屁理屈と膏薬とはどこへでも付く
「
その中でも重点的に調べたのが過去の負傷者だ。
万くん曰く、彼女は以前からこの学園で暴れており、見かけたら即死する災害として扱われていた。
しかし過去の負傷者で奇妙だったのが一つだけあった。
「誰一人として方万 刀刃によって殺されていない」
「⋯⋯あー、なるほどなぁ。言われてみれば俺も殺されなかったな、片腕ふっとばされたってのに」
今のは聞かなかったことにしておこう。
「あんなにめちゃくちゃにしておいて、そのような強力な能力を持っている上で暴走しているのに、未だに死人が一人も出ていないのはなぜなのか?はい夕卜くん挙手速かったどうぞ」
「手加減しているから」
「半分正解かな、はい次空鳴」
「能力が弱体化してるとか?」
「⋯⋯ん、その可能性もあるけど僕の推理は違うかな。はい万くんどうぞ」
「挙手してねぇんだが?」
「残念ながら僕はツッコミしてくれる人間がいるなら全力でボケる人間だ、はいどうぞ」
「⋯⋯⋯⋯」
「どうぞ、万くん」
「⋯⋯そもそも暴走していないんだろ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯ファイナルアンサー?
「長ったらしい溜めをやめろその言葉をファイナルアンサーにしてやろうか?」
「すみませんでした、正解です」
あくまでも推理ではあるが、彼女は暴走していない。
少なくとも自暴自棄にはなっている可能性が高いが、多少の自我があると思われる。
「へーぇ?それは一体なんでなのか、説明してくれるかなー?」
「物わかりが悪い質問役ありがとう空鳴」
前提として、方万 刀刃はこの学園の中でも屈指の強者で、その戦闘力は最強と言ってもよいだろう。
風紀委員会ですら抑え込むことすらできずに、放浪と徘徊を許していることが、彼女の戦闘力の証左に他ならない。
相対した者に太刀を振るい、視界に映る障害を真っ二つにする。
遍く災害を一人に集中させたような存在、それが彼女だ。
「そうだな、俺ちゃんですら時間稼ぎがギリってところだろうしな。それで?一体全体どういう疑問が浮かぶんだ?」
「いや、そんなに強いならば吉兆組と手を組む必要はないだろう?」
そんなに強いのならば協力する必要もない、ただ一人で願望装置を探せば良い。
それなのに吉兆組と協力するというのは、些か不思議に思えてならない。
「もしかしたら彼女が優しい性格で、他社奉仕をしたくてたまらない可能性もありますが」
「暴走してんなら話し合いもクソもないんですよね、浩一郎さん」
それにもしも優しさで協力しているなら、暴走もしていないだろう。
協力というのは話し合いをした上で行えるものであって、野生の獣が如く暴れまわっている相手にはできないものだ。
「そもそもの話、資料写真ごとに服装が違うからね」
来ている服のジャンルは似たりよったりだが、日にちによって細部や装飾が違う。
このことから定期的に着替えを行ったり、風呂に入っていると思われる。
まぁどこで入っているとか、どこで着替えているとか、そういったことを考えるのは野暮だろう。
少なくとも、理性があって協力関係を築けるほどに話し合えるということは、僕にとって有利に働く。
「吉兆組と手を組んだ理由は多分、願望装置の居場所を見つけるためだろうなぁ。風紀委員長さんよ?」
「まぁそうだな、
「うん、可能性として斬撃の広域化だろうし、刀自体をどうかすれば可能性は―――――」
その瞬間、車の上から衝撃音がした。
否、衝撃音ではなく破裂音だ。
まるで血の通ったゾンビが遥か上空から飛び降りて、たまたま下にいたこの車に直撃したかのような音だった。
「⋯⋯え、えぇ?なーにこれ⋯⋯?」
車の窓から見える景色が、じわじわと上から真っ赤に染まる。
まるでたちの悪いホラー映画だ。
それも、かなり後味が悪いタイプの。
車内の全員がその鮮血に驚愕していると、滴っている赤が異常な動きをする。
まるで、時間が逆行するかのように血潮が戻っていく。
降っている雨が、唐突に空に登っていくような、非常に奇妙で奇っ怪な光景だ。
だが僕はその光景に見覚えがあって、このような自殺をする人間は一人しか知らなかった。
僕は車の窓を開けて、飛び降り自殺をした先輩に挨拶をする。
「――――昨日ぶりね、
「⋯⋯元気そうですね、品内先輩」
天衣無縫にして傲岸不遜の不老不死、随分とインパクトのある登場をしながら搭乗した我らが先輩。
―――――――――――――――――――
あとがき
不老不死って死なないから自殺が趣味になりそうですよね。
もしくはビル群を合間を飛び交う遊びのやつとか。
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