第9話 依頼達成


 南東の森を抜け、そのまま無事にビオダスダールの街まで戻って来られた。

 俺はもちろんのこと、ジーニアも怪我のないまま依頼を達成することができたのは良かったな。


「何か……凄い楽しかったです! グレアムさん、ありがとうございました」

「俺の方こそ楽しかった。村を出てからは一人で行動していたから、誰かと一緒に行動するっているのは新鮮だったな」

「私は依頼を達成できた喜びが凄まじいですね! それに、あそこまで魔物と戦えるとは自分でも思っていなかったです! 実はグレアムさんが魔物を弱らせていたとかはないですよね?」

「口は出したが、一切手を出していないぞ。帰り道の敵は全部ジーニア一人で倒した」


 いつでもサポートできる準備はしていたのだが、結局ジーニア一人で倒してしまった。

 ゴブリンは流れ作業で倒せるようになっているし、コボルトやスライム、キラービーなんかの魔物もちゃんと対応して倒せていた。

 やはりジーニアには戦闘の才能があるようで、弱い魔物しかいなかったというのもあるが、中々の戦いっぷりだったと思う。


「早くも戦闘の楽しさに目覚めてしまったかもしれません! 今日の朝までは戦うのが嫌で嫌で仕方なかったはずなんですけどね」

「自分の成長が分かりやすいからな。俺のアドバイスを即座に実行できるし、頑張ればジーニアも強くなれると思う」

「はい! 少しでもグレアムさんに迷惑がかからないように頑張ります!」


 キラキラとした笑顔を見せていて、明らかに朝よりも楽しそうにしてくれている。

 若い子の笑顔を見るだけで、おっさんとしては非常に嬉しい気持ちになるな。


「そうだ、グレアムさん。身体検査待ちの間にグレイトレモンを食べてみませんか? 道中は戦闘に夢中で食べるのを忘れていました!」

「確かにお腹が空いているし、待ち時間に食べるのは丁度良さそうだな。二十個採ってきたし、一人三つずつくらいは食べられるから食べよう」


 俺は鞄からグレイトレモンを二つ取り出し、一つをジーニアに手渡す。

 果物としての大きさはかなりのもので、ジーニアの顔の半分くらいはある。


「これってそのままかぶりついて食べるのか?」

「それでも食べられるとは思いますが、皮を剥いた方が美味しく食べられますよ。この外の皮を剥いてから、中の皮も剥いて果肉部分を食べるんです。――うぅ、甘酸っぱくて美味しい!」


 ジーニアが食べていたのを真似て剥き、グレイトレモンの果肉部分にかぶりつく。

 おお! 鼻に抜けるいい香りで、酸っぱさもあるが甘味も強くて美味しい。

 これは確かにお菓子の良い材料になるだろう。


「これは美味しいな。単体で食べても普通に美味しい」

「ですよね! 私の実家があった街の近くでは簡単に採れたので、小さい時からよく食べていたんです。なんだかお母さんのケーキが食べたくなってきました」

「グレイトレモンでケーキを作ってくれたのか?」

「はい。パウンドケーキって言って、しっとりしたケーキなんですけど本当に美味しいんです! 今度私の実家がある街に行く機会があったら、グレアムさんもぜひ食べてください」

「食べてみたいな。今から楽しみだ」


 そんな会話をしながらグレイトレモンを食べていると、あっという間に俺達の身体検査の番が回ってきた。

 冒険者カードを手にいれたことで簡単に身体検査を終え、そのままの足で冒険者ギルドへと向かう。


 時刻は夕方過ぎであり、冒険者ギルドの前は人で溢れている。

 朝は空いていたからすぐに受付に向かえたが、この時間帯は並ばないといけなそうだな。


「本当に人が凄いですね。人混みは嫌いなんですけど、馬鹿にされないのはいいです」

「俺が見つかったら馬鹿にされてしまうからな。ジーニアには迷惑をかける」

「馬鹿にする奴が悪いんですよ! さっきもいいましたが、グレアムさんもボコボコにしちゃえばいいのに!」

「流石に馬鹿にされたくらいで手は出さない。それより納品するために中で並ぼう」


 依頼の達成報告も受注した時と同じように受付で行うものだと思っていたのだが、納品は納品だけの場所があり、そこでグレイトレモンを十個渡してあっさりと終わってしまった。

 受付嬢さんにグレイトレモンを渡せず、依頼の達成はしたもののあっさり過ぎて消化不良。

 長い時間並ばなくていいのは良かったが、何とも言えない感じで俺とジーニアは外に出た。

 

「初達成なのにあっさりしてましたね」

「おめでとうの一言くらいは言われると勝手に思っていた」

「私もです。……朝の受付嬢さんのところに並ぶべきでしたかね?」

「いや、流石に迷惑なはずだ。とりあえず俺とジーニアだけでも喜ぼう」

「そうですね! それじゃ初めての依頼達成を祝して、お食事会でもしませんか?」

「おお、やりたい――と言いたいところだが、俺は本当に金がないんだ」


 グレイトレモンの依頼で貰った金は銀貨二枚。

 ジーニアと俺で銀貨一枚になってしまう訳で、俺には食事会なんてしている余裕が一切ない。


 昨日のように酒場に泊めてもらうことはできないし、一番安い宿でも恐らく銅貨五枚は持っていかれる。

 そうなると残る金は銅貨五枚だけであり、普通の食事ですらカツカツだからな。


「そういえばお金がなくて、昨日は酒場に泊まったんでしたね。それじゃ今日は私の奢りでどうですか? 壺の弁償しなくてよかったんでお金なら少し余裕があるんです!」

「いや、流石に自分に使ってほしい。……あと単純に二回りぐらい年が離れている女性から奢られるのは心が痛む」

「むむむ。グレアムさんとお食事会をしたかったんですけど……」

「依頼をこなして金を貯めたら必ずやろう。ジーニアも魔物を倒せる自信がついただろうし、もう少し難易度の高い依頼を受ければ金は貯まるはずだしな」

「それもそうですね。残念ですが、今は身の丈にあった生活をしましょうか。私もお金が有り余っている訳じゃないですし」

「ああ、それがいいと思う」


 残念ではあるが、初めての依頼を達成しての食事会はなしと決めた。

 一番下の依頼なら楽にこなせることも分かったし、明日からはガンガン依頼をこなして早いところルーキー冒険者からの脱却を図りたい。

 ただ油断はしないようにし、絶対にジーニアを危険な目に合わせないように気を引き締めてかかる。


「それじゃこの辺りでお別れしましょうか。明日はどこで待ち合わせにしますか?」

「俺が朝に酒場まで迎えに行く。俺の方がまだ泊まるところも決まっていないからな」

「分かりました。お待ちしております! それと……宿が見つからなかったら遠慮なく酒場まで来てください。店長さんには私の方で説得しますので」

「ありがとう。どうしても見つからなかったら助けてもらう」

「はい! 今日は本当にありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

「こちらこそ明日もよろしく頼む」


 こうしてジーニアと別れ、俺は宿探しを始めることにした。

 日は既に落ちており、早いところ見つけないとジーニアの手を借りることになってしまう。

 二回りも年の離れた女性の手は借りたくないと食事会を断っておいて、結局助けてもらう流れだけは避けたいため、なんとしてでも部屋が空いている安宿を見つけるとしよう。

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