語るは虚言廻し、争うは呉越同舟
道路。
電柱。
歩道橋。
標識。
自販機。
信号。
車両。
その一切が破壊されたり、砕かれたり、真っ二つになっている。
それら全て
元の形を保っているのは殆どなく、生きているのはその場で戦っている4人だけだった。
「少々手荒だが仕方ねぇ⋯⋯!」
風紀委員長である
「風紀委員長!やっぱ納刀からの抜刀だなぁこれ!鞘に納めたらやっべぇの飛んでくるぞぉ!?」
「いやぁ思っていた通りかなりキッツいね!」
全員が全員、それが精一杯の抵抗であり、その状態を崩そうとすれば重症になるであろうと簡単にわかるほどの戦場だった。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
雨霰のように降り注ぐ攻撃を、その両手に持った一対の野太刀で雲を切り裂くように割る。
幽鬼のようにゆぅっくりと動いたかと思えば、瞬きほどの時間で距離を詰められる。
致命的な損傷を確実に与えると言わんばかりのその斬撃を、
通常ならば、その健脚から放たれる一撃は内臓を破裂させるが、今回は彼女の手にしている野太刀で防がれ致命傷にはならなかった。
「っ⋯⋯⋯⋯クッソ!刀をどうにかしないと無理だぞこれ!」
「こっちの攻撃は防がれるか迎撃されてあっちの攻撃は防御に専念することでギリなんとかなるってメチャクチャだよねー!どうにかなんないかなーこれ!?」
「つーか孔空ぁてめえ!本気出すとか言ってたくせしてその体たらくはどうなんだよ!?」
「しょーがないでしょー!?少しの時間さえあればできるんだけどそれすら存在しな⋯⋯い⋯し⋯⋯」
――――――ずるり
ぞわり、と彼女と対面した全員が恐怖を覚える。
背中にぴったりと死神がくっついている。
ぬるり――――――
鯉口が切られると同時に駆け出したのは、全身にキープアウトのテープが巻かれた彼、
彼は全力で疾走し、地面と平行線と言っていいほどの前傾姿勢で駆け出して、刀の柄を掴んだ。
ず――――――
「良し――――――!」
誰もが防げたと、そう思った。
そう思ってしまった。
――――――ぱっ
「⋯⋯⋯⋯は?」
哀れ、彼の決死の妨害は何の意味もなかった。
握っている刀を離して一本だけを握り、その危険な野太刀を納めている鞘の方を掴んですらりと抜かれてしまった。
鍛えられた少女の腕は、満身の力を込められて振られる。
びゅう、と
刀が空気を切り裂く音がその場に鳴り響き、瞬間的な静寂が訪れる。
まるで神事のような厳かで峻厳な雰囲気があったが、その後に起こることを思えばそれは嵐の前の静けさだったと理解できるだろう。
「なっ⋯⋯まずい!」
真っ先に気がついたのは風紀委員長だ。
まるで漫画のコマ割りのような斬撃は、近くのマンションを切断し、腹を両断されたマンションはぐらりと傾き、ゆっくりと三人の影を飲み込んだ。
――――――――――――――――――――
「――――――とでも、語り手の僕はそう語っておけば良いのかな」
戦場から少し離れた物陰で、僕ら三人はドローンの液晶越しにその光景を見ていた。
マンションが倒され、ぶわりと僕の顔を撫でた。
その隣で、不老不死の先輩が満足そうに頷いた。
「上出来ね、暇つぶしにはこの上ないほど出来よ」
褒めているのだろうか、それは。
まぁ、もしも仮に質問したとしてもいつも通りで普段通りの、傲岸不遜な態度で返事が返ってくるのだろうけども。
「それにしても、随分と平常心じゃない。眼の前で知り合いがマンションに潰されたのよ?」
「これくらいでみんなが死ぬんだったら、初遭遇のときに死んでいるだろう?」
「ふうん、信頼してるのね」
「僕は僕自身を信用していないけど、友達のことくらいは信頼してもいいと思っているからね」
「そう、いい関係性ね。羨ましいわ」
そう言って彼女は妬ましそうにため息をひとつ。
「どうも有難う、品内先輩はいないのかい?信頼できて信用できる相手というのは」
「へぇ?もしかして煽っているのかしら?」
睨むというよりも凄む、まるで親族を鏖殺した仇敵でも見つけたかのような視線で僕を射抜いた。
喧嘩腰にもほどがあるだろう先輩、敵意があまりにも高すぎるぞこの人。
「⋯⋯別に、気になっただけだよ。不老不死の信頼できる相手ってのがさ」
「いい度胸ね、でも貴様はもう知っている筈よ。信頼できて信用もできる、手放しで無条件で唯一無二で信じれる大人を」
そう言われて、僕はふと後ろを振り向いた。。
僕の背後には後ろで手を組んで直立不動の特別顧問、
「志賀内さんとはよく会話する間柄ですが、そこまで信用されていたとは嬉しい限りです」
「へぇ、意外な繋がりがあるもんですね」
「そうよ、不老不死でしがない死がない死ねない死ぬつもりなんて毛頭ない人生の先輩である私からの助言よ」
困ったら浩一郎を頼りなさい。
「浩一郎は私達の味方だし、敵に回るだなんて天地がひっくり返ってもしないでしょう?」
「もちろんです、私は生徒の味方ですので」
その言葉は、言葉が少なく口出しをそれほどしない、常に絶妙な距離感にいる彼の、大人のお手本と言える彼の、数少ない本音だった。
思えば、浩一郎さんのことはよく知らない。
特別顧問という立ち位置にいるからか、面倒事を押し付けていることが多いが、たまには労ったほうがいいかもしれない。
だがそんな僕の思考は、品内先輩にかき消された。
「まぁいいわそんなこと。虚言廻し、貴様は語り手の仕事に戻って私の暇つぶしを手伝いなさい」
本来ならば嫌悪感だったりが湧くのだろうが、最早ここまで来ると安心感まで出てくる。
ドローンで彼らの安泰を確認できていない以上、推測で物を語ることになてしまうがいいだろうか。
「別にいいわ、暇つぶしなんだし」
であるならば、仕方あるまい。
頼まれたならば、仕方ない。
空想で物事を語り、妄想で物語を綴ろう。
――――――――――――――――――――
あとがき
次回、
本領発揮です。
多分。
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