第15話
「これでどーですか」
「あぁ、良いな。素晴らしい才能を持っているようだな、お前の眷属は」
「えぇ。だからこそ加護の面も任せているもの」
完全に両手足が治って、やはり変な感覚だった。
「さて人間」
お狐様が僕を見た。
「これで帰れるな?」
「はい」
「ならば進め。決して振り返るなよ。こういう類いの話ではよくあるだろう?」
「そうですね、聞いたことあります。魂を取られるとかですか?」
お狐様はふ、と笑った。
「取られるだけで済むとでも?」
「…絶対振り返らないようにします」
「その面と提灯、ちゃんと持っておけよ」
「…?はい」
真ん中の鳥居の方へ歩き出すと、後ろから、
「あなた、ついていってあげなさい」
「えー、何でですか。体治してやったし俺の役目は終わったんじゃないですか?」
「あら、2度も助けておいて手を離すの?手を貸してやったのなら最後まで面倒見なさい」
「…はーい」
といった会話が聞こえてきた。
「ということでついていくことになったよ」
視界の隅に、男が現れる。
「どこまでですか?」
「あんたが無事に辿り着いたら俺はすぐ戻るかな」
「そうですか。鳥居の先って危険なんですか?」
「さぁ?行ったことないから分からないな」
鳥居の先は、水で覆われていた。
ばしゃばしゃと歩くたびに音が聞こえる。足首くらいまでしかないのにとても歩きにくかった。周りには、もう何十年も人が住んでないような荒廃した小さな家屋がいくつか並んでいた。
そういえば、すぐそばに面布をつけた男がいるにも関わらず、もう手足が溶けるようなことはなかった。そのことに安心すると同時に疑問が顔を出す。
「あの」
「何?」
「ここって何ですか?」
「何だろうね?」
はぐらかしたのではなく、男も本当に分かっていないようだった。
「さっきまであんたが通ってきた道なら、やっとしっくりくる説明が思いついたところだけど」
「何ですか?」
「道だよ。世界と世界を繋ぐ。あんたのいた世界と、俺たちのいる世界とかを繋ぐね」
そう言われても、やはりピンとくることはない。
「どう?」
「さっきよりはマシ、ってくらいですかね…」
「…そうか」
少ししょんぼりしていた。
それはそうと、水っていったら確か境界となるんじゃかっただろうか。彼岸と此岸とかって聞いたことあるし、三途の川とかあの世とこの世の境目だったはずだ。
「お、灯籠だ」
男の声に、俯きがちだった顔を少し上げた。
見ると、確かにたくさんの灯籠が流れてきている。見る人によっては幻想的という感想を持ったりもするんだろうけど、残念ながら歩きにくいと思ってしまって、そんな風にしか感じられない自分に少しがっかりもした。
「たぶんそろそろだよ」
「どうして分かるんですか?」
「何となく」
果たして、男の言葉通り見たことのあるようなないような裏路地がいくつも現れた。
「どれを選べばいいんですかね…」
「どれでもいいんじゃない?間違いなくどこかには繋がってるだろうから」
どれでも、と言われても。
そこでふと、1番最初に言われたことを思い出した。
『なるべく真っ直ぐ進んでください』
ついで少女、と呼んでいいのか分からないけど少女に言われたことが脳裏をよぎる。
『正しき道を、あなたはもう知っているわ』
持っている以上を望んではならない。なるべく真っ直ぐ。正しい道。
「決めました」
「そう。どれにする?」
真っ直ぐ、自分の目の前にある道を指差した。
「これにします」
「…そう。いいんじゃない?」
ふ、と笑ったような声が聞こえて、トン、と背中を押された。
「えっ」
思ってもみなかった行動に、されるがままに押されて足を踏み出した。水が消えて、固い地面が足の裏を押し返してきた。
「俺はここまで。あ、その面と提灯はどっかで供養?かな?してもらえよ。そのまま持っててもたぶん碌なことないから」
「え、あ…」
「あー、でも来たくなったらまたおいで」
いや行きたいなーで行けるのかよ、とツッコむ前に地面に転がる。
振り返るよりも、声を出すよりも速く、何かがバタンと閉じてしまった感じがした。
振り返ってみると、そこには裏路地が続いているだけだった。
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