重苦しい車酔いにヤクは効かない

「車の旅ってなんだか心地良いよね」


がたがた、ゆらゆらとコンクリートで舗装されて道を車が走る。

車中から見える窓からの景色は地方都市にも見える、そのせいでここが海上に浮かぶ孤島であるということ忘れてしまいそうになる。

まるで遠い遠い旅に出るかのような気分だ。


⋯⋯⋯⋯隣で吐いている空鳴さえなければ。


「うぇ⋯⋯⋯おぇぇえ⋯⋯⋯」


「⋯⋯ヒロインじゃなくてゲロインだったのか君、ほら水」


「あぁ⋯⋯サンキュー虚言廻しチェーンメール待って吐きそう出る」


「やめろ僕の膝上で吐こうとするなポリ袋あるからやめろ」


空鳴が吐く寸前で、即座に黒いポリ袋を開けたまま渡せたので僕の服がゲロまみれになることはなかった。


「ぎゃはは、こうして仲良く全員で車に乗っているとまるで家族だな?」


「おっいいねっ!浩一郎が父親かな?」


「だとするなら母親がいないけど」


「片親ってあるじゃん?」


「いきなり複雑な家庭環境になった」


「もしかしたら孤児院とかそういうのかもしれないね」


「さらに複雑にするな」


まぁ、この界冗学園に来ている生徒の大半は複雑な家庭環境が原因でこんな場所に来たのだろうけど。

家庭の問題とは実に難しい質問である、少なくとも日本ではそう簡単に解決できるような問題ではない

たとえ虐待されていたとしてもその子にとってはだし、だからといって虐待されていると理解しても相談できるほど知恵や知識もない。


「なんだか湿っぽくなっちゃったねっ、ここはいっそのこと不幸自慢でもしようか?なんかこう、一周回ってカラッとした雰囲気になるかもだし」


「やめてくれない?」


「じゃあ言い出しっぺの俺ちゃんからするかぁ!」


「やめてくれない?」


「俺ちゃんこと外々 夕卜、両親がムショに入れられている」


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯重っ!


「あはは、そんな不幸自慢ここじゃ脅しにもならないぜ?」


「そんでもって両親がしてた犯罪に加担させられてた」


「加速度的に重くするな」


重い思いを吐露したというのに更に重くするな。

ただでさえ車酔いしている空鳴を吐かせるつもりか?と思ったが隣でヘラヘラ笑っているので平気かもしれない。

実にいい性格をしている。


「そろそろ飛大絆区に入ります、皆々様何かあったときの準備をしてください」


と、浩一郎さんが言った。

周囲の危険を教えてくれたのか、もしくはこのコミカルな陰鬱の話を止めてくれたのか、どちらにしろ有り難いことだ。


僕は近くに立てかけていた金属バットを、空鳴は楽しそうにニヤニヤと笑い、夕卜くんはキープアウトのテープを取り出した。


「⋯⋯夕卜くん、一応聞くけど武器なの?そのテープ」


「あぁ?そりゃ当たり前だろ、なんの意味もなくテープを服に巻き付けまくるとか頭イカれてんじゃねえの?」


自覚はあるんだ、己の姿が変だという。


「これはテープに見えるが弾丸すら弾くぞ、素材は創り手の杜製だが機構は神秘的秘密主義が関わってる。詳しいことはなんにも知らん」


「神秘的秘密主義ってそんなこともしてるんだ」


「あそこはよくわからない部活だからね、多分なんらかの目的はあるんだろうけど不思議な力を使う奴らだねっ!」


と空鳴は楽しそうに語った。まるで戦ったことが楽しかったかのように語った。


「もしかしたら神秘的秘密主義の部員も来るかもしれないね、彼らもやりたいことはあるだろうし」


「だとしたら面倒なことになりそうだなぁ⋯⋯」


この学園に長い事いる空鳴ですら不思議な力というのだから、僕みたいな新参者からしたら本当によくわからない能力かもしれない。

まぁこの学園が変に回りくどいところがあるのは今更だ、かえるの子はかえるというが生みの親より育ての親とも言う。

ならば育てるのに特に影響される学び舎がおかしければ、当然として子どもはおかしくなるだろう。


子供というのは心が未熟だから周囲の環境に感化されやすい。

朱に交われば赤くなるとは言うが、それが幼い子供ならば尚更である。


「⋯⋯⋯⋯ところでさぁ、一つ言いたいんですけど」


「何でしょうか?」


浩一郎さんが反応して、僕は答えた。

バックミラーを指さしながら答えた。


流石になにかの冗談ですよね?」


「虚言廻しさんの目がおかしくなければ現実かと」


「そっかぁ⋯⋯現実かぁ⋯⋯」


刀を使うとかヤクザかなにかか?しかもバッチリこっちを補足している。目が血走っていると言うか、獲物を見つけたかのような感じでこちらに加速している。


「ヤクザというのは正解ですかね、吉兆組という非公認部活です。おそらく彼らも私達と似たような状況でしょう」


それはつまり、彼らも願望装置を追い求めているということ。

ライバルのうちの一人であるということ。

であるならばここらで潰しておこうかと思考を切り替えた途端、追いかけて来ている車からメガホンで拡げられた大きな声が聞こえた。


「やぁやぁ我こそは吉兆組!唐突だが前を走っている全員!いきなりで悪いが死ぬか消し飛んでくれ!」


実に大胆な戦闘開始宣言だった。


―――――――――――――――――――

あとがき

新作を公開したので更新が遅くなるかもです

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