はじめまして、殺人鬼
初めてそいつに会った瞬間、というより遭ってしまったときは心の底から戦慄した。
半袖のパーカーにズボンという、服装だけならどこにでもいる姿なのに、その周囲だけが違う。
雰囲気だけが違う。
その姿を見た動揺による硬直で、僅かな時間を生み出したのが間違いだった。
一瞬でもあいつに動ける時間を与えてしまったのが間違いだった。
―――その刹那の時間、名乗らないあいつの五体は躍動した。
瞬間的な四肢の脱力、一瞬だけ発生した肉体の脱力。
その脱力はその後に起きる加速―――想像できないほどの速さを生み出すための下準備である。
脱力―――後に加速。
爆発といってもいいほどの―――加速。
炸裂と例えてしまうほどの―――高速。
右手に持った金属バットを振りかぶったまま加速する。
その動作はあらゆる無駄が削がれた、究極にして絶対的なまでの効率的人体破壊。
標的にされているというのに拍手をしたくなるほどに芸術的で効率的だった。
狙うであろう部位は頭に対する一撃、一撃で殺すと言わんばかりの勢いだった。
物と物同士が激しくぶつかった結果の金属音、それと手に感じる痺れ、そして視覚で認識した大きくそれた金属バット。
その三つが揃ったことにより手にした解体ナイフで弾けたと確信した。
「――――――――っ」
その攻撃自体はとてつもない威力というわけでもない。
しかし、金属バットで殴られて怪我をしないやつがどこにいるというのだ。それも全力の力で頭を狙った一撃だ、それを食らって立っているのはよほどの異常者か化け物だ。
「っ―――」
少しだけ息を吸って、こちらも腰に装備した武器であるソードブレイカーを握る。
片手に持ったソードブレイカーは剣をへし折ることを目的に作られた、相手への妨害をメインコンセプトの一品。
されどそれは殺人を行うための武器でしかなく、俺にとってはあらゆる道具が殺人の道具へと変貌するのだから何も変わらない
首を切れば死ぬことは生まれた頃から知っていて、生きているうちに勝手に覚えていった。
それならば狙うのは頸動脈。
致命的で致死的な負傷を与えられる部分。
相手を殺すという殺意を己の内側で固めながらソードブレイカーを振り抜く。
「――――――っ!?」
だが眼の前のそいつはその動きを読んだかのように、一切の迷いなく俺のソードブレイカーを蹴り飛ばした。
それと同時に間合いを取るかのように後ろに飛んで再度金属バットを構える。
カランカランと、金属製のソードブレイカーが地面に転がる音がする。
俺は困惑しつつも眼前のそいつを注視しながら、そいつの正体を断定させる。
一見普通の生徒に思えるが、その根幹部分は全く異なる。
対面した存在が殺人鬼という存在だと理解したと同時に、相対した人物が危険極まりない人物だと感じたと同時に、手にした金属バットで人の頭をフルスイングできる性格。
残虐とも冷酷とも残酷とも違う、正常性と同時に異常性が同居しているような気持ち悪い感覚。
それこそが虚言廻しを自称するあいつの正体であると断定した。
「っ――――――!」
俺は全力で駆け出した。
最高効率よりも速く、最上効率よりも速く、解体用ナイフを下から上に振り抜くようにして逆袈裟斬りを放つ。
俺にこの学園の奴らみたいな必殺技みたいな能力はないし、あったとしてもこんな風に直接戦闘すること自体が珍しい状態だ。
だからこれはただの殺人技術で、ただの殺戮行為だ。
次の瞬間、俺の視界が空を舞った。
駆け出した速度をそのまま回転に変更されて、重力を一瞬だけ忘却させられた。一瞬だけ何が起きたのかわからなかったが、全身から感じる衝撃で推測できた。
俺の全身全霊の突撃に対して、眼の前のそいつも同時に突撃してきた。
しかしそれとは別に確かな手応えがあった、確かに刺したという感覚があった。
そいつの片手に、解体用ナイフが貫通していた。
自身の負傷すら顧みない特攻であれば通常よりも遥かに効率的に人体破壊が行えるだろう。
そいつは倒れた俺の上に馬乗りになって、逆手で持った金属バットを振り上げる。
どうしようがどうなろうがどうしようもない程の一方的状況。
身を捻って相手を吹き飛ばそうにも時間がない。
腕で頭を防御しても両腕をへし折られるだろう。
だが唯一、この状況から拮抗状態に戻せる方法を知っている。
――――――振り下ろされた金属バットは、直前で止まっていた。
幼い頃から触れていたバタフライナイフを即座に取り出して、名乗らないそいつの心臓を、いつでも突き刺せる位置で止めた。
片や頭蓋。
片や心臓。
致命的で致死的なダメージを両者与えられる拮抗状態。
「――――――くく、最高の気分だな?」
「――――――僕はそれほどでもないかな」
俺達二人は立ち上がって服についた汚れを払う、俺は改めて対面し片手を差し出した。
「お前の名前は?」
「他人に名前を聞く時は自分から名乗ってみたらどうだい?」
実に面倒で実にひねくれたやつだ、だからといって同族嫌悪という訳じゃない。
似た者同士だから、類は友を呼ぶのだろう。
「――――じゃあ
数ある呼び方の中で一番気に入ってるからな。頼むぜ、お友達?
―――――――――――――――――――
あとがき
地の文ばっかですねぇ。
でもこういう文を書くのが一番楽しく感じます。
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