな宗教組織だったらしいんですけど、ある時から金持ちや貴族だけを狙って盗みを働く義賊的な活動を始めたんです。その時から名前を【不忍神教団】に変えたみたいですね」
「盗賊団っぽくない名前はその名残だったのか。今もやっていることは義賊的な感じなのか?」
「いえ、義賊的なのは最初だけで、今は誰彼構わず盗んでいるって聞きますね。ただ、貧しい人への炊き出し活動を定期的に行っているようで、悪い盗賊団なのに一定の支持は得ているみたいです」
「なるほどな。【不忍神教団】がどんな盗賊団なのか理解できた。あまり詳しくないといっていた割にめちゃくちゃ詳しかったな」
「いえ、曖昧な部分も多いので話半分程度に聞いてくださいね!」
そんな感じでジーニアから色々な話を聞きながら歩いていると、あっという間に北の山岳地帯に辿り着いてしまった。
面白い話も聞きながらだと、時間が過ぎるのがあっという間だな。
村から出て、ビオダスダールまでは一人で暇を持て余していたから、話し相手のいる素晴らしさを身に染みて感じている。
ただ、ここからは気を取り直して、ソードホークのことだけを考えなくてはいけな――気持ちを切り替えようとしたタイミングで、俺は変な気配を察知した。
「ジーニア、少し静かにしていてくれ」
「え? 何か感じ取ったんですか?」
「ああ。多分だけど人間の気配が山岳地帯の奥にあった」
「人間なら冒険者じゃないんでしょうか?」
会話を続けてくるジーニアに人差し指を立てると、可愛らしく両手で自分の口を押さえてくれた。
話し相手がいる素晴らしさを身に染みて感じたばかりだし、ぞんざいに扱いたくはないがまずは安全確保が最優先。
かなり遠いため気配が察知しづらい中、風の流れを読みながら僅かに察知した人間の気配を探る。
…………見つけたが、やっぱりこれは普通ではないな。
「ここからめちゃくちゃ離れているが、数十人の人間が固まって動いている。流石に冒険者ではないよな?」
「数十人ですか? 十数人じゃなくて?」
「最低でも四十人はいると思う。更に奥にもいるとしたら多くて六十人だな」
「絶対に冒険者じゃないですね! でも、こんなところにそんな大人数がいることなんてあるんですか?」
「普通ならありえないから怪しいと俺は思ってる」
「うーん……。山岳地帯に村があるなんて話も聞いたことがありませんし、ありえるとしたら……【不忍神教団】でしょうか?」
俺もうっすらと頭の片隅に過っていたことを、ジーニアも口に出してくれた。
でも受付嬢さんの話によれば、【不忍神教団】の目撃情報があったのはビオダスダールの南であり、現在地とは真逆の方向。
かく乱するために【不忍神教団】が嘘の情報を流したという線もあるが、もう一つ気掛かりなことがある。
それは――察知した気配があまりにも弱いという点。
「俺も真っ先にそのことを考えたが、【不忍神教団】って武闘派の盗賊団なんだよな? その話にしてはあまりにも気配が弱いのが気になる」
「えっ、じゃあ単純に困っている人たちって可能性もあるんですか?」
「そっちの方が可能性としてはあるんじゃないかと俺は思ってる。引き返して冒険者ギルドに報告するか、このまま俺達が助けに行くか。ジーニアが決めていいぞ」
「えっ!? 私が決めるんですか!! うーん……引き返しても街まで一時間以上かかりますし、今は【不忍神教団】の討伐に出ていて街に残っている冒険者の数も少ないですもんね。私達が助けに……行きますか?」
「ジーニアがそう決めたなら異論はない。気配を探ったついでにこの一帯の索敵も行ったが、この山岳地帯も特に強い魔物が見当たらなかったし、見に行くぐらいは簡単にできると思うぞ」
「簡単にできるなら、そのことを先に言ってくださいよ! ……って、ついでにこの一帯の索敵? そんなことが可能なんですか!?」
「そんな難しいことじゃない。ジーニアも慣れればできるようになる」
「えー……。一生かかってもできると思えないんですけど!」
変なところで驚いているジーニアはさておき、見に行くと決めたからには早速人が集まっている場所に行ってみるとしよう。
道中でソードホークがいれば狩り、ついでに依頼の達成も狙う。
気をつける魔物がいないことが分かったこともあり、昨日のようにジーニアに戦闘指南をしつつ向かおうか。
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