第8話 グレイトレモン
「本当に凄すぎますよ! 魔物がどの位置にいるのか完璧に分かるんですね!」
「この森には気配を隠さない魔物しかいないからな。ジーニアは色々なことに驚きすぎだ」
「だって、私達の前が勝手に開けていくようにしか見えないんですもん! これを驚かない方がおかしいですよ!」
既に森の中心部に辿り着いており、魔物も合計五十匹は倒したと思う。
全ての魔物を斬撃を飛ばして殺しており、ジーニアの目線では敵が勝手に倒れているようにしか見えないということもあってか、テンションがおかしなことになっている。
まぁ、森に入る前から少しおかしくなってはいたが。
「それよりもグレイトレモンはまだ見つかっていないのか?」
「ちゃんと探してはいるんですけど見つからないですね。時期じゃないとかあるんでしょうか?」
「その辺りも含めてさっぱり分からない。でも、時期じゃなくて採取できないのであれば依頼は出されないと思うぞ。それに受付嬢さんもおすすめしてこないはず」
「あー、確かにそれはそうですね! もう少し根気よく探して見ましょうか」
それから更にグレイトレモンを探して歩き回ること一時間。
少し開けた場所に出た時にジーニアが指をさしながら叫んだ。
「グレアムさん、見つけました! あの橙色の果物がグレイトレモンです!」
「ここまで見つからないと思っていたら、一気に見つかったな」
グレイトレモンの木はいくつも並んでおり、恐らく視界に入っている分だけでも百個くらいは成っている。
点々としていなかっただけでもありがたいが、できるならもう少し手前に生えていてほしかったな。
この森に大した魔物はいなかったし危険を感じることはなかったが、単純に変わらない風景の中を歩くのが大変だった。
「手前に生えていたものは全て採られていたんですかね? とりあえずこれで依頼達成ですよ! 初めて依頼を達成することができそうで嬉しいです!」
「俺もこれが初めての依頼達成だな。せっかくだし、少し余分に採取するか?」
「いいですね! 私達が食べる分と、受付嬢さんにあげる分も採りましょう。ここまで何もしていませんし、私が木を登って取ってきますね」
「いや、大丈夫だ。枝の部分だけ狙って斬るから、ジーニアは下でキャッチしてくれ」
「えっ! そんな細かいところをピンポイントで狙えるんですか?」
「人に当たったら危ないし、かなり練習したんだよ」
「戦闘中でしか使わない技だと思うのにその気遣いができるのは、流石グレアムさんです!」
俺はジーニアに指示を出して真下に誘導しつつ、グレイトレモンの枝部分を綺麗に斬っていく。
風が吹く度に実が揺れることもあって、道中で倒した相手に行うよりも難易度が高く、この作業は意外に面白い。
一種のゲーム感覚で斬撃を飛ばしてはグレイトレモンの採取を行い、計二十個のグレイトレモンを採ることができた。
依頼関係なしに売ることもできそうだし、もう少し採ることも考えたが……とりあえずこんなものでいいだろう。
「これで依頼は完了だな。あとは無事に冒険者ギルドに持ち帰るだけだ」
「ですね! 受けた依頼全てでてんやわんやしていたので、こんなあっさりとクリアできるなんて夢みたいです!」
「やっぱりパーティを組んだっていうのが大きいんだろうな。俺もジーニアがいてくれて助かった」
「本当ですか? 私、何にも役に立っていないと思うんですが……」
「いや、グレイトレモンを見つけてくれただけでも大きい」
「うーん。そうですけど、グレアムさんに任せっきりで申し訳なさが勝っちゃいます」
「なら、帰り道はジーニアが戦闘をするか?」
俺がそう提案すると、ジーニアの表情が一気に強張った。
この程度の魔物相手ならいつでもサポート可能なため、ジーニアに経験を積ませてあげることができる。
「ほ、本気で言ってます? 私、普通のゴブリンにも負けているんですよ!」
「俺がついているから大丈夫だ。最初は指示も出す。ジーニア、やってみないか?」
「うぅ……。グレアムさんにそう言われたら断れません! ご迷惑をおかけすると思いますが、戦わせてもらいます!」
俺の説得によって覚悟が決まった様子。
ただ覚悟を決めなくとも、この森にいる魔物くらいならジーニアでも余裕で倒せるはず。
問題は緊張だけだと思うが、ミスした時のリカバリーができるように俺が準備していればいいだけだ。
来た道を戻りながら、ジーニアの初戦に丁度良い相手を探していると……右前方からゴブリンの気配を感じ取った。
気配的にまたしても通常種ゴブリンであり、この森は珍しいことに通常種のゴブリンしか存在しないのかもしれない。
「ジーニア、ゴブリンの気配を察知した。大丈夫か? 戦えるか?」
「はい! 戦わせてもらいます!」
短剣を抜き、構えたジーニア。
俺が後ろにいるという安心感があるのか、やる気は十分な割りに無駄な力が入っていないように見える。
「俺が指示を出すから、耳を傾けてくれ」
「分かりました! グレアムさんの指示に従います!」
出てきたゴブリンは土緑色の汚いゴブリン。
前に立つジーニアを見た瞬間に下卑た笑みを見せ、手に持っていた木の棒を振り上げながら考える間もなく襲い掛かってきた。
「ジーニア、動きをしっかりと見るんだ。木の棒を両手で振り上げて、真っすぐ向かってきている。つまり、攻撃のパターンは正面から木の棒を振り下ろすという一択だけ」
「……本当ですね。これだけ攻撃が読めていれば躱すことができます!」
まずは避けることから初めてもらおうとしたのだが、ジーニアはゴブリンの振り下ろし攻撃を楽々躱すと、すれ違いざまに心臓を一突きしてみせた。
心臓を突かれたゴブリンは悲鳴を上げながら倒れ、しばらくして完全に動かなくなった。
「やったー! ゴブリンをあっさりと倒せました!」
「……本当にこのゴブリンに負けたのか? あまりにも楽に倒したからビックリした」
「全部グレアムさんのお陰です! よく見たら隙だらけだったことに気づけましたので!」
あまりにも楽々と討伐したため、俺を持ち上げるためにゴブリンを倒せないフリをしていたのかと思ってしまうほど。
心臓を狙った一撃も良かったし、動きも完璧に見切っていた。
やっぱりジーニアは目が非常に良いようだ。
「アドバイスなんか一言しかしていないけどな」
「その一言が大きかったんですって。これまでは相手のことを見る余裕なんてなかったんですもん! 自分のことだけで精一杯でしたが、相手を見て隙だらけと分かった瞬間に体の固さが取れました!」
「まぁ何にせよ、ゴブリン程度ならジーニアでも倒せると分かった。ここから先は全ての戦闘をジーニアに任せるぞ」
「はい。アドバイスはしっかりとお願いします! ……あと、危険に陥ったら助けてください!」
「その点は大丈夫だ。俺もキッチリとサポートさせてもらう」
ゴブリンを瞬殺できて自信がついたのか、ノリノリで前を歩き始めた。
俺は索敵しつつ、ジーニアに敵のいる位置を教えるだけ。
村にいた時も指導のようなことはしていたが、ここまで手取り足取り教えることはなかったから少し楽しいな。
魔物を倒す度にしっかり成長していくジーニアを見て、指導する楽しさを覚えつつ俺達は南東の森の出口を目指して歩を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます