生き方を決めるということは、死に方を決めるということ
冷笑的な笑みを浮かべながら
「⋯⋯嘘、っていうわけではないんだろうね」
現に僕は、彼女が殺人鬼に殺される光景を見ている。
しかも一回ではなく、二回目だ。
僕の眼の前に座った殺人鬼との初遭遇、あの日に殺されて解体されていた死体と瓜二つ、同一人物と断定していいだろう。
「別に信じれないなら信じなくていいのよ、むしろこんな荒唐無稽な話を信じるほうがおかしいわ」
「いや、今度は不老不死かって驚いているだけだよ。この学園目茶苦茶にも程がない?」
節操なしというか、何でもありというか。
この学園だけで世界のすべてがあると言われても納得できるほどだ。
「へぇ?物わかりがいいわね、そんなに潔いと騙されるわよ」
「この学園に来た時点でもう騙されてるよ」
「もしかしてお前、この学園の実情を知らないで来たのか?」
「親が高校くらい出とけってね、まぁその心はわからないでもないけどさ」
いくら僕のような人間といえど、高校くらいは出たほうが社会的に有利だというのは理解している。
だからといって、このようなしっちゃかめっちゃかな学校を卒業したいとは思いたくはないが。
「⋯⋯そうね、卒業できたらの話だけど」
「その言い振りだと、卒業するには何かしらの試験や試練があるみたいに思ってしまうよ」
「思ってしまう、じゃなくて、実際にあるのよ。性格の悪い人間が作ったとしか思えない質の悪い卒業試験がね」
「へぇ、そりゃ大変だね」
「ずいぶん他人事な言い方じゃない、この大人のエゴが詰まったクソッタレで反吐の出る地獄みたいな学園から出ていきたくないの?」
頬杖をつきながら、こちらを睨むように質問する品内。
「私のことを呼び捨てにするとはいい度胸ね貴様」
「さらっと心を読まないでもらえるかな?というか、それだったらどう呼べばいいんだい」
「先輩と呼びなさい、もしくは先輩をつけなさい」
睨むようにそう言いながら札月の唐揚げを強奪する品内先輩。
さて話を戻そう。
僕はそこまでしてこの学園を糾弾するつもりはないが、概ね同意見だ。
この学園から出ていきたいというところを除けばの話、ではあるが。
「おいおいマジかよお前、実家になんか嫌な記憶でもあるのか?」
「無いね、虐待された記憶もなければ育児放棄された記憶もない」
育ての親は独特の距離感ではあるし個性的ではあるけど、悪人というわけではない。
もしも実家に強制送還されたとしても、僕はなんの躊躇いもなく実家の玄関扉を開けられるだろう。
「というか、それだったら君たちどうなんだい?」
「面白い冗談ね貴様、そんな昔のもの忘れたわ」
品内先輩はそう一笑に付し、冷笑的な態度を崩さなかった。
「一般的な家庭だったなぁ、まぁこんな状態になったから家出するみたいにここに来た訳だが」
その言い回しが、僕は妙に気になった。
まるで生まれた直後は健常者みたいな言い回しで、幼い頃は純粋無垢であるかのような話し方だったものだから。
だからといって、過去を蒸し返すかのように掘り返すような真似はしないけれども。
火を掴む赤子のような真似をするつもりはないし、それで殺されてしまったらたまったものじゃない。
「よく言うわね、そんな気持ち悪い世界観しておいて」
まるで苦虫を噛み潰したかのような、尚且つ他人の吐瀉物を踏んだかのような表情で品内先輩はそう言った。
その顔はまさしく嫌悪感そのものの現れであり、恨み辛みすら介入できない、本能的なものだと思えるほどの表情である。
「⋯⋯意味がわからないけど、少なくとも罵倒されてはいるんだろうね」
「えぇもちろん、私の発言は優しさ2mg希死念慮12kg血肉47kg罵倒2.7tで構成されているわ」
「コミュニケーション能力が欠如しているじゃないか、それに罵倒の割合が多すぎないかい?」
「物理的重みは人生の重みよ、殺人鬼のお友達」
不老不死である品内先輩の人生の重みなんて想像すら難しいけれど、それよりも聞き捨てならない言葉が彼女の発言にはあった。
お友達だって?
おいおい、こんな殺人鬼がお友達だったら僕はこんな場所に居ない。今頃重要参考人として事情聴取を受けているだろう。
もしくは共犯者として牢にぶち込まれているだろう。
いや、殺人鬼は忌み子だから座敷牢かな?
「えぇそうね、確かにこの殺人鬼は紛うことなき忌み子よ」
「それはそうだろうな、俺みたいな稀代で埓外な気違いが疎まれないわけがないもんなぁ?」
「それを踏まえて言うわ、貴様、酷く歪ね。まるで混沌よ」
この殺人鬼と同等かそれ以上にめちゃくちゃだわ、見るに耐えないどころの話じゃないわ。
品内先輩は吐き捨てるかのようにそう言った。
僕としては、普通とは違う心当たりはあるけれどそこまで言われる謂れはないと思っているつもりだ。
「何を言ってるのかしら?そっちの殺人鬼は自ら動く殺戮兵器だけど貴様は違うわ、その世界観を例えるならそうね⋯⋯台風の目が近いわ」
――――――台風の目。
その形容詞は良くも悪くも僕にピッタリだった。
ピッタリだと、思ってしまった。
心当たりもあったし、なによりも納得してしまった。
納得することは理解するよりも重要なことであり、理解せずとも納得してしまえば行動はできる。
むしろ、理解せずに納得して行動すれば良いこともある。
世の中には理解しない方が良い、知らないほうが良いことが多すぎる。
「随分と悲観的で斜に構えた世界観ね、そうやってねじくれた風にしか世界を見れないのかしら?」
「⋯⋯さっきからずいぶんと言ってくれるけどさ、その世界観ってのはなんなんだい?よければ馬鹿みたいに馬鹿馬鹿しい馬鹿である僕に教えてくれるとありがたいんだけどさ」
「自虐的ね、けどまぁいいわ。私は長く生きているから人を見る目だけはあってね、そもそも世界観っていうのは私特有の人生哲学用語であり元々の意味に近い言葉よ、その人の今まで培ってきた常識や理論などをまるっと含めて個人の世界観って呼んでるの。人生を通して作られるフィルターみたいなものね」
「はぁ、なるほど」
人生哲学と哲学はぜんぜん違うと思うが、僕は取り敢えず理解したふりをする。
「それを踏まえて言うならば、貴様の世界はめちゃくちゃよ。はちゃめちゃでしっちゃかめっちゃかでぐちゃぐちゃ、綺麗だと言ったとしても脳みその中には何も残ってないし、好意を伝えられてもするりとすり抜ける。混沌の台風なくせして網みたい⋯⋯あぁいや、台風だから一応あってるわね、台風の目だもの」
台風の目。
そう呼ばれる理由は、周囲に被害を撒き散らしておきながら、のうのうと生きていることだろうか。
それとも、殺人鬼である札月と鏡合わせだからだろうか。
如何せん心当たりが多すぎるあまりどれのことかわからない。
まぁ、だからどうしたという話なのだが。
僕がそうしていつもと変わらない態度で相槌を打った。
というよりも、どこにいたとしても僕の立場や姿勢は変わらないし変えられない。
「まぁつまりはどうでもいいってことなんだろ?」
「御名答だよ、殺人鬼」
僕はそう言ってから、嘲るように笑った。
少なくとも僕はこの立場と姿勢が心地良いからこのままだろう。
一生このまま、変えられないんだろう。
―――――――――――――――――――
あとがき
生き方を変えるのって難しいですからね。
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