身投げした翌日が葬式とは限らない
さて川に身を投げた僕がどうなったのかというと、結論から話せば助かった。
身を投げた翌日、川辺で死にかけているところを風紀委員会の部員が助けてくれたのだ。
どうやら僕が持っていたスマホのGPSを辿って見つけてくれたらしい。
河川の中央に飛び込んでも壊れないとは、とんでもない防水性能だ。
僕は帰るべき家でありながら部室でもある玄関扉を開けた。
「ただいがぁっ!?」
「うわぁぁぁあああんっ!生きてたああああぁぁぁぁっ!」
飛来する空鳴!
着弾地点は僕のみぞおち!
クソっ!目茶苦茶に痛い!
「うわぁぁぁぁぁぁああんっ!なんで生きてるのかよくわからないけどよかったあああぁぁぁっ!」
「っ⋯⋯っぁ⋯⋯⋯」
腹部の鈍痛で動けない上半身裸の僕、に縋り付く空鳴。
なんと奇妙な光景か。
第三者が見れば通報モノである。
僕なら通報する。
「おいおい大丈夫かぁ?いきなり飛んでいきやがった⋯⋯が⋯⋯マジかよ、死んでなかったのかお前」
「僕を、何だと思っているの⋯⋯?というか、空鳴、引っ剥がして⋯⋯」
流石に上半身裸な上にがビショビショで冷え切った体じゃキツイ、いくら夏が近いとはいえキツイ、というか空鳴の涙とか鼻水とかで僕の脇腹がすごいことになっている。べちょべちょである。
「しょうがねぇなぁ⋯⋯」
「うえぇああああぁぁぁん⋯⋯」
「ありがとう、シャワー浴びてくる」
僕は両脇を抱えられながら泣き喚く空鳴の横を通って、衣類を取り出してからシャワーを浴びる。
シャワーを浴びて冷えたからだがぽかぽかになったところでリビングに戻ると、泣き止んだ空鳴、先程まで空鳴を介護していた夕卜くん、そしてなぜか風紀委員長の万くんもいた。
万くんは僕に不思議そうに質問する。
「俺の部下から川辺で死にかけているって連絡があったが、どうやって吉兆組から逃げ切れたんだ?」
「川に身を投げた」
「馬鹿じゃねぇの?てめえ」
「最初は電車の上に着地したけど、そのままだったら追いつかれそうだったからね」
「あっ違ぇこいつ本物の馬鹿だ」
失礼な、必要だからやっただけの行為をそこまで言われる謂れはない。
「普通の人間は思いついてもやらねぇんだよ、一歩間違えたら死ぬからな」
「え、俺ちゃんならやるけど」
「チート能力持ちのてめえは黙ってろ!てめえ物理法則やらなんやらすべて無視できるじゃねぇか!?」
改めて、夕卜くんの規格外さを再認識したところで話を切り替えた。
「ところでさ、なんで万くんはここにいるの?多分だけど飛大絆って戦場になってるから仕事とか大変なんじゃ?」
「そうだなぁ、いち早くでも行きたいところだが如何せん上が命令を下してくれねぇからな、動こうにも動けねぇんだよ」
「お役所仕事って大変だねっ!まぁこっちとしてはそれは有り難かったこともあるんだけどさっ!」
「孔空てめえマジで許さんからな⋯⋯まぁ、今はいいけどよ」
空鳴は僕が来る前に一体何をしていたのやら。
好奇心と恐怖が少し混ざった感情が僕の中で渦巻いていた。
「ま、何もしないのもあれだから俺の知っている情報を
「まぁ、そうだね。超法規的措置が可能な部活らしいから」
詳しいことは未だにわかってはいないが、その権力の強さはそれとなく理解している。
「ところで、あの二刀流の少女って誰?
僕が彼女の詳細を聞こうとした瞬間、全員が口を閉ざした。
口を閉ざした理由は雰囲気で理解する。
恐怖。
恐れや畏怖といった負の感情だ。
その静寂を切り開くように喋ったのは万くんだった。
「⋯⋯特定監視対象生徒」
「へぇ、なにそれ?見るからに碌でもない単語みたいだけど」
「捕縛して旧校舎にぶち込もうとしても想定される被害が甚大な奴らのことを指す生徒のことだ。捕まえようにも捕まえるコストが馬鹿にならなかったり、牢獄に入れてもすぐに脱出するやつとかな」
「捕まえられないけど監視しつつ被害を最小限に抑えるって感じかな?」
「あぁそうだな、俺が知っているのは合計7人」
その通り名が以外の一切が証明されていない
「
そこでジュースを飲んでいる
「
創り手の杜という狂人学者の長
「
そこで菓子を食べている
「
最大規模の非公認部活を率いる吸血鬼
「
最早その強さはマップ兵器扱いされている
「
この学園で唯一万能と呼ばれる超能力者
「
「へぇ、通り名だけでも錚々たるメンバーってわかるね。ところで見知った通り名があるんだけど」
「そりゃそうさ、なにせそいつらが特定監視対象生徒だからな反則使い」
そう言いながらコーヒーを飲みつつ、空鳴と夕卜くんを指さした
空鳴と自慢げな表情で、夕卜くんは平然とジュースを飲んでいた。
まるで特定監視対象生徒ということが自慢かのように。
「つまり
「おう」
マジかよ、退部したくなってきた。
「まぁそれはさておき件の二刀流の抜刀術使いについてだけど、対処法はあるの?」
「「「「ない」」」
完全にタイミングが揃った即答、その返答の速さと一致したという事実は、彼女の強さを如実に表していた。
「だってねぇ、あれ戦闘力とかだったらこの学園随一だよ?」
「多分能力としては斬撃の広域化だろうけどなぁ、如何せん本人の身体能力が馬鹿だ。俺ちゃんみたいな生存特化の能力でようやく対等に渡り合える。ってレベルだ」
「下手な鎖で縛ろうとしても無駄だぜ、なんせ一回捕まえようとしたら建物ごと両断してきやがったからなあいつ」
「そうそう、それに話しかけようとしても有無も言わさず斬ってくるんだから困ったもんだよ。最早徘徊型で通常攻撃が全体即死攻撃のボスエネミーだよね」
その説明は、ゲームを趣味とする僕からすればすごくわかりやすかった。
万くんや夕卜くん、空鳴の発言を要約すれば「出会ったら死ぬ災害のようなもの」と言ったところだろうか。
そんなに強いというのに吉兆組の支援もあるというのが、実にどうしようもない。
勝てる勝てないとかの話ではなく、戦いの土俵にすら上がれないという訳だ。
「ん?それは多分ねぇぞ」
「⋯⋯⋯ふうん、それは一体どういうことだい?」
僕の想定していた悩みを否定した万くんに、その発言の意図を聞くことにした。
「俺の部下である風紀委員の一人が調査に行ったんだけどよ、どうやら吉兆組は全員、方万に裏切られたらしい」
「え、あの子そんな事考えられるの?」
その万くんの発言に空鳴が真っ先に反応し、そして僕は目を丸くした。
人の心がわかると断言するほど傲慢ではないが、それでも彼女が裏切りの選択をするほど理性的には見えなかった。
「まぁとりあえず解散でいいな?俺は風紀委員会の仕事があるから帰らなきゃだし、浩一郎サンともあれこれ話す必要があるからな」
「ん、まぁできることもなさそうだし、ひとまず解散だねっ!」
そう空鳴が言うと、各々のやりたい事やるべきことのために動き出した。
それは僕であっても例外ではなく、僕は今外出の準備のために靴を履こうとしていた。
「あれ、どっか行くつもり?」
「まぁ、すこしふらふらと歩いて行くよ。金属バットも川に流されちゃったしそれもね」
「そっか、気をつけてねっ!」
「うん、昼頃には戻ると思うよ」
僕はそう言ってから玄関の扉を後にして、あの殺人鬼のもとに向かった。
―――――――――――――――――――
あとがき
ようやく殺人鬼の話題に触れられます。
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