第5話 パーティ結成
まだ日が昇りきっておらず、真っ暗な中だが——目が覚めてしまった。
四十歳を超えてから睡眠時間が極端に短くなったと思う。
若い時はいくらでも寝ることができたのだが、今は長時間寝ると逆に疲れが溜まる。
そんな身近なところで体の老いを感じつつも、俺は体を動かしてストレッチを開始。
体が温まってきたところで、刀を抜いて実戦に備えた素振りを行う。
もう片腕になって結構な時間が経つが、戦闘面ではどうしても違和感が残っている。
日常生活はもう普通に過ごせるんだが、戦闘は咄嗟の判断を挟むせいで微妙なズレを感じてしまうのだ。
そしてその微妙なズレを感じる度に、ないはずの腕が強く痛む。
俗に言う幻肢痛と呼ばれる現象で、脳が腕がないことに違和感を覚える度に痛みが発症する。
早いところ慣れたいため、幻肢痛が酷くとも毎朝の鍛錬は欠かさない。
「……あれ。グレアムさん、もう起きたていたんですか?」
「悪い、起こしてしまったか?」
「いえ、勝手に目が覚めたんです。朝から鍛錬って凄いですね」
起きてきたのはジーニア。
実はというと昨日は結局泊まる場所が見つからず、ジーニアの好意に甘えて泊めてもらった。
泊めてもらったといっても、ジーニアが働いているエルマ通りの酒場の従業員室のような場所を借りただけ。
ジーニアもここには住み込みで働かせてもらっているらしく、ついでに俺もソファを借りたという感じ。
「日課のようなものだから凄いとかは思ったこともなかった。ジーニアも冒険者なんだよな? 鍛錬とかはしないのか?」
「冒険者といっても、壺の代金を支払うために仕方なくって感じでしたから。本当はお菓子作りがしたくてビオダスダールに来たんです」
「お菓子作り? お菓子って甘いやつか?」
「はい! 小さい頃に食べたお菓子が今でも忘れられなくて、私のような子供を笑顔にしたい――って意気込んでこの街に来たんですけど、街に来た初日に壺を割ってしまいまして……」
「それで冒険者になるしかなかったって感じだったのか」
「はい、そうなんです。持っていたお金はその場で取られてしまって、ここで働き始めたのも住み込みでいいと言ってくれたからなんですよ」
四十二歳にして片腕を失くし、村にいられなくなってビオダスダールに流れ着いた俺も相当だと思っていたが、ジーニアも相当酷い目に合っているな。
夢を追いかけてこの街に来たのに、初日で騙されて有り金を全部奪われた上、白金貨十枚の請求をされていたとは……。
「相当大変だったんだな。俺も中々ハードな一日だと思ってたけど、ジーニアに比べたらなんてことなかった」
「そういえば、グレアムさんは何でビオダスダールの街に来たんですか?」
「つい最近、襲ってきた魔物に腕を食われてしまったんだ。俺がいた村は自給自足をしなくてはいけないほど辺境にあったから、片腕がなくなって農作業がまともにできなくなったら村のみんなの足を引っ張ることになる。だから、四十歳を超えたおっさんだろうが、村を出ざるを得なかったって感じだな」
「…………私よりも大変じゃないですか! グレアムさんも冒険者になるしかなかったんですね」
「そういうことだ。それでパーティのメンバーを探してジーニアの下に来たって流れだな」
互いに互いを憐れむような目で見て、慰めるようにゆっくりと頷き合った。
ただジーニアの場合はもうあいつらに追われることもない訳で、お菓子作りの夢を追うことができる。
パーティに誘うつもりで来たのだが、これだけの不幸話を聞かされた上で夢を語られたら、素直に応援するしかない。
「本当に色々と巻き込んでしまってすいませんでした! そして、助けて頂いて本当にありがとうございます」
「こちらこそ、俺を泊めてくれる交渉をしてくれてありがとう。それじゃ……俺はそろそろ行かせてもらう。この街にはいると思うから、会った時はまたよろしく頼む」
「…………え? 私のことをパーティに誘ってくれないんですか?」
お金を得るためにもパーティメンバーを探さないといけない。
話のキリも良かったし別れの言葉をかけたつもりだったが、ジーニアから思ってもいない返答がきた。
「ん? ジーニアはお菓子作りをするって話じゃなかったか? もう壺の代金で困ることはないんだし、夢を追うのだろうと思って誘わなかったんだが……」
「せっかく冒険者になったんですから、一度くらいは依頼を達成したいと思っていました! それに命の恩人であるグレアムさんが困っているんですから、ここで知らんぷりはできません! まぁでも……役に立つかどうかの保証はできませんが」
「いや、パーティに加わってくれるだけで嬉しいぞ! でも、本当にいいのか?」
「もちろんです! いつかはお菓子作りをしたいですが、人生は色々やった方がお得ですからね! それに冒険者でも子供たちを笑顔にできると思ってますので!」
「それじゃ……今日からよろしく頼む」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
まさかのジーニアがパーティに加わってくれた。
誘う前から諦めていただけに、泣きそうになるぐらい嬉しい。
流石に二回りくらい年の離れたおっさんが急に泣きだしたら怖がらせてしまうため、涙が零れないように必死に堪える。
それにしても、村を出てからも俺は助けられてばかりだな。
良い人たちとの出会いに感謝しつつ、俺は初めての“仲間”ができたことへの感動を噛み締めたのだった。
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