殺人鬼と不老不死と虚言廻しの卓上談話

カラオケに集まったということもあり、歌って遊ぶのは当然であると言えよう。

以外にもこの中で一番点数が高かったのは札月で、彼はそのことに自慢げな表情だった。

存外、殺人鬼としての性質の目を瞑れば常識的な人物なのかもしれない。

まぁその殺人鬼としての性質が厄介すぎるのだが。


それはさておき、僕がここに来た本懐を果たそうと思う。


「そういえばさ自浄作用」


「どうしたんだ破綻装置」


「最近巷で話題になっているらしい噂話を知ってるかい?」


「もしかして願望装置っていう胡散臭い噂のことか?」


僕は注文したラーメンを啜りながら頷いた。

ラーメンが届いた時には品内先輩の血飛沫で動揺されると思ったが、気がつけば血飛沫や肉片といった一切が、綺麗さっぱり無くなっていた。

酷い手品でも見せられているかのような気分だった。


「まぁ僕も信じているって訳では、いや、この学園だからあってもおかしくはないなぁとは思っているけどさ」


「まぁわからんでもねぇな、それで?どうしてその噂を俺達に話したんだ?」


「⋯⋯舞台裏バックステージって知ってる?」


「えぇ知ってるわ、この学園の問題を解決するとか宣う頭のおかしい部活でしょう?」


「⋯⋯ん、そして特定監視対象生徒が二人もいる部活だね」


「へぇ?随分と詳しいのね、どうして知っているのかしら?」


「その部活に入っているからね」


僕がそういった瞬間、札月が手にしていたフォークを落とした。

部屋には液晶から流れる広告と、金属が転がる音が響いた。

その一瞬だけ、周囲一体が無音になったと誤認してしまうほどの雰囲気に変貌したのである。


「⋯⋯正気かお前?」


「概ね正気だよ、空鳴に入ってくれって頼まれちゃったからね、僕としては身の安全が保証されるなら嬉しいことこの上ないし入部させてもらったってわけさ」


「おま⋯⋯空鳴ってあれか?怪奇日食クロスオーバーか?」


「まぁ、そう呼ばれているらしいね」


「⋯⋯呆れた、今世紀最大の命知らずね」


「失礼な、肝が座っていると言ってほしい。それに彼女は昔なんかやらかしたみたいだけど、今は好奇心旺盛な子どもって感じさ」


「そうだとしても彼女がやらかした犯罪はとんでもないのよ」


「そりゃあ凄いね、ちなみにもう一人外々 夕卜そとがい ゆうぼくという部員がいるんだけど」


「頭おかしいんじゃないの?貴様」


僕はその発言に否定はしなかった。

というよりも、自身が常識や一般的な感性から自覚はある。

生まれたときからか、それとも周囲の環境のせいなのかはわからないしどうでも良いが。


「いい機会だから教えてあげるわ、怪奇日食クロスオーバーのせいで使のよ。一応その前からでも先代の風紀委員長が色々としてたみたいだけれど」


「⋯⋯そこまで言われると、空鳴が何をしたのか気になってくるんだけども」


「単純よ、


⋯⋯それだけ聞いたとしても、非公認部活も暴れるのだから大きなことをしたとは思えないのだが。

確かに、今現在も問題になっている方万 刀刃ほうよろず とうは及び大太刀廻エンキリによる、暫定的に願望装置がある飛大絆区の大規模占領のような事件ならば納得できるが。


「まぁそれはさておき、さっき話した願望装置についてだけど、どう思う?」


願望装置。

あらゆる願いを叶えて、あらゆる悲願を完成させて、あらゆる欲望を成就させる、本来は空想上の概念。


そもそもなぜそんなものを作ったのか、なぜそのような装置を作ろうとしたのか。

もしも叶えて欲しい願いがあるなら、願望装置を作れるほどの技術で叶えれば良いのではないか?


なによりも、願うだけで叶った願望に価値はあるのだろうか。


願望装置を使って夢を叶えるなんて、それはどうあがいてもイカサマのようなものだ。

常日頃から頑張って勉学に励んでいる人間を横目にカンニングをして、百点のテストを取るような感じだ。

ゲームのチートコードのようなもので、どんなボスキャラですら殺してしまうような裏技だ。


「夢に対して一直線の近道を選ぶことの一体何がおかしいのかしら?」


「⋯⋯⋯⋯⋯」


その発言は、僕の発想に一切なかった。

というよりも、意図的に排除していたのかもしれない。


そのような人間がいてほしくないという願望にも近かった。


「だってそうでしょう?夢や野望を叶えるのに手段や道徳を守る必要があるかしら?」


「まぁそうだな、実現が到底不可能な夢を叶えるんだったら俺は願望装置を使うぜ?」


「⋯⋯まぁその願望装置を使おうにも見つかってもいなければ、あるとされる場所は占拠されているんだけどね」


ここで僕の脳内である作戦が思いついた。

それは高校生相手にやるものではなく、情けも容赦もない。


そしてなにより、その作戦は僕があまりやりたくないモノだった。


「⋯⋯ねぇ札月、一つ聞きたいんだけど、人を壊すのってどんな気分なの?」


「⋯⋯ん?そいつはどういうことだ?」


「人を殺した感覚ってどうなのって話じゃないの、よくあるじゃない?殺人をするのが快楽タイプは漫画じゃ珍しくはないわよ」


「あー⋯⋯もしかして人を殺すことに快感を感じるとでも思われてる感じ?なわけねーじゃん、そんなの感じたら変態だし、そんなのがいたら殺人鬼として偽物だろ?」


「殺人鬼風情に真贋なんてあるのかい?」


「殺人鬼風情にも真贋があるんだな、これが」


少なくとも俺はそう思う、札月はそう語った。


「俺が思うに、


「持たないんじゃなくて?」


「そう、


「普通なら殺人なんてのはよほどの感情や目的がないとできない行為だ、例えば復讐だったり戦争だったりな」


だが俺に


「まぁ逆に、をするために殺しているのかもしれねーけどよ」


「鶏が先か、卵が先かみたいな話ね」


多分それは違うと思うが。


どちらにせよ、札月の殺人に大きな意味はないらしい。

そのような人間がいてそのような殺人鬼が生きている。

意味もなく意義もなく意思もなく、人を殺すような鬼がいるという事実。


その事実は僕にとっては、酷く安心できた。

これから行う作戦を心置きなく出来ると確信できた。


「じゃ、そろそろ帰るね。お金はここに置いていくから」


そう言ってから僕は部屋を出ようとしたが、品内先輩の質問によって僕は足を止めることになった。


「⋯⋯何をするつもりかしら、貴様」


その質問に、僕はいやいやながら答えることにした。


「久しぶりに、少し戻ろうかなって」


僕の真っ黒な歴史、黒歴史の中学時代の僕に。


―――――――――――――――――――

あとがき

ここからが虚言廻しの本領発揮です。

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