第14話

「ならば進むが良い。真っ直ぐ進め。振り返らずに」

「はい」

「あぁ待て、その前に」


お狐様がパン、と手を叩く。


「その手足、どうにかしなければな」


肩まで溶けて肩甲骨辺りが見えているし、足も股関節辺りまで溶けている。骨だけになったせいでバランスの取り方が変わって、でもそれに慣れてしまったので元に戻ると違和感を感じそうだな。


「ミサキ、できるか?」

「いえ、残念ながらこういったことは苦手です」

「あの」

「何だ?」

「あの人に屋台でたくさん食べ物もらって、食べたら治りましたけど」


男を指差す。


「えっ、俺?いやいやそんな大層なことできないって」

「でも食べ物で治ったのは本当だし…」

「へぇ、あなたが人間にそんなことしてあげるなんて珍しい。かなり気に入っているみたいね」


ブンブンと手を振り、男は否定する。


「いやあの、本当にね、俺はお腹空いてるだろうなーって思って食べ物買ってやっただけですって」

「そうか。ちなみに言うがこの世界の食糧に、人間の体を回復させる効果のあるものはないぞ」

「それってどういうことですか?」

「ふふ、それはね?」


女がスッと指を差す。


「うちの子がそういう効果を付与してあなたにあげたってことよ」

「わざわざ?」

「えぇ。とっても疲れるし私も苦手とする分野なんだけどね」


面布で顔は見えないけど、声からしてとても楽しげに笑っている。

みんなして男を追い詰める。


「思った以上に疲れちゃったからしたくないってところかしら?」

「まぁそんな感じですかね…」

「できないわけではないのだな?」

「…できませんよ?」

「…ほぉ」


お狐様に睨まれて男はサッと視線を逸らす。


「嘘はつくなよって僕に言ったじゃないですか」

「いやそれとこれとは別でだな…」

「僕、こんな姿で帰ったら死ぬと思うんですけど」

「そうだろうなぁ」

「他の方々は苦手らしいですけど」

「うんそうだね…」

「駄目ですか?」


男がたじろいで後退りしていく。その後を、追い詰めるようにじりじりと迫る。


「お願いします」

「うぁーもう!やればいいんだろやれば!」


一応了承はしてくれたようで、がさごそと懐から金平糖の入った瓶を取り出していた。


「それ、作ったんですか?」

「そうだよ。こーいうのは作る手間がかかればかかるほど、込める力の効果も大幅に上がるからね。その分、量を売るための屋台みたいな簡易的な料理よりは効果があるはずだ」


振った瓶からカラカラと軽快な音が聞こえる。


「金平糖はめんどくさかったな。2週間もかかるから」

「そうなんですか」


生憎、お菓子作りなど無縁の人生だったのでどれくらい大変か想像もつかない。


「はい、手、出して」


言われた通りに手を出すと、数粒の金平糖を上に乗せられた。


「これくらいで足りるかな?」


金平糖を隠すように数秒ほど手で覆い、男は言った。


「はい食べてみて」


変わった感じは全くしなかったけど、そんな簡単にできるものなのか?と思いつつも金平糖を口に含む。


至って普通の味だった。甘くておいしい。


「お?」


飴とかは噛んで食べる派なのでぼりぼりと手に乗せられていた金平糖をあっという間に食べ終えると、体に変化が現れた。


「うん、良さそうだな」


見事に両手足が元に戻っていく。若干グロいがそこは目をつぶろう。


「あと2、3粒か?」


再び渡された金平糖を食べた。

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