3分間で準備しな

「さて、それじゃあ状況を整理しよっか」


部員の居住区でもある部室、その中央のリビングにある机には数多の書類が散らばっていた。

その机の前に立っている空鳴は、多数の資料が貼られた。ホワイトボードを指差し棒で示す。


「まずはこの、まぁ名付けるならば願望装置かな、これの確保が目的だね」


と、ここで夕卜くんが手を上げた。


「質問、どうしてその願望装置を確保するんだ?」


「他の部活が使用して学園全体に被害を与えないように風紀委員会と共に管理するってのが目的かな」


「で?本音は実際のところはどうなんだ?どうせなにか考えているんだろ?」


「御名答っ!もちろんその利権を風紀委員会と舞台裏バックステージで独占、もしくは管理するのが目的だよ!」


「風紀委員会と、ってのはなんでだぁ?」


「風紀委員会を脅して渡してもらった情報があるからね、歪んでいるとはいえ協力関係さ」


「誰が脅したんだ?もしかして孔空かぁ?」


「そこで素知らぬ顔をしてる虚言廻しチェーンメール


そう言って空鳴はジュースを飲んでいる僕を指さした。


「僕が脅した、といっても僕自体が暴れるって言ったわけじゃないのだけれどもね」


「じゃあなんて言ったんだよお前⋯⋯」


「夕卜くんを暴れさせるぞって言っただけだよ」


「肝が座り過ぎじゃねぇかお前」


「御生憎様、それしか取り柄がないもので」


他に取り柄があるかといえば、特に思いつかない。

まぁそんなことはどうでもいいので脇に置いとこう。


「それで、その願望装置を見つける目処はあるの?風紀委員会から貰った資料にあったりする?」


「一応ね、飛大絆ひだほだ区にはあるって。それと創り手の杜が作り出したと思われるんだけど誰が作ったかは分かんないかな」


「⋯⋯へぇ、創り手の杜ってそんなものすら作れるんだ」


純粋な驚愕と呆れが混じった発言が漏れ出た。

この学園はの技術力がどうなっているのだろうか、とも思った。


しかし飛大絆区もとい飛大絆駅周辺か、舞台裏バックステージの部室は八洲之宮駅だから八駅、日刈ひが仲金なかがね裏樺うらかば、風紀委員会の本部がある葦霧あしきり重御見かさおみ絆甕ほだかめ護臨寺ごりんじ、そして飛大絆ひだほだ

少しばかり遠い距離にある、というか環状線だから下手すれば一番遠い。


「そしてこの願望装置の特性、というか欠点なんだけどね。というものなんだ」


「⋯⋯それ、やばくねぇか?」


「うんやばい、すっごいやばい」


それだけ聞いてみれば何事も起きなさそうな特性だが、はたしてどのような結果が生まれるというのだろうか。

わからないことは質問することが一番だ、僕は手を上げて質問することにした。


「質問いい?」


「はいどうぞ虚言廻しチェーンメール


「如何せん僕にはどれくらいヤバいのかわからないんだけど、説明してもらえる?」


「じゃあ例えばの話だけどさ、もしも世界の破壊とか混乱を願うやつがいたらどうする?」


「⋯⋯そんな生徒が」


いるの?と質問するより速く空鳴に断言される。


「いるんだなこれが、一部の非公認部活は過激な奴らばっかだからね。比喩表現でなく学園丸ごと燃やすとかやりかねない、人殺しだなんて目じゃないだろうさ」


「そんなのがいるんだ、捕まってほしいね」


「というかもうすでにやってる」


「そんなのがいるんだ、この学園おかしいね」


「そしてまだ捕まってなかったりする」


「おい風紀委員会」


いいのかそれで風紀委員会、とんでもない放火魔を放置しているじゃないか。

しかしまぁ風紀委員会はお役所仕事なところがある、部活の申請だけで数日ほど時間が必要だった。

つまり犯罪者一人拘束するのに数々の書類が必要なのだろう。


「それで自由に動ける舞台裏バックステージの僕達が先に手に入れると、でも争い事になりそうだね」


「まぁぶっちゃけ願望装置を手に入れるために争った被害総額の方がヤバそうだけどなぁ?ぎゃはは」


「というか、独占したらどう使うの?無限にお金を手に入れたりとか?」


「やだなぁ虚言廻しチェーンメール、何でも願いが叶うのにわざわざお金を願う必要があるの?欲しいものを願えばその現物がもらえるってのに」


「⋯⋯お前ってよぉ、3つ願いを叶えてやるとか言われたら小賢しい答え方しそうだよな」


「あっはは何言ってるの夕卜、そんな面倒臭いことするわけないじゃん?」


「へぇ、じゃあどうするんだ?」


「殺してでも うばいとる」


「非公認部活くらい過激じゃないか」


⋯⋯まぁすら入学しているのだからやりかねないとは思うけど、それでもこの学園でも殺人はタブー視はされている。

風紀委員会曰く、殺人を行った場合も条件次第で旧校舎に隔離されるとか。

いくらこんな蠱毒みたいな学園とはいえ、そこの区分だけは徹底されているらしい。

まるで頭ごなしに叱りつける大人みたいに。


「それでどうする?今から向かうの?」


「浩一郎が車出してくれるんじゃねえの、あの車妙に頑丈だしな」


そう夕卜くんが言うと、ベランダから声が聞こえた。


「出せますが、おすすめしませんね」


「え、それはどういうこと?」


ベランダにいたのは浩一郎さんだった、どうやら僕たちのじゃまにならない場所にいてくれたらしい。

にしては気遣いの仕方が回りくどいと思う、放任主義というかなんというか。


「あそこの地区は今は危険区域になっていまして、おそらく既に願望装置の居場所が既知のものとなっているせいで複数の非公認部活が入り乱れる乱戦状態になっています。外々さんのような生存に特化している能力ならともかく虚言廻しさんのような人物は危険です」


「⋯⋯ドローンとかで偵察とかは」


「それもおすすめしかねます、通信元を特定されたら襲撃されかねません。孔空さんの怪奇日食クロスオーバーもあくまでも強化や制御ですので、ですよね?」


「うん、まぁ見られる前に自爆とかさせれば話は変わるかもだけどねっ」


となるとやはり自らの足で戦場に赴くことになるしかないのだろう。個人的には行きたくない気持ちが強いが、願望装置を狙っている非公認部活がどのようなものか見たくもある。

好奇心のような、それでいて警戒心のような、楽しさと怯えが混じった感情がある。


「じゃあ決まりだね、これから舞台裏バックステージは現在危険区域となっている飛大絆ひだほだに向かう。よしじゃあ準備しなっ!」


「30秒で?」


「3分間待ってやるっ!」


―――――――――――――――――――

あとがき

リアル事情で更新が遅れました。

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