意見の相違から先の議論は戦争しかない
「やぁやぁ我こそは吉兆組!唐突だが前を走っている全員!いきなりで悪いが死ぬか消し飛んでくれ!」
吉兆組の戦闘開始宣言は実に大胆だった。
メガホンを片手に窓からの身を乗り出して、大声で宣言したのだから。
「もしくは路肩に車を止めて回れ右をしろ!それだったら許す!」
「⋯⋯無茶苦茶な要望してきたけど、どうする?」
「もちろん止めるわけには行かないさ」
空鳴がそう言い終えたところで、吉兆組の車から大声が聞こえた。
「そろそろ我慢できないので今からぶち殺す!」
その発言と同時に、吉兆組の車両から破裂音がした。
当時は驚いてその音の正体がわからなかったが、後ほど深く考えてみればあの音は音速を超えた音だったのだろう
「っ!?」
唐突に車体全体が大きく揺れた。
その揺れ方は僕達が乗っている車自体が事故を起こしたというわけではなく、事故を起こした車が僕たちの車に衝突したという揺れ方だ。
横を見ればタイヤだけが両断された車がこちらに衝突していた。
「っ、どうしますか!浩一郎さん!」
「孔空さん!この車を侵食してください!」
「もうやってる!でも間に合わない!」
「ならば皆さんの保護を!」
「りょーかいっ!」
空鳴がそういった瞬間、僕達の視界は真っ暗闇に染まった。
ぐにぐにとしたゴム製のような物質、というよりも少し硬めのスライムに全身を包まれているような感覚。それでいて瞼は開けられ呼吸もできるというのが不思議である。
周囲を見渡せば、部員のみんながふよふよと漂っていた。
まるで真っ黒な水を泳いでいるような状況である、だが人物の輪郭だけがはっきりとしている。
「今は地面のアスファルトに潜っているような状態だから安全地帯だよ、多分車の方は⋯⋯だめだろうねっ!」
「ふむ、となると足がなくなりましたね。どうやって帰りましょうか、風紀委員会や医務室には連絡しておきますが」
「それよりあの吉兆組をどうやって対処するかを考えたほうがいいと思うぜ?このまま逃げてもどうせ追いつかれるだろうしな」
「ん、じゃあそういう対処とか頭こねくり回すのが得意そうな
「対処、ねぇ」
空鳴に言われたので僕は考える。
車にぶつかる前に見たのは刀を持った生徒、そしてタイヤを切断された車両がこちらに突撃してきた。
この状況で何よりも不思議なのはタイヤだけが両断されていたということ。
タイヤだけを切断するのはまだ理解できる、車のフレームに割り込むように日本刀を突き刺して切れば良い。
だがそれは止まっている車両ならばという話だ。
まして高速で回転しているはずのタイヤを捻れることなく一瞬にして両断する、難しい計算など僕にはできないが、少なくとも不可能であると推測できる。
「いいなぁ、じゃあどんな能力なら切断できるんだぁ?」
「⋯⋯あのぶつかってきた車両の近くに切断したと思われる人物はいなかった、考えるなら吉兆組の車の人物が原因だと思う」
例えるならば、そう
「遠距離からの斬撃、とか」
僕がそう言うと空鳴は心底楽しそうな声を上げた。
「ん~~~っ!いいねっ!最高の模範解答だよ!」
「褒めてるの?それ」
「もちろん!じゃあそろそろ上がるとする⋯⋯ん?あれ?」
満足そうな声を出してもうすぐ上がろうとしたが、空鳴は直前でその行動を止めて不思議そうな顔をした。
首を傾げてはいないが、困惑はしていた。
「どうしたんですか?」
「んや、なんかさ、誰かがこっちを見ているような気がして」
空鳴がそう言ったので思わず上を、下に潜っているのだからアスファルト表面を見ることになるのだが、それはさておき全員が上を見た。
唐突に、頭上の誰かがボソリとつぶやいた。
――――――ずるり
「⋯⋯っ、まずい!逃げろお前ら!」
ぬるり――――――
「皆さん!私の後ろに!」
ず――――――ぱっ
真っ暗闇の空間が切り開かれるように切断された。
切断された分だけ真っ暗闇の空間がうねり、空中分解のように僕らを引っ掻き回す。
半ば強制的に、僕らは地上に引きずり出されるように這い出た。
周囲を見渡せば先程の景色は一転していた。
「⋯⋯⋯⋯」
無数の切り傷が付けられた横転している車両、人体で例えるならば腹の部分を切断された信号機、通常の刃渡り以上の大きさで真っ二つに両断された車。
まるで台風でも通ったのかと勘違いするほどの災害だった。
「いやはやあはは、すっごい被害だねこれ。公共施設整備科の奴ら過労死するんじゃない?」
「あいつら
「怪我人もいますし、やはり保健室に連絡しておいて正解でしたね」
「この光景見て冷静なの中々イカれてるよ」
見る人によってはトラウマとかがフラッシュバックして発狂しそうな光景だと言うのに、平然と笑っているのはいささかどうかと思う。
まぁ僕も困惑はしているけれど、動揺はしていないのでこの学園に毒されたのかもしれないが。
もしくは、元々の性質か。
そうして僕らが立っていると、スーツを着ているに刀を腰に携えた吉兆組の生徒が複数人現れる。
彼らのうちの一人、リーダーらしき人物が目を丸くしてこちらに話しかけてきた。
「⋯⋯えぇ、マジかよお前ら、なんの冗談だ?」
「残念ながら冗談じゃないんだよねぇこれが、信じられないなら爪を剥がして確かめてみるんだねっ」
「夢かどうかの確認方法にしては残虐過ぎない?」
「悪人である非公認部活の人間なら許されるでしょ?」
正しく悪夢という訳か、実にやかましい。
「で、どうせお前らも願望装置を探してるクチだろ?悪いがそうは問屋が卸さねぇんだわ、できれば回れ右して帰ってもらいたいんだが⋯⋯そうはいかないよなぁ」
「当たり前だろ?わざわざここまで来てんだから情報の一つや二つ貰わなきゃ割に合わねぇよ」
夕卜くんのその発言は正しくそのとおりであった。
少なくとも、車一つ潰されておいてノコノコと帰還するのは心情的にも、そして成果的にも良くはない。
むしろ悪くまである。
吉兆組のリーダーはそう言われたので、大口を開けて哄笑しながら叫んだ。
「そうだよなぁ!なら意見の相違ってことで戦争しかねぇなぁ!」
「だよねっ!さぁ諸君武器を構えよ!戦争の時間である!」
空鳴がまるで試合の開始宣言のように叫んだので、僕は片手に持っている金属バットを強く握りしめた。
相手は日本刀を持った集団、吉兆組。
片やこちら側は真っ黒な液体「
全身にキープアウトのテープを巻き付けた学ランの、
シルエットが針金細工のように見える手足の長い大人、
そして金属バットを片手に持った僕。
はたから見れば喜劇的であったが、僕たちは真剣そのものであった。
正しく、役者のような心持ちであった。
一触即発の雰囲気が立ち込める中、一番最初に動いたのは――――――
――――――吉兆組でも僕達でもなかった。
―――――――――――――――――――
あとがき
ただでさえ更新が遅いのに二作品抱えているせいで更に更新が遅くなっていますね。
申し訳ないです。
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