宴は踊る、進むことなく、進める必要なく
「というわけで、我らが
「「「かんぱーーーーーい!!」」」
ガチン、とアルミ缶のジュースがぶつかる音が部室に響く。
部室はマンションの少し広い一室のような部屋をしており、ソファやテレビが設置されたありふれた内装だ。
僕達が何をしているかと言うと、端的に言えば部活が公認されたことを祝う宴会をしている。
部活が公認された事により部室を合法的に入手した我々はテンションが変な方向にぶち上がった。
その結果が今現在どんちゃん騒ぎの宴会である。
「いやぁテンション上がるねぇ!私普段の数段テンション上がってるよっ!」
「ぎゃはは!わかるぜぇ?やるべきことがない状況での宴会ほど楽しいもんはねぇよなぁ!」
「まぁ、そうだね」
流石の僕もこのような光景を見れば気分があがるというもの。
こんな気分だったら思わず小躍りしてしまうほどに上機嫌だ。
「映画も借りてきたよ!」
「良いね、一体どんなのを借りてきたんだい?」
「火垂■の墓」
「チョイスどうにかならなかった?」
「もしくはト■ロ」
「チョイスどうにかならなかった?」
例えるならばメトロノームみたいな振り幅をしている。振り幅が0か100しかないのか?
いや、まぁ確かに最初のやつは見たほうがいい映画だろうけど、少なくとも宴会で見る内容じゃないだろう。
「しかたない、配信サイトでも見るか」
「契約してたんだ、というかこの学園内でも契約できるんだ」
「いや今からするところ」
「無計画過ぎない?」
「そりゃ今日思いついて今日決行した宴会だからねっ!」
「ぎゃはは、学生だからできるこの無計画さ嫌いじゃないぜ?」
――――――――――――――――――――
「⋯⋯⋯⋯映画見るの飽きたな!」
「わかる、流石に洋画連続で見るのはキッツいわ」
「映画はエンタメのカロリーが高いからね」
いきなり叫ぶ空鳴とそれに同意する夕卜くん。
しかしまぁだからといって代替えできるような何かがあるわけではない、他の映画やアニメを見るくらいしか思いつかない。
だが流石に映像作品を見るのは疲れたのだ。
「そんなこともあろうかとここにゲーム機が」
「でかした夕卜くん、ちなみにソフトは?」
「乱闘なやつ」
「最高か?」
いやしかしあれだな、3人だとすこし人が少ないな、チーム戦とかできないし。
僕は両腕を組んで少し考える。
「んー⋯⋯浩一郎さんでも呼ぶ?」
「いんや、浩一郎は『どうせなら仲良く学生同士で遊んでください』て言ってどっか言っちゃったから来ないと思うよ」
ふむ、それは困った。まぁこんなこともあろうかと、一応人を呼んでおいたから大丈夫だろう。
それにこのゲームは3人でもできる、別に4人じゃないとできないというわけではない。
と考えていたところで玄関のチャイムが部屋に鳴り響いた。
頭の中で己自身を納得させていたらちょうど来たようだ。
「よう反則使い、呼ばれたから来たがどう状況だぁこ⋯れ⋯⋯は⋯⋯」
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」
僕以外の二人が黙っている中、僕は万くんに挨拶する。
「やぁ万くん、突然の呼び出しでごめんね」
「てめえなぁ、重要な呼び出しだって言うから来たけどよ、何だぁこの状況は?もしかしてこのどんちゃん騒ぎが重要なのかぁ?」
「重要じゃないかもしれないけれど大切ではあるだろう?」
例えるなら、そう。
新築の建物が立ったら餅を投げるアレのようなものだ。こういう儀式に排他的ではない僕は重要と考えるような人間だ。
どんな物事にも順序はある、ただそれが有意義かどうかを考えるのはさておき。
「ちょっと⋯⋯
僕が万くんのお茶を入れようとして立ち上がろうとすると、空鳴が服の端を掴んで不安げな顔で質問してきた。
「もしかして風紀委員長を呼んだの⋯⋯?」
「あぁ、うん、3人だと足りないと思ってね」
「⋯⋯一応言うけど部室は実質的な本部みたいなものだよ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
やべ、やらかした。
「ちょっとぉぉぉおおお!?どうすんのっ!?」
「うん、まぁ、うん」
多分なんとかなる、んじゃない、ですかね?
「⋯⋯⋯⋯一応言っとくけどよぉ、部員が元指名手配犯だとしても公認部活なんだから特にどうこうしねぇ」
「風紀委員会的に良いのかいそれは、いやまぁ僕の失態がなくなるならそれはいいんだけど」
「俺個人としては全然どうでもいいなぁ。それにてめえらの部活は超法規的機関としての側面もあるからな、俺達風紀委員会が動くには色々と面倒なんだよ」
そういって万くんはため息をついて、ゲームのコントローラを手に取った。
どんな役職に就こうが彼も学生、やはり遊ぶ気満々らしい。
「おらとっととやんぞ、今日は風紀委員長を休むことにしたからな」
――――――――――――――――――――
「俺ちゃん復帰ぃ!」
「はい夕卜の復帰阻止」
「あぁぁぁぁああ!」
「おお勇者よ、死んでしまうとはなにごとだ!」
「お前に殺されたんだが?」
「油断してると自分が倒されるよ、ほらこんなふうにね」
「残念だったねぇ
「はいメテオ」
「あぁぁぁぁああ!」
「反則使いてめえもそろそろ残基減らしやがれ!」
「だが断る、はいジャスガからのコンボからのメテオ」
「お前ぇぇぇぇええ!」
和気藹々とした賑やかなゲーム大会はすぐに始まった。
決してお行儀の良い光景とは言えない軽い暴言が飛び交う大会だが、少なくとも学生ということを考慮したら健全な雰囲気ではある。
「あ、飲みもんなくなったわ」
「僕も飲み干したから取りに行ってくる、二人は先やってていいよ」
ちょうど同じタイミングで万くんと僕が飲み物を取りに行く。
ゲームをやっている二人から少し離れて、冷蔵庫を開けたタイミングで万くんが話しかけてきた。
「お前ってさ、ほんとよくわかんねぇ思考回路してるよな」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
神妙といえば神妙と言えるが、その発言はただ単にそう感じたというような言葉だ。
「戦闘に割り込んだと思えば逃げようとしたり、仲良し小好しで話し始めたと思ったら脅してきたり」
やることなすことめちゃくちゃだよ、お前は。そう言ってペットボトルのジュースをコップに注ぐ。
「何より空鳴の手伝いをしているのがわからねぇな?」
「友達だからね」
「友達だからってそこまでやるか?一応言うけどよ、部活ができる前のあいつは犯罪行為すら厭わない最悪の化身みたいな奴だったからな」
まぁ、それはなんとなく想像できていた。
そもそもとして、風紀委員長に追われているのに何も無いだなんてことはない。
ただでさえお役所仕事な風紀委員会なのに、その長である風紀委員長がわざわざ動いているんだ。
それほどのことをしでかしたのだろう。
それまでのことをやったのだろう。
「だがてめえと出会ってから一変してなぁ、だけどてめえはブレーキってキャラじゃねえだろ?」
「うん、少なくとも口では止めるけど強制はしないね」
「そう、だから気になんだよ。てめえが一体何をしたのかをよ」
⋯⋯とくになにもしていない、って言っても信じてくれないだろうなぁ。
僕自身がこの部活でやったことなど特にない。
舌先三寸の虚実を好き放題喋るくらいで、その大半以上は空鳴や浩一郎さんによるものだ。
その成果を『僕の成果』だとほざくほど僕は愚かではない。
恥ずかしがりやであっても、恥知らずではない。
「⋯⋯⋯まぁ、人と馴れ合えば心をも変わることもあるだろうし、空鳴の脳内でなにか思うこともあったんじゃないのかい?」
「⋯⋯そうだろうなぁ、まぁいいか」
万くんはそう言って僕にペットボトルを手渡した。
「ほらよ、てめえのジュース」
「ありがと」
――――――――――――――――――――
あとがき
今回は息抜き回です。
次回からはアクセルかけます、多分。
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