夢オチ

桜盛鉄理/クロモリ440

第1話

 帰宅途中の私のあとを誰かが付けてくる。だがこれが夢だということはなんとなく分かっていた。

 今私が着ているのはセーラー服だ。高校のときの制服はブレザーなのに。そしてあたりの風景は住宅街じゃなくて山道だった。ああ、これは祖母に聞いた昔の田舎の話がベースになっているのだ。だったら私のあとをついてきているのははぐれて迷子になった仔牛だ。そういう笑い話だった……はずだ。

 振り返ったときにそこにいたのは確かに仔牛だったが、その顔は人の赤ちゃんの顔でそいつは一言、『もゥ……』と鳴いたのだった。そう鳴いたのは牛だからなのか赤ちゃんだからなのか……などと考えているうちにそれは熊のように立ち上がった。いや私がそう思うと仔牛は実際に熊になって吠えた。

 そのときふと私の頭に浮かんだのは「熊に背を向けるとヤバい。むしろ抱きついていたほうが助かる確率があがる」というマンガの欄外雑学だった。普段ならそんなことは絶対に無いのだが私はそれを実行したのだった。

 しかしいざ組み付いてみると、熊はまたしても姿を変え、その顔は少し前に別れた男の顔になっていた。甘えてくるときの笑顔にはもう嫌悪感しかなかった。

 期せずして抱き合う形となった私に男はキスを迫ってくる。その男のアゴに私は掌底を横からぶち込んだ。男の口から「ぷひゅっ」と空気が漏れる。それは男の二股がばれてケンカになったときの記憶だった。

 そのまま足をすくって熊を転ばせ、この隙にと反転して走り出す。しかし足が思うように動かない。これも夢ではよくあることだ。頭では理解しているのだが。

 そのとき私の背中に何かが飛びついた。そしてそいつは耳元で『もゥ……』と再び鳴いたのだった……。


 ……自分の部屋で目を覚ました私は階下の台所に行き水道からぬるい水を飲んだ。2階の暑い部屋に戻る気になれず、扇風機をつけて台所で過ごした。そしてあんな夢を見た心当たりを改めて考えてみる。

 夜が明けて朝の支度に起きてきた母に私は中絶せずに産みたいと伝えた……。


「……っていう夢のおかげであたしが生まれたらしいよ?」

 下校途中にキヨミはクラスメイトのチエリにそう話した。

「なかなかヘビーな夢じゃね? っていうか、それが無かったらキヨミ生んで貰えなかったってコトじゃん!」

「ホントだよ! まったくもゥ……」

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夢オチ 桜盛鉄理/クロモリ440 @kuromori4400

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