第6話 初めての依頼


 店主さんに泊めてくれたお礼を伝えてから、俺はジーニアと共に酒場を出た。

 ここからの動きだが、二人とはいえパーティを組むことができた訳だし、依頼を受けるといった流れでいいのだろうか。


「ジーニアは依頼を達成したことがないって言っていたが、どんな依頼を受けていたんだ?」

「私が受けていたのはゴブリンの討伐です! ルーキー冒険者が絶対に通る依頼のみたいでしたが、ゴブリンを倒すことができなかったんですよ」


 ゴブリンの討伐か。

 ゴブリンと言っても様々な種類がおり、フーロ村の近くによく現れたのはブラックキャップという種類のゴブリン。


 暗殺を得意とするゴブリンであり、気づかない内に背後を取られていることは多々あった。

 そこにゴブリンエンペラーが加わるとなると、ゴブリンといえど一気に脅威になったことを思い出す。


「どのゴブリンかどうか分からないが、確かにちょっと難しい依頼かもな」

「やっぱりそうだったんですか。無難に薬草採取とかの方がいいんですかね?」

「そっちの方が良かったかもしれないな。ただ、今回は魔物の討伐をしてみたい」

「では、魔物の討伐依頼を受ける方向で行きましょう。受付嬢さんが良い依頼を見繕ってくれると思います!」

「それじゃ決まりだな。冒険者ギルドに行ってみるとしよう」


 そんな会話をしながら冒険者ギルドへとやってきた。

 朝だからか人はそこまでいないのだが、その分俺が目立ってしまって結構な視線を集めてしまっている。


「な、なんか……色々と見られている気がします」

「確実に見られていると思う。おっさんなのにルーキーというのは非常に珍しいらしい。受付嬢さんにも、昨日冒険者になるのを必死に反対された」

「そうだったんですか。私なんかよりも全然強いんですけどね。なんかグレアムさんが馬鹿にされているみたいでムカつきます!」

「事実だし、特に害はないから大丈夫だ。ただしばらく周囲の視線は集まると思う。そこは本当に申し訳ない」


 実際に嫌な注目のされ方をしている。

 嘲笑に近い感じであり、俺に向けられているものではあるがジーニアも良い気分はしないだろう。


「グレアムさんが悪い訳じゃないですから! 気にせず中に行きましょう!」


 ジーニアに引っ張られる形で冒険者ギルドの中に入り、そのまま一直線で受付へと向かう。

 昨日、ジーニアを紹介してくれた受付嬢さんがいたため、俺達は迷わずその受付嬢さんの受付に立った。


「いらっしゃいませ。って、昨日の方ですね! 二人で来てくれたのを見て安心しました」

「俺のことを覚えていてくれたんだな。お陰様で無事にパーティに誘うことができた。紹介してくれて本当にありがとう」

「いえいえ! 私は紹介をさせて頂いただけですので! 無事に勧誘できたみたいで良かったです!」

「最善手を探ってくれた受付嬢さんと、俺なんかのパーティに加わってくれたジーニアのお陰だ。それで早速依頼を受けようと思っているんだが、何か良い依頼を見繕ってもらえるか?」

「もちろんです! 討伐系の依頼か採取系の依頼どちらに致しますか?」

「俺は討伐系が良いと思っているが、受付嬢さんのおすすめはどっちだ?」

「私は採取系をおすすめしたいです。最初ですので、まずは簡単なものから受けてみるのは如何ですか?」


 うーん……。

 俺は討伐系の依頼がいいが、この受付嬢さんに言われたら首を横には振れないな。

 方針がブレブレだけど、まずは採取系の依頼を受けてみようか。


「分かった。採取系の依頼を受けてみることにする。何かおすすめの依頼を紹介してほしい」

「かしこまりました! 今ある中ですと……ムーン草の採取か、グレイトレモンの採取がオススメですね」

「どちらも聞いたことがない名前だな。どこに生えているんだ?」

「ムーン草はこの街から北に進んだところにある山岳地帯で、グレイトレモンは南東にある森に生えています」

「じゃあグレイトレモンの採取の依頼を受けさせてもらう」

「かしこまりました! それではグレイトレモンを十個採取し、納品してください。期限は三日後までですのでお気をつけくださいね」

「色々とありがとう。達成したらまた来させてもらう」

「はい。お待ちしております!」


 笑顔の受付嬢さんに見送られ、俺達は足早に冒険者ギルドを後にした。

 受付嬢さんは非常に良いのだが、冒険者の視線のせいで本当に居心地が悪いからな。


「グレアムさん、採取依頼で良かったんですか?」

「ジーニアを紹介してくれたのもさっきの受付嬢さんだし、確実に俺達のことを思って紹介してくれているから任せておけば問題ない」

「それならいいんですけど、討伐系の依頼を受けたそうにしていましたので気になってしまいました」

「ただジーニア頼りになるかもしれない。採取の依頼じゃ役に立てるか分からないからな。実際にグレイトレモンを知らないし」

「一緒のパーティの仲間なんですから、お互いに助け合えばいいんですよ! グレイトレモンなら私が知っています! お菓子の材料でも使う果物なので」


 グレイトレモンは果物だったのか……。

 俺一人なら、グレイトレモンを探すことができなかったかもしれない。


「ジーニアがいてくれて心強い。その代わり、道中で戦闘なら任せておいてくれ。ある程度の魔物なら戦えると思う」

「あの……一つ気になっていることがあるんですが、グレアムさんの実力ってどれほどのものなんですか? 私はお店での戦いを見て、めちゃくちゃ強いと思ったんですが」


 どれくらいの実力と言われると非常に困る。

 村では一番強かったし、両腕があった時は魔王軍を撃退して、エンシェントドラゴンも単独で倒したからな。

 

 ただ今はエンシェントドラゴンに片腕を持っていかれてしまったし、所詮は小さな村の中で一番強かった程度。

 大きな街で冒険者を目指すとなったら、村で一番強かった奴らが集まるだろうし、俺の実力なんて大して知れているはず。


「村の中では一番強かったぞ。でも、もう年齢も年齢だし、腕も一本失くしてしまった。冒険者の中で中の下くらいはあってほしいと思っているが実際は分からない」

「そうなんですか……。グレアムさんで中の下ってことは、冒険者って化け物の集まりなんですね。成り行きで冒険者になってしまいましたが、大丈夫なのか不安になってきました」

「まぁ何かあっても俺がジーニアを守るから安心してくれ。逃げるくらいの時間は稼ぐ」

「ふふっ、かっこいいですね! 私もグレアムさんの足を引っ張らないように頑張ります!」


 ジーニアは嬉しそうにしてくれたが、口に出してから急に恥ずかしくなってしまった。

 顔が猛烈に熱くなっているのを誤魔化すように、俺は歩く速度を上げて街の入口に向かった。


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