傲岸不遜で先輩風を吹き荒らすは不老不死

誰も彼もがこのイカれた登場の仕方に引いている中、品内先輩は微塵も気にする素振りもなく乗り込もうとしてきた。


「まぁいいわ、それより車の中に入れさせなさい。さすがの私でも振り落とされそうよ」


「いや、あの、多分無理です先輩」


4人乗りに6人は流石に許容量を超えるが?


「随分と我儘を言うのね、仕方ないから首ったけの首だけになってあげるわ」


「わかった、僕が悪かった」


流石に風紀委員会に借りている車両を真っ赤に染めるのは不味い。

その風紀委員会の長がすぐ近くにいることも不味い。

⋯⋯後々考えたら、晒し首状態になっても彼女の血潮は時間が逆行するかのように戻ることを思い出した。

だからといって生首を抱えるような真似はしたくないが。


「あら、何が悪かったのかしら?」


「物わかりが悪かったです」


「反省できてるなら十分よ。膝を貸しなさい」


そう言って先輩は僕の膝に無理やり座ろうとしてきた。

その性格は相も変わらず天衣無縫、圧倒的な傲岸不遜ぶりだった。

バカは死んでも治らないとは言うが、この人の場合頭のイカレ具合も治らないらしい。


だがしかしその強行を止める声があった。


「は?そこは私の特等席だが?」


「一回も座らせたことがないんだが?」


そもそも高校の同級生を膝に乗せるという行為は、些かどうかと思う。

いくら僕といえど、僕のような人間といえど、同世代の女の子を膝に乗せるのは少しばかりドギマギしてしまう。

思春期だぞ、こちとら。


「じゃあ予約席ってことにしといてねっ!」


「ねぇ万くん、傲岸不遜な天衣無縫が二人に増えけど助けくれないかな?」


僕は空鳴のことを無視して万くんに助けを求めることにした。


「⋯⋯俺の膝に座っとけ、先輩」


品内先輩の首根っこを、まるで猫のようにひょいと掴んで、万くんは自身の膝に乗せた。

本当にメチャクチャな人だ、この先輩。


「いいことを教えてあげるわ貴様。私は私以外の全てはどうでもいいの、私自身が先輩のように振る舞うことにしか興味がないの」


傍若無人にも程がある。


「まぁいいわ、手を拱かないように手伝いに来たわけだし」


「⋯⋯つまり方万 刀刃の対処のアドバイスをしに来たってこと?」


「そうよ、有り難く思いなさい。歓喜の声を上げて随喜の涙を流すほどにね」


「⋯⋯それほどまでに有用なアドバイスやヒントなんだろうね?先輩」


「さてどうかしら、推理は貴様の得意分野じゃないのかしら?」


得意かと言われれば得意かもねと答えられるが、育ての親である探偵のような並大抵ではない洞察力があるわけではない。

蛙の子は蛙という言葉があるが、そうだとしても僕の洞察力は普通の域を出ない。


僕ができるのは道案内のような作戦を立てるくらいだ。


「あらそう、じゃあいらない?」


「すみませんでした教えて下さい」


「掌返しが早すぎるわ貴様、それがお家芸なの?」


僕の掌返しや態度一つで、友達の生存確率が高まるというのならば、僕はいくらだって土下座をしてやる。

僕は友達と自分を選べと言われたら、友達だと断言できる人間である。

少なくとも、育ての親にはそう育てられたし、僕自身もそれが悪いことだと思っていない。


「殊勝な考えね、気に入ったわ」


「そうかい先輩、じゃあ教えてくれるよなぁ?」


「別にもったいぶる必要もないし教えてあげるわ、風紀委員長的にも重要なことよ。頭を垂れて傾聴なさい」


いつも通りに、傲慢な態度で彼女は僕らの間違いを指摘した。


「彼女、方万 刀刃ほうよろず とうはの能力は







「それが彼女の能力よ」


とんだチート能力よね、品内先輩はそう付け加えてから大きなため息をついた。

不老不死が何を言っているんだ、という野暮な返答はしないでおこう。


僕にはいまいちその恐ろしさがわからないが、どうやら万くんは理解してしまったらしい。


「⋯⋯⋯⋯⋯よりにもよって概念系かよ、当たったら即死なのは変わらないけど、これはかなりキツいな」


「僕からすればなんとなく分かりにくいけれど、つまり防御無視の攻撃って認識であっているよね、万くん?」


「そうだな、恐らくは刀を振ったり納刀からの抜刀といった予備動作はあるだろうがな。少なくとも、そこの規則違反常習犯は平気だろうな」


「まぁ俺ちゃんは何でも切れる能力だとしても、からな。つまり俺ちゃんからすればあんまり関係ないワケ、むしろ有利に働くぜ?ギャハハ」


改めて夕卜くんの規格外さを認識したところで、僕はふと、先程から喋っていない空鳴に目を向けた。

空鳴は腕を組んでうんうんと唸っており、悩ましいと言わんばかり様子だった。


「どうしたのかしら怪奇日食クロスオーバー。貴様まるで、隠している手段を使わざるを得ないみたいな表情よ?」


「⋯⋯⋯⋯ん、まぁ概ねその通りなんだけどさ」


そう空鳴は熟考してから、吹っ切れたような態度で口を開いた。


「まぁ仕方ないよねーこんな状況だしさっ!」


「おいおい、その言い回しだとまるで奥の手があるみたいじゃないか空鳴」


「まさか、その通りなんだよ虚言廻しチェーンメール




怪奇日食クロスオーバー、ちょっとだけ本気を出しちゃおっかなーってね!

―――――――――――――――――――

あとがき

手札は多ければ多い程良くて、手札はできる限り隠した方が対策されないでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る