第16話

ぽつんと取り残され、あまりに呆気ない終わりに呆然としてしまった。


ざわめきが、たくさんの人の気配がする。

隙間から見える道には、多くの人が忙しなく行き来している様が見える。


懐かしいような、言葉にし難い気持ちが胸に溢れた。


「帰ってきた」


言葉にしてみた。それでもどこか、夢を見ていたような感覚が抜けない。


お面はつけたままだった。提灯を持っている。飴もある。靴も濡れてる。


それらは、夢ではなかったことを示すのに充分だった。


ぼんやりとお面を外し、提灯の火を消し、雑踏の中へ足を踏み入れる。


帰ってこれた。


今度は確かな実感が降ってきた。しばらく突っ立っていたら、ポケットの中でものすごい勢いで震える物があった。


「…あっ」


今更ながら、スマホを持っていたことに気がついた。いや、あの世界ではスマホなんて使えなかったんだろうけど。


「……」


画面を見ると、たくさんの不在着信とメールが届いていた。そういえば、どれくらいの時間向こうにいたんだろう。


「…もしもし?」


電話がかかってきたので、とりあえず出てみた。個人的にはさほど仲良くはないと記憶している知人からだった。


『あ、やっと繋がった!お前今までどこにいたんだよ⁉︎』

「今までって、何のこと?」


とりあえずすっとぼけてみる。


『1週間ぐらい音信不通だったんだよ。みんなで心配してたんだ』

「1週間?」


ずっと空が暗くて時間の感覚が狂ってたのか、1週間もいたとは思わなかったな。


「そっか。僕は平気だよ。連絡気づかなくてごめんね」


心配してくれていたんだ。

別にうれしくはないけど少し驚いた。とはいえ、心配するだけなんだろうけど。


「えっと、詳しいことは会ってから話すね。こんな時間までありがとう」

『いや、俺たちの方がたくさんお前に助けられてるからさ、何か困ったりしてたら言えよ。相談ならいつでも待ってるからさ』


相談なら。言葉の綾だろうか。それとも単に捻くれた考えをしているだけなのか。相談するだけならいいけどそれ以上はしないって聞こえた。


それから、少し会話をして電話を切る。


「…おかしい、のかな。これは」


今までは疑問に思うことなどなかった言葉だったんだけど。


「そもそも困ったことっていったら、いっぱいあるな」


少し自分で考えて行動すれば解決するような、わざわざ相談することか?って思うような相談だったり、好きな子のタイプ聞いてきてほしいみたいな頼みだったり。


「あーダメダメダメ」


今爆発したら収拾つかなくなる。元々がありがとうって言われたい自分のためにやっていることだ。だから我慢するんだよ、今までやれてたじゃないか。


無意識に飴を口に入れていた。


「やっぱ、帰ってこなくても良かったかな…」


向こうでだって、ありがとうって言われたし。

そこまで考えて首を振った。僕は死にたいわけじゃない。あの世界は人間には生きていけない場所だった。だから良いんだよ。


「なんて説明しよっかなぁ…」


つい数分前の自分の発言に頭を抱えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る