第11話
「ほら、さっさと立たんか」
振り向くと、やはり先程飴をあげた少女だった。
「あ、ありがとうございました」
「良い良い。あの飴は眷属の物でな、久々に食べたわ。あやつ、私にはくれないくせにいつも甘い匂いを漂わせてる。私が甘いものに目がないことを知ってるのに。力もあるし物を作る才能もあるのに気まぐれ過ぎるのが玉に瑕だな」
どうして、この人は僕を助けてくれたのだろう。
「あぁ、面はそのまま付けておくと良いぞ」
「このお面って、付けていい物だったんですか」
「むしろ付けなきゃお前が死ぬぞ。さっき死にかけたようにな」
思い出して、また体が震えてきた。
「どうして、僕を…?」
「眷属も世話になったようなのでな、今のは飴をくれた分。眷属の分はこれからだ」
まだ助けてくれるというのか?
「あやつの気まぐれのせいでその面の意味も知らないようだしな。迷惑をかけた分もある」
骨だけとなった手を取り、ふ、と笑う。
「あとは単純にお前が気に入った。忠告を受けたばかりというのに私に声をかけてくるようなお前がな」
「え…」
何で知って…と言う前に手を引かれた。
「滅多に周囲と関わらないあやつが珍しくお前の無事を祈ったからな、叶えてやろう」
「な、何を…?」
「お前の言う出口だよ。喜べ、帰れるぞ」
そう言って、手を引っ張り歩き出した。
「すまんな。体が溶けるのは人間にとっては恐怖でしかないのだろうが、こればかりは私にはどうしようもない」
「それは大丈夫ですけど、あの、さっきと話し方が違うような…」
「そうだな。…戻した方が話しやすいかしら?」
「い、いえそんなことは」
慌てたように返事をすると、くすくすと笑われた。
「あの者の言っていることは間違いではないけど、少なくとも私は気にしない。だからそう怯えないで」
手を引かれるがままに脇道へ入り、右へ左へと迷うことなく進んでいく。
「出口って、本当にあるんですか?」
「あるわ。ちゃんと帰してあげるから心配しないで」
「どうして、そこまでしてくれるんですか。僕はそんなに大層なことをした覚えはないのですが…」
んー、と少し考えるような間があいて、それから答えてくれた。
「気まぐれ、かしらね」
「え、っと」
「そういうものだと思っておくのが1番良いと思うわ」
「…そうします」
彼らは人間ではないから、理解できなくて当たり前。この世界に来てよく分かったことだ。
「1つ、助言をしてあげましょう」
「は、はい」
「過ぎた望みは身を滅ぼす。己の持っている以上のものを望んではならない。正しき道を、あなたはもう知っているわ」
「…?」
言っていることがよく分からなかった。
「正解を選ぶことができれば帰れるわよ」
「正解ですか」
「えぇ。頑張ってね」
10分ほど歩き、3本の鳥居が並んだ場所へ出てパッと手を離された。
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